組織改革とは何か
組織改革とは組織の構造や仕組み全般を見直し、より効率的に改善することです。組織改革の対象は業務システムや人事評価制度、オフィス環境などのハード面と、社員の働き方や意識、組織風土といったソフト面まで幅広くなっています。DXやIT化が社会全体に進む中で、組織内の無駄を省き、効率化することが組織改革の大きな目的です。
組織改革が注目されている背景
組織改革が注目されている背景には、社会状況の変化や技術革新、働き方改革、価値観の変化などさまざまな要因があります。従来の日本では年功序列・終身雇用制が当たり前でしたが、成果主義を導入する企業が増えている点も、組織改革の推進に拍車をかけています。 多くの企業で人材不足が深刻化する中で、生産性を高めていくには組織構造そのものの見直しが必須です。組織改革が注目されるようになったのは、こうした企業意識の変化も関係しているでしょう。
組織改革を行うべきタイミング
会社が組織改革を行うべき4つのタイミングについて、理由とともに解説します。
外部環境が変化したとき
会社が組織改革を行うべきタイミングとして、最初に考えられるのが社会状況が変化したときです。近年の大きな変化でいえば、コロナ禍での働き方改革がわかりやすいでしょう。人との接触を極力避けるため、多くの企業でテレワークが導入されましたが、準備不足の企業は労働生産性が大きく低下しました。このように、外部環境の変化で働き方を変えざるを得ず、組織構造や仕組みをスリム化する必要がある場合は、経営者が判断し、柔軟に対応しなくてはなりません。それ以外にも法制度の変更や技術革新なども関係するため、会社を取り巻く状況に応じた改革を進める必要があります。
業績が悪化したとき
企業が従来の経営方法を続けた結果、業績が悪化したタイミングでも組織改革を行うべきです。 組織改革はハード面・ソフト面の両方を見直し、業務効率化とコスト削減を叶える施策です。経営努力をしても業績が改善しないようなら、現在の会社の仕組みそのものに問題があると考えるべきでしょう。業績を改善するための施策として、組織改革で運営の効率化、コスト削減を図ることをおすすめします。
組織内に変化があったとき
経営者の代替わりや離職者数の増加による業務負担の増加、組織規模の拡大などで変化があったときも組織改革のタイミングです。組織内で大きな変化があって組織改革をするときは、社員のモチベーション低下に注意すべきです。組織改革は大きな変化を起こすものであり、内容によっては一斉退職につながるリスクがあります。社員が組織改革の必要性を理解できるように説明も行いながら、できる限り影響が少なくなるよう配慮しましょう。
新しい経営目標を立てた・変更したとき
新年度になり、新しい経営目標を立てたときや、経営目標を変更したときに進めるのも効果的です。新年度は人事異動や新入社員などで職場環境が大きく変わります。組織内の環境が変化するタイミングに合わせて、組織改革を行うのは合理的といえるでしょう。社員の気持ちも新たになって取り組めるため、組織改革の意識を浸透させやすくなります。
組織改革の目的とは
企業が組織改革を行う際は、主に3つの目的があります。組織改革で意識すべき目的とは何かを紹介します。
企業風土・構造の改善
組織改革を行う目的の1つには、昔ながらの企業風土からの脱却や古い組織構造の改善があります。例えばトップダウン型の意思決定方法を見直し、社員の意見も取り入れた経営方法への変化です。 社員が意見や提案をしやすい環境を作ることで働きやすい環境が整い、離職率低下や生産性の向上につながります。
社員のモチベーションアップ
組織改革で働きやすい環境になると、社員のモチベーションも上がります。働きにくい職場環境は社員のモチベーションを低下させ、生産性低下の原因になります。職場環境を組織全体で改善しようとする動きがあれば、社員は「現場を見てくれている」と感じ、エンゲージメントも高められるでしょう。また働きやすい職場環境は精神的な余裕を生み、社員の成長につながるだけでなく、創造性や発想力も高めてくれます。社員が組織に貢献できているという意識を持てれば、企業業績の改善にも期待が持てます。
業績の向上
業務での役割分担やプロセスを効率化することも、組織改革の目的になります。企業業績が伸び悩んでいるときには、業務の効率化やコスト削減を行うと好転することがあります。業務効率化は社員の業務負担を軽減し、削減した時間を営業や新商品の開発に充てられるでしょう。
組織改革の成功のポイント
企業が組織改革を成功させるには、ソフト面とハード面の両方から取り組む必要があります。それぞれの成功ポイントについて解説します。
ソフト面
企業改革においては、企業風土や社員の意識、社員間の連携といった人的要因(ソフト面)を改革する必要があります。経営層が組織改革を推進しても、企業全体の風土が醸成できていなければ、社員の意識を変えることはできないからです。ソフト面の組織改革を進めるには、研修や教育を進めるとともに、社員同士が連携するためのチャットツールなどを導入する方法があります。また部署を越えて連携するために、運動会や社員旅行といったイベントを活用するのもよいでしょう。風通しの良い企業風土が構築できれば、ソフト面での改革は成功といえます。
ハード面
ハード面(機械、設備などの物理的なものの整備)での組織改革には、組織構造の変更や各種業務プロセスの見直し、評価制度の改善などを進める必要があります。大規模な企業の場合、組織内に複数の部門と部署があり、それぞれが独立していて縦割りのような状態になっていることが多いです。組織体制をスリム化させなければ、業務プロセスが煩雑になり、迅速な業務遂行と意思決定ができなくなります。また組織構造を変化させることから、評価制度も組織構造や社会状況に合わせて改善すべきです。ITツールの導入や社内システムの変更にあたっては、コストも意識しながら組織改革を進めましょう。
組織改革を実施する際に生じる課題
組織改革ではソフト・ハードの両面の施策が必要ですが、実施する際の課題についても理解しておくべきです。どのような課題が生じうるのか紹介します。
反対派が現れる
経営層が組織改革を進めようとしても、ほとんどの企業に反対する人は現れます。変化を好まず、現状維持を望む人がいるのはどの組織でも同じです。特に現状のほうが自分にとって得があり「新しいことに挑戦したくない」と考えている人に反対派が多いようです。組織改革では新しい知識やスキルが必要になることも多く、学び直しが必要になる場合もあることが影響しています。反対派の人には、なぜ組織改革が必要になるのか説明し、改革にどんな目的・メリットがあるのか理解してもらう必要があるでしょう。
業務見直しによる生産性の低下
組織改革で業務プロセスを見直した場合、それまでの進め方から大きく変化します。業務でもこれまでと違う部署間連携が必要になり、上手くコミュニケーションを取れないこともあるでしょう。結果として、組織の生産性が低下する可能性があります。しかし生産性の低下はほとんどのケースで一時的であり、業務プロセスに慣れることで改善していきます。早期に改善するためには、会社側から社員にヒアリングを行い、課題になっているポイントを明確にすることが重要です。
管理職のマネジメントスキル不足
組織改革においては、管理職のマネジメントスキルも欠かせません。しかし従来のやり方が当たり前になっていた管理職の場合、組織改革に対応できず、マネジメントスキルが不足しているおそれがあります。この場合、管理職がマネジメントスキルを高めない限り、組織改革の効果が最大限発揮できません。組織改革を行う際は、同時に管理職向けのマネジメント研修を行う必要があるでしょう。
組織改革を進める上で役立つフレームワーク
組織改革を進めるうえで役立つ2つのフレームワークを紹介します。
マッキンゼーの7S
レームワークです。7Sでは組織をハードとソフトの7Sで分類し、それぞれの要素が影響し合っているとしています。
まずハード(組織構造)のSは次の3つです。
・1.戦略(Strategy):競争優位性と事業の方向性
・2.組織(Structure):組織構造と形態
・3.システム(System):組織内の仕組みと経営、情報管理制度
次にソフト(人的要因)のSは次の4つです。
・4.価値観(Shared Value):共通認識、会社としての価値観
・5.スキル(Skill):組織の能力
・6.人材(Staff):社員の持つ能力
・7.スタイル(Style):組織風土と文化
ハードのSは組織体系に関するものであり、比較的容易に変更できます。課題となるのはソフトのSです。ソフト面は人的要因が大きく、人材の育成とスキルの向上、組織風土の醸成が不可欠です。特に組織風土は組織体制の影響を長年受けており、変更するには長い時間がかかります。また人材の育成についても組織改革を行う前の段階で進める必要があり、事前準備が重要です。 組織改革を進める際は、7Sの内容に基づいて組織としてのあり方を検討する必要があります。
レヴィンの三段階組織変革プロセス
レヴィンの三段階組織変革プロセスは、クルト・レヴィン氏が提唱した変革のモデルです。レヴィンの三段階組織変革プロセスでは、変革には解凍、変革、再凍結の3段階があるとしています。まず、フェーズ1の解凍です。解凍はそれまでの組織の価値観や伝統などを解凍し、新しい組織文化へ変革する準備を進める段階です。フェーズ1では従来の組織文化に対する危機感を内部で共有し、変革への意識を高めることが重要とされています。フェーズ1で注意すべき点として、変革に反対し、現状維持を望む派閥が生まれるということです。変革の勢いと現状維持の抑止力は拮抗するため、変化に対する不安を緩和していく施策が求められるとしています。
次のフェーズ2が変革です。
フェーズ2では新しい取り組みを学び、習得するためのプロセスです。フェーズ1で変革への認識を共有できたとしても、実際に運用できなければ社員のモチベーションは低下します。そこでフェーズ2は組織内の雰囲気を加味しつつ、社員に新しいやり方を覚えてもらうことを重視しています。フェーズ2を進めるには研修やワークショップなどを用い、社員の価値観や考え方を少しずつ変容しなければなりません。
最後にフェーズ3の再凍結です。
フェーズ2で学んだやり方や新しい価値観を固定化し、維持していくために慣習として凍結する段階です。新しいやり方は最初こそ戸惑いと反対も生まれますが、慣習になることで不満も収まっていきます。フェーズ3では会社の指示で仕方なくやるのではなく、社員が組織改革の手応えを感じてもらうことに意味があります。自ら手応えを感じ、納得して業務を進めることで、新しいやり方が習慣として定着していくという考え方です。レヴィンの三段階組織変革プロセスに基づき、コッターの八段階組織変革プロセスというものもあるため、組織改革のフレームワークとして有効活用してください。
組織改革の成功事例
組織改革に成功した企業の事例を2つ紹介します。
トヨタ自動車
トヨタ自動車(株)では、2000年代頃から販売台数の増加に反比例するように、人材育成が進まないという課題がありました。急激な生産台数の増加に伴い人材育成が伸び悩み、従来の企業風土であった教育スタイルがうまく機能しなくなったせいです。加えて2000年代後半からはリーマンショック、リコール事件、東日本大震災などの影響を立て続けに受け、一時期は業績が低迷しました。この状況を打破したのが、2014年に豊田章男氏が行った教育の組織改革です。 若手・中堅社員を指導者として、新入社員と1on1で指導と相談を行う仕組みを作りました。他にも革新技術への理解や世代間でのギャップといった問題を乗り越えながら、現在の人材育成システムを確立しました。その結果、2023年には世界の自動車シェアの第1位となり、復活を果たしています。
富士通
富士通(株)は2020年に「全社変革」を掲げ、人起点の組織改革をスタートしました。
組織改革の有効な手段として、4X思考を用いています。4X思考とは、DXに基づいて「人・組織の変革(EX)」「オペレーションの変革(OX)」「マネジメントの変革(MX)」「事業の変革(CX)」の4つを柱としたものです。その中でも特に重要となったのが、変革を体現する「人」です。富士通(株)は、社員一人ひとりがパーパスを持つ「パーパスカービング」を進めました。そして富士通(株)のパーパスと個人のパーパスを関連付けることで、社員の意識に変革を起こすことで組織変革に成功しました。社員の意識が変化したことで、社内の研修やDXイベントでは大幅に参加者が増え、一人ひとりに当事者意識を持たせることに成功しています。2024年の時点でも全社変革は進行形で、企業・社員・顧客の三方良しを目指して取り組みが進んでいます。
人材育成ならユーキャン
組織改革で生産性の向上、組織風土の改善を推進するなら、ユーキャンにご相談ください。ユーキャンは組織改革を実行できる人材を育成し、企業の抱える課題解決をバックアップいたします。組織改革に必要な知識やスキルを学ぶには、専門的な知識とノウハウが必要です。改革を進めるうえで課題になりやすいポイント、成功例・失敗例も紹介しながら、成功へ導くための要点を指導します。社内の意識改革と時代に合った組織構造への変革を急ぐなら、ユーキャンの人材育成サービスをご活用ください。
まとめ
組織改革について、進めるべきタイミングや目的、成功のポイント、推進する際の課題などを解説しました。企業を取り巻く社会環境は常に変化しており、組織も時代に合わせて体制や制度をアップデートする必要があります。しかし急激な変化は組織内での反発を生みやすいため、反対する人の気持ちも理解しながら、着実に進めなければなりません。
業績の伸び悩みや外部環境の変化を強く感じたときは、組織改革を進めるべきタイミングです。 組織変革には多くのメリットがあり、企業が成長するためには必要な施策です。自社の業種や形態に合った変革を行い、社会に対して責任を果たせる会社を作りましょう。