コアコンピタンスとは何か?
コアコンピタンスとは、企業が持つ独自の強みや武器、他社には真似できない重要な能力のことです。コアコンピタンスによって市場における優位性につながり、顧客に対して企業独自の価値を提供できることになります。 そして、コアコンピタンスには3つの特徴があるとされます。それは「独自の価値」「競争上の優位性」「成長基盤」です。企業にとって独自の価値を持つということは顧客へのアピールとなり、他社との競争においても優位性を保つことになります。加えて、コアコンピタンスは1つの事業分野や製品に限らず、他のサービスや商品とも連携することで成長基盤にすることも可能です。こうした理由から、コアコンピタンスは企業にとって重要な要素といえるでしょう。
コアコンピタンスとケイパビリティの違い
コアコンピタンスと類似するビジネス用語に「ケイパビリティ」があります。どちらも独自の技術力として企業の核となるものですが、それぞれ意味するところが違っています。
ケイパビリティの意味
ケイパビリティとは、企業の業務やプロジェクト遂行に際し、目標達成のために必要な能力および資源のことを指します。 企業ケイパビリティの例として、組織独自のスキル・知識、業務プロセス、技術力、資産などが挙げられます。ケイパビリティは企業が顧客に対して提供する価値であり、市場における競争優位性を維持する基盤としても重要です。またケイパビリティは社会の変化や市場のトレンドに対応し、その時々での柔軟性と適応力にも関係する要素とされています。そのため企業がケイパビリティを高めることは、他社との差別化を図り、競争での優位性の確保と経営戦略における目標達成へと近づくための施策となるでしょう。
「コアコンピタンス」と「ケイパビリティ」の違い
コアコンピタンスは企業独自の強みや価値、市場競争における優位性のことですが、ケイパビリティはコアコンピタンスを支える基盤のことです。つまりコアコンピタンスはケイパビリティの集合体であり、企業の価値を高めるための能力全般を指します。
「コアコンピタンス」と「ケイパビリティ」の関係性
企業独自の優位性であるコアコンピタンスも、企業独自のスキルであるケイパビリティもどちらも企業には欠かせないものであり、互いに深い関係があります。トヨタ自動車を例にするなら、トヨタのコアコンピタンスである生産管理技術は、在庫管理や品質管理、課題解決能力などケイパビリティによって支えられています。逆にいえば、ケイパビリティが脆弱ならコアコンピタンスも脆弱になるという相互関係の下にあります。そのため企業にとってのコアコンピタンスの発展はケイパビリティの発展であり、どちらも欠かせない要素といえるでしょう。
インサイド・アウト戦略によるコアコンピタンス経営とは?
インサイド・アウト戦略は、企業内部のリソースを元にして、市場(外部)へとアプローチする戦略のことです。 企業内部のコアコンピタンスを分析し、その結果に基づいて競争優位性を高める手法です。
アウトサイド・イン戦略とインサイド・アウト戦略の違い
アウトサイド・イン戦略とは、市場や顧客のニーズ、外部環境の変化に基づいて経営戦略を立てる手法のことです。アウトサイド・イン戦略では、外部の環境や顧客を優先するため、状況に応じて柔軟に戦略を変更できる強みがあります。一方インサイド・アウト戦略の場合、自社独自の強みを武器に戦略を構築するため、特定分野での優位性を保ちやすいという強みがあります。それぞれの違いをまとめると次の通りです。
インサイド・アウト戦略 | アウトサイド・イン戦略 | |
特徴 | ・自社の資源やコアコンピタンスによる競争優位性の確立 ・企業独自の価値や強み ・特定分野で優位性を高めやすい |
・顧客ニーズや外部環境に適応した競争優位性の確立 ・環境変化への柔軟な対応力 ・社内資源の分配を最適化しやすい |
利点 |
・他社との差別化がしやすい |
・ニーズに合わせた製品やサービスを提供できる ・顧客満足度を高めやすい ・変化の激しい時代にも適応できる |
コアコンピタンス経営の重要性
近年、経営戦略としてコアコンピタンスを組み込むことが重要視される背景には、企業独自の強みやブランド価値の向上といったさまざまなメリットが関係しています。コアコンピタンス経営は企業の中核となる能力や強みによって、市場における競争優位性を長期的に確立し、持続的な成長につなげられるといわれています。特に現代は予測困難な時代(VUCA時代)と呼ばれており、外部環境の変化が著しいこともコアコンピタンス経営が重要とされる要因です。またインサイド・アウト戦略によるコアコンピタンス経営には、次のようなメリットがあります。
・他社に真似できない独自の強みで市場における地位を確立できる
・持続的な成長とブランド価値の向上が期待できる
・資源の分配と効率的な運用がしやすい
・外部環境が変わっても経営基盤が安定している
・革新的な技術基盤を構築できる可能性がある
外部環境の変化が激しい時代だからこそ、アウトサイド・イン戦略では急激な変化に対応しにくく、会社そのものが振り回されやすくなっています。インサイド・アウト戦略は自社の強みを中心に据えた経営手法であり、外部環境が変わっても独自の強みを保ったまま、競争優位性を維持できます。
コアコンピタンスを見極めるための5つの視点
企業のコアコンピタンスを把握するには、見極めるための5つの視点が重要です。C.K.プラハラードとゲイリー・ハメルは著書「コア・コンピタンス経営」で、次の視点を挙げています。
・模倣可能性(Imitability)
・移動可能性(Transferability)
・代替可能性(Substitutability)
・希少性(Scarcity)
・耐久性(Durability)
いずれもコアコンピタンスを成す核となるポイントであり、自社のコアコンピタンスを見極めるために重要な視点です。この5つの視点で自社独自の強みや能力を発掘することにより、市場における競争優位性を維持できるでしょう。
コアコンピタンスを見極める手順
コアコンピタンスは一過性のものではなく、長年の企業実績、市場での競争優位性から成り立ちます。どのようにコアコンピタンスを見極めればよいのか、3つの手順で解説します。
1.強みの抽出
まずすべきことは、コアコンピタンスとなる自社の強みの抽出です。抽出方法は1つに限らず、自由にアイデアを出すブレインストーミングや社員へのヒアリング、顧客満足度調査などさまざまな方法があります。抽出する際は技術力や能力のほか、組織風土、特定の部品など幅広い視点で抽出しましょう。また抽出は経営層や管理職だけでなく、全社で行うことも重要です。経営層・管理職と現場で働く一般社員では、会社に対する理解や視点も異なります。 さまざまな階層から見た自社の強みを洗い出し、外部環境と合わせて分析することで、経営戦略に組み込むことがポイントです。
2.強みの評価
強みを抽出したら、次は洗い出した強みの評価です。評価で重要になるのがコアコンピタンスの視点です。この段階では「模倣可能性」「移動可能性」「代替可能性」を中心に考えるのがよいでしょう。例えば他社に真似されにくいか、複数の市場や製品にも活用できるか、替えの利かないものかどうかといった点で考えます。3つの視点から評価を行い、他社とも比較して数値として可視化することで、相対的に自社の強みが把握できます。自社が他社より優れている部分を定量的な数値で判断し、強みを活かすための戦略やバリューチェーンの構築を検討しましょう。
3.強みの絞り込み
最後に評価で判明した強みをさらに絞り込み、自社のコアコンピタンスとなる技術や能力などを見極めます。コアコンピタンスを見極めるためには、先述した模倣可能性・移動可能性・代替可能性・希少性・耐久性の視点で判断することが重要です。
・他社に真似できないものか
・他分野や他の商品にも応用できるものか
・替えが効かないものか
・希少価値が高いものか
・長期的に競争優位性を維持できるものか
上記の視点から見極めを行い、コアコンピタンスを絞り込みましょう。分析にはSWOT分析や3C分析、マーケティング分析といった方法も用いると、より正確性が高まります。コアコンピタンスを読み違えると市場や顧客への訴求効果が低下しますから、多角的に分析することが大切です。
コアコンピタンスの代表的な企業成功事例3選
コアコンピタンスを経営戦略に組み込んだ結果、成功を収めた企業の事例を3つ紹介します。
トヨタ自動車
トヨタ自動車のコアコンピタンスは有名な「生産管理技術(トヨタ生産方式)」です。トヨタは必要なものを、必要なときに、必要な量だけ生産するという生産方式により、他社にはない効率的で無駄の少ないサプライチェーンを実現しました。トヨタ生産方式は従業員が1人で複数の工程を稼働できる「自働化」と、ジャストインタイム、カイゼンの3つを柱として成り立っています。無駄のない生産方式をコアコンピタンスとして、他の企業からも生産方式のモデルに採用されており、世界的に大きな影響を与えています。
ソニー
ソニーのコアコンピタンスは、小型化技術と開発力です。ソニーは元々日本で最初のテープレコーダーを開発した企業でした。しかし開発当初のテープレコーダーは重量35㎏と非常に重く、持ち運びには不向きなうえ、価格も一般市民には手が届かないものでした。そこで行ったのが小型化です。ソニーは独自の技術力でさまざまな製品の小型化に成功し、ウォークマンのほかスマートフォン、ゲームハードまで幅広い分野で活躍しています。ソニーでこのようなコアコンピタンスが確立できたのは、社員の多くがエンジニア職である点が大きいでしょう。特定の分野に特化するのではなく、あらゆる製品に精通するエンジニア職がいることで、移動可能性の高い開発力へとつなげています。
キヤノン
キヤノンは創業当時からコアコンピタンスマネジメントを展開し、コアコンピタンス技術として基盤要素技術や価値創造基盤技術などで、業界をリードしてきました。中でも近年は「光学技術」と「精密機器製造技術」をコアコンピタンスとして、カメラ・プリンター・医療機器の分野で高いシェアを誇っています。キヤノン独自のこれらの技術は幅広い分野に応用され、会社を支える基盤となっています。さらに近年はコアコンピタンスの1つであるイメージング技術とITを組み合わせ、個人やビジネスに向けたソリューションを展開する動きもあり、さらなる躍進が期待されています。
中小企業ではコアコンピタンスが求められる!
コアコンピタンスの追及は、大企業よりも中小企業のほうが重要です。一般的に大企業は資金力と人材に余裕があるため、リソースの配分も比較的自由にできます。一方、中小企業はリソースや人材、設備が限られており、企業同士の激しい競争で勝ち抜くのは難しいとされています。そのため 中小企業はコアコンピテンスで独自の強みを確立し、大企業には真似できない価値を提供しなければなりません。 逆に、中小企業だからこそコアコンピタンスに有利に働く点もあります。それは特定の分野にリソースを投入しやすく、希少性の高い技術を提供しやすい点です。インサイド・アウト戦略の面からも自社の柱を据えておくことで、外部環境の変化に影響されにくいというメリットもあります。外部環境の変化に影響を受けにくいということは、市場での競争でも優位な立場を保ちやすくなります。また中小企業ならではの機動力を活かせば、市場でのニーズの変化にも柔軟に対応できるでしょう。コアコンピタンスは企業の持つ武器であり、一貫性のあるサービスや製品を提供するうえで不可欠なポイントです。つまり市場のニーズへの対応だけでなく、ひいては企業に対する顧客からの信頼、ブランドイメージの定着にもつながります。中小企業はリソースや人材に限りがありますが、その分効率的に活用することで市場での競争力を高め、市場環境の変化への柔軟な適応と長期的な成長への期待感を高められます。
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まとめ
コアコンピタンスを形成するには、企業の長年の取り組みが必要であり、自社だけの強みや技術、能力を的確に把握しなければなりません。またケイパビリティとも密接な関係にあることから、コアコンピタンスだけに注目するのではなく、その基盤まで含めた総合的な視点で捉えることが成功のポイントです。 自社のコアコンピタンスを明確化するために、組織内での意見交換や顧客からのニーズ、他社との比較も行って分析しましょう。 特に中小企業はコアコンピタンスを活かすことが、変化の激しい時代で競争に勝ち続ける鍵になります。