組織風土とはどういう意味か
組織風土とは、組織内で共通認識としてある習慣やルール、考え方、価値観などを指す言葉です。組織風土にはそれぞれの組織によって独自のものがあり、経営者の考えや従業員の日々の業務、人間関係などさまざまな要素で成り立っています。組織風土を理解するために分類すると、組織構造に由来するハード面、人間関係やコミュニケーションなどの見えない要素に由来するソフト面、従業員心理に由来するメンタル面に分けられます。組織風土は3つの要素がそれぞれ影響し合っているため、どれか1つを改革すれば改善するものではありません。
組織風土が影響を及ぼすものの例
組織風土は、企業経営において以下のような影響を与えます。
・従業員の人間関係や行動
・従業員同士や部署間のコミュニケーション
・従業員のモチベーションや仕事への満足度
・従業員エンゲージメント
・各部署の慣習やコンプライアンス意識
・リーダーシップのスタイル
・従業員の自主性や自律性
・組織内の意思決定プロセス
・企業としてのミッション・ビジョン・バリュー
記載したのは一部になりますが、組織風土は他にも多くの影響を及ぼしています。それゆえに、組織風土次第でホワイト企業にもブラック企業にもなりうるといえます。
良い組織風土の特徴
「良い組織風土」とは、具体的にどのようなものを指し、どんな特徴があるのでしょうか。一般的には、部署や従業員間での風通しが良く、従業員が自主的に行動できるようにルール作りがされている状態です。そのような良い組織を形成している企業には、次のような特徴があります。
・経営者のミッション・ビジョン・バリューが従業員に浸透している
・従業員が企業理念に共感できている
・従業員同士のコミュニケーションや連携がスムーズにできている
・部署やチーム単位で目標が共有されており、同じ方向性を向けている
良い組織風土ができていると、組織全体の雰囲気が明るく活性化した状態になります。
企業文化・組織文化・社風などとの違い
組織風土と類似する言葉に、企業文化・組織文化・社風といったものがあります。
それぞれの違いは次の通りです。
言葉 |
意味 |
組織風土 |
組織内・各部署で共通認識としてある習慣やルール、考え方、価値観 |
企業文化 |
企業全体での共通したルールや価値観 |
組織文化 |
組織に属する従業員の行動傾向や価値観 |
社風 |
組織内の雰囲気や空気感、従業員の考え方の傾向 |
組織風土の要素
先ほども述べたとおり、組織風土を構成する要素にはソフト面・ハード面・メンタル面の3種類があります。そぞれどのような要素なのかみていきましょう。
ソフト面の要素
ソフト面とは組織内の人間関係や従業員の価値観、行動、経営者の考えといった目に見えない要素を意味します。基本的に明文化されることはなく、働く一人ひとりの内心に関わるものが多いです。次のようなものが、具体例として当てはまります。
・経営層の影響力
・組織内の慣例やルール
・上司との人間関係
・組織内での共通の価値観
・従業員間のコミュニケーション
・仕事に対するモチベーション
・従業員エンゲージメント
・責任の所在
ソフト面は目に見えないものが多く、組織に所属していても意識せずに働いていることも少なくありません。従業員の意識に根付いた価値観やルールであり、醸成されるまでには多くの時間を要します。そのため、組織風土を改革しようとする際も、ソフト面は一気に変えようとせず、少しずつ変化させていくのが望ましいです。
ハード面の要素
ハード面とは経営理念や企業の組織構造、人事評価制度などのルール・規範のことを意味します。ソフト面との大きな違いは明文化されており、きちんとした定義づけや基準が決められていることです。具体例には次のものがあります。
・経営理念
・MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)
・企業の組織図
・人事制度
・業務マニュアル
・意思決定プロセス
・明文化されたコンプライアンス
・プライバシーポリシー
・就業規則
・年間目標
・経営計画
ハード面は経営陣の考えや価値観によって変化しやすく、短期間で改正できるものがほとんどです。一方で、ハード面はソフト面にも影響を与えるものが多いため、変革によってソフト面に悪い影響が出る可能性もあることに注意が必要です。
メンタル面の要素
メンタル面とは、従業員の心理面を指す要素です。従業員個々の感情が関わってくる要素であり、ソフト面以上に醸成させるには多くの時間と労力がかかります。具体的には次のものがあります。
・組織風土の変化への適応力
・自主性・自律性
・情報共有への意識
・チームで自分の意見を忌憚なく発信できるか
・同調圧力
・チャレンジ精神
・新しいアイデアや業務改善に積極的か
メンタル面は従業員個人の性格や価値観、自己肯定感などの人生経験も大きく影響する要素です。そのため、企業は外発的動機づけを支援するとともに、内発的動機づけによって従業員自身も変化を恐れないことが大切になります。
良い組織風土がもたらすメリット
良い組織風土が醸成できると、企業にどんなメリットをもたらすのか紹介します。
企業の方向性・ビジョンを浸透させられる
良い組織風土をもたらすには、ソフト面・ハード面・メンタル面が充実していなければなりません。 良い組織風土の企業では、ハード面にあたる企業の方向性やビジョンが浸透しやすい状態ができています。
経営者の舵取りに対して、従業員も方向性を理解し、一致団結して目標へと向かってくれます。従業員に方向性とビジョンが浸透していれば、組織内の連携力強化につながるとともに、働きやすい社内環境が作られるでしょう。
従業員同士の人間関係が良くなる
良い組織風土の企業では、組織全体が活性化しており、従業員同士のコミュニケーションも良くなります。そのため従業員の人間関係が改善し、挑戦しやすい雰囲気やチームワーク向上にもつながります。人間関係の悪い職場では従業員がストレスを抱えやすく、離職率も高くなるなど問題が多いです。風通しの良い組織風土を作ることで、従業員同士が信頼関係で結ばれ、高いパフォーマンスを発揮できる環境になるでしょう。
職場環境が改善される
組織風土が良くなるほど人間関係は改善し、職場環境も働きやすくなっていきます。ハード面でいえば就業規則の改善や産休・育休の取得率アップ、ソフト面なら上司との関係性や従業員エンゲージメント(従業員と企業の信頼関係や愛着心)の改善などが見込めます。職場環境は従業員の働きやすさや定着率、生産性に直結する大事な要素です。
優秀な従業員を会社に定着させ、仕事にやりがいをもってもらうためにも良い組織風土が重要となります。
自社を好きな従業員が増える
良い組織風土ができると、自社を好きになる従業員も増えていくでしょう。組織風土が良くなるほど、従業員にとっては働きやすい環境ができあがるからです。従業員同士のコミュニケーションも活性化され、モチベーションを維持しながら働きやすくなります。「自分の仕事が会社に貢献している」という意識も強くなり、従業員エンゲージメントの向上も期待できます。
モチベーションを向上できる
良い組織風土が醸成できると、従業員のモチベーションアップにもつながります。働きやすい環境や人間関係の良い職場では、仕事にも自然とやる気が高まります。企業が良い環境を提供してくれていると感じれば、従業員も働きでそれに応えようとするでしょう。
生産性向上・業績向上が期待できる
良い組織風土の企業では、経営陣のビジョンが全体に浸透し、従業員も高いモチベーションを維持して働くことができます。組織全体が活性化され、生産性の向上と業績の向上に期待がもてます。そして、業績の良い企業では給与アップや待遇改善しやすくなり、さらに従業員のモチベーションアップとなる好循環が生まれるでしょう。
組織風土の改善が求められている理由
組織風土の改善が求められている理由について、4つのポイントを紹介します。
VUCA時代の台頭
近年はVUCA時代と呼ばれており、グローバル化やIT技術の進歩、世界的な気候変動などさまざまな要因によって、数年先も予測が困難な時代となっています。VUCA時代では変化に素早く対応するビジネスモデルが求められており、適応できない企業は次々に淘汰されています。さらにAIの登場によって人の力を使わなくても対応できることも増え、ますます革新的なサービスを求められる環境へと変化しました。これまでのビジネスの常識が根底から覆されようとしており、VUCA時代を生き残るには組織風土の改善が急務となっています。
関連リンク:VUCAとは?VUCA時代を生き抜く企業に必要なこと
市場の変化
顧客意識が変わってきたことにより、市場に変化が生まれていることも組織風土改善の理由になっています。従来の日本製品は、品質重視で魅力を発信してきました。しかし近年のトレンドは品質よりもスピード重視になっており、社会の変化に対応した商品こそ顧客から求められています。そのため、従来のように性能を高めるために長年研究を行い、無事に商品を開発できても、顧客から受け入れられるとは限らなくなりました。 現代は品質とスピードを両立させなければ、市場で生き残るのは難しいということです。組織風土の改善が必要とされるのは、組織内の連携力を強化し、製品開発の過程を効率化することが重要になっているためです。顧客から受け入れられる製品を創造するためにも、組織風土改善は必須課題といえます。
働き方改革
フレックスタイム制やテレワークの導入など、働き方改革が進んでいる点も組織風土改善の理由になっています。これまでのように朝9時出勤、夕方6時退勤というような働き方が当たり前でなくなり、今は個人によるさまざまな働き方が受け入れられています。一方で、多様な働き方は従業員の人間関係を希薄にしやすく、いかに人間関係や部署間の連携を強化していくかが組織の重要な課題です。企業の生産力を高めるには組織風土を改善し、個々の従業員が最大限の力を発揮できる仕組みづくりが求められま
ダイバーシティの浸透
多様な価値観や国籍、ライフスタイルが求められるダイバーシティの浸透も、組織風土改善が求められる要因です。あらゆる人が同じように働くことになるダイバーシティ経営では、不用意に進めると従業員の間で混乱やトラブルが発生しやすくなる場合があります。組織風土改善を進めることで、ダイバーシティを深く理解し、多くの従業員が受け入れやすい環境を作っていくことが必要です。
関連リンク:ダイバーシティとは?意味や使い方、取り組み事例を解説!
組織風土を改革する上でのポイント・注意点
組織風土改革を進めるうえで、どのような注意点・ポイントがあるのかを紹介します。
・組織風土改革には多くの時間がかかる
・悪い組織風土が定着すると問題が起こりやすい
・改革は定期的に評価を行うべき
・ハード面のアプローチから始める
・リーダーから組織風土改革に取り組む
組織風土改革には多くの時間がかかる
組織風土改革を進めるには、要素の抽出から要素毎の改革まで多くの時間が必要です。まず 要素の抽出を進めるには、ソフト面・ハード面・メンタル面の各要素にどのような項目があるか洗い出さなければなりませんさらに各要素の項目をどのように分析するのか、調査方法はどうするのかなども考えるべきです。特に難しいのは、ソフト面とメンタル面の2つです。組織構造に関係するハード面は比較的スムーズに改革できますが、従業員の価値観や心理に関わるソフト面とメンタル面は時間がかかります。要素毎の改革において、組織構造や仕組み、職場環境を改善しても、ソフト面とメンタル面はゆっくりと変化していくものであると理解すべきです。すぐに結果を求めるのではなく、経時的にどのような変化があったか観察していくことが重要です。
悪い組織風土が定着すると問題が起こりやすい
組織風土改革はすべてが良い改革になるとは限らず、中には悪い組織風土が定着することもあります。悪い組織風土が定着すると、個人の生産性やモチベーションが低下し、組織全体に閉塞感が広がる可能性があります。悪い改革の例とは次のようなものです。
・成果主義を強めすぎる
・特定の社員ばかりが選ばれる表彰制度を導入する
・過剰なノルマを課す
・トップダウン式のマネジメント手法を取り入れる
・意思決定プロセスが複雑化している
・責任の所在が不明確なまま
このような悪い組織風土が定着してしまうと、従業員は働きにくさを感じ、気持ちも萎縮してしまいます。一度組織に悪い風土が根付くと簡単には取り払えませんから、改革を行う前に問題がないか発見することが重要です。
改革は定期的に評価を行うべき
組織風土の改革は、一度行ったら終了というものではありません。どの企業でも何年も継続して行い、評価して計画を修正しながら進めています。ハード面の改革だけをとっても、本当に良い組織風土に変化しているか確認しなければ、改革の意味がなくなってしまいます。またソフト面・メンタル面の要素は長年の組織風土に影響を受けるため、定期的に評価しなければ変化が把握できません。最初は1ヵ月、3ヵ月、6ヵ月といった短期間で効果を測定し、どのような変化があったか確認しましょう。そのうえで効果的な施策はそのまま継続し、悪い変化につながるリスクは早期発見・改善するのが理想です。
ハード面のアプローチから始める
組織風土改革においては、改革を進めやすいところからスタートするのが基本です。経営者サイドにとって組織構造やコンプライアンス規則、就業規則、評価制度などは改革を進めやすい部分だからです。経営者から変わる意思を示すことで、従業員の心理的抵抗感を軽減する意図もあります。ここまで述べてきたとおり、ソフト面・メンタル面といった要素は改革をしてもすぐには変わりません。そのためソフト面・メンタル面から改革を進めようとすると、従業員の反発を招きやすく、パフォーマンス低下を招くリスクがあるからです。ただし、ハード面からアプローチする際も注意すべき点があります。組織構造自体が大きく変化する場合は、経営者や各部署の管理者がリーダーシップを発揮し、従業員に役割や指示を与えることです。組織としての仕組み自体が変わる状況において、権限をもたない従業員にできることは限られています。ハード面を改革するなら、リーダーシップを発揮して計画を練り、自ら率先して動ける人材を選抜すべきです。
リーダーから組織風土改革に取り組む
ハード面からのアプローチにも通じる部分ですが、リーダーから組織風土改革に取り組むことも重要です。よくある失敗例として、従業員側にばかり変化を望む一方で、経営者は以前と同じ体制や仕組みを維持するというケースがあります。従業員側からすれば、リーダーが変わろうとしない様子は不満の原因になるでしょう。そのためまずはリーダーから率先して改革に取り組み、従業員の立場に近づくことが大切です。 リーダーが変化する姿勢を見せれば、従業員も組織風土改革に前向きな気持ちになれるはずです。
組織風土の改革事例
組織風土改革の事例を見てみましょう。国内大手飲料メーカーでは「多様な人財と挑戦する風土」をテーマに掲げ、人的資本の「人財」で企業価値の創造と競争優位性の確保を目指しています。従業員の能力を最大限発揮することが継続的な事業の強化になるとの考えからです。人財戦略の基本として「人間性の尊重」を基本理念とし、企業と従業員が対等な関係(イコール・パートナー)であると発信しています。長期経営構想ビジョン2027では、短期戦略と中長期戦略も掲げています。こうした改革の背景には、VUCA時代を支える人財の重要性とステークホルダーとの関係性、多様な価値観に対応した働きがいの創出が課題にあったためです。また、人財戦略と合わせて組織風土の醸成も重点課題としています。そのために社内表彰や留職プログラム制度などの多様な学習機会を提供することで、企業と従業員の結束力を高めています。その結果、2022年の離職率は10.6%、男性育休取得率73%、出産・育児休暇後の復職率93.3%といずれの指標においても高い数値を記録することができました。
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企業の組織風土改善を進めるには、時代の変化にも素早く適応し、組織の生産性を高められる変化へとつなげられる人材の育成が必要です。そのための優秀な人材を定着させるには、従業員にとって働きがいがあり、自分を成長させてくれる場を提供できる企業であることが不可欠です。しかし、多くの企業で「働きがいのある組織とは?」「従業員が定着しない」など、組織風土に関する問題に悩む経営者、人事担当者の方がおられます。そこで組織風土改革の取り組みとして、人材育成に力を入れるならユーキャンがおすすめです。豊富な研修実績と企業事例から、貴社に必要な組織風土改革の基本と人材育成カリキュラムを提供します。
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まとめ
組織風土には、企業の歩んできた歴史・組織そのものの文化が反映されます。良い組織風土とは経営者の理念やビジョンがすみずみまで浸透し、従業員の人間関係が良好で、生産性も高い状態を意味します。しかし 組織風土を醸成するのは一朝一夕では難しく、長期的な計画に基づいて進めなければなりません。 企業課題に果敢に立ち向かい、急速に変化する現代で生き残るためには、旧態依然とした組織風土を変えていく必要があります。良い組織風土を生み出し、組織のパフォーマンスを最大化するとともに、従業員が創造性やアイデアを出しやすい職場環境を目指しましょう。