キャリア開発とは何?
キャリア開発とは、社員のキャリア構築を支援するために、会社が能力開発や人事異動などのフォローアップを行うことを意味します。 会社でキャリア開発を支援する場合、社員のスキルアップやキャリアアップ、経験などを積み重ねるよう施策を実施することが大切です。同時に社員にキャリア開発の重要性を理解してもらい、自分からキャリアアップに向けて主体性を持ってもらうことにも意義があります。キャリア開発は中長期的な視点で計画的に行う必要があり、会社と社員の双方が同じ方向性を向いている必要があります。そして、社員それぞれが持つキャリアへの意識を醸成し、目標達成に必要な知識やスキル、経験を積んでいくことでキャリア開発は成功するでしょう。
キャリア開発の重要性と注目された背景
なぜ近年キャリア開発が重要視され、注目されるようになったのか、背景となる3つのポイントを紹介します。
終身雇用・年功序列制の衰退
日本の高度経済成長を支えた制度こそ、終身雇用・年功序列制とされています。当時の日本は労働力不足であり、不足した労働力を補うための制度として導入されました。しかしバブル崩壊後は多くの企業で経営が難しくなり、会社の首を絞める結果となりました。現代では、少子化、社員の高年齢化による人件費高騰により安定した終身雇用・年功序列制度は難しく、また、働く側の価値観の変化で実力主義の風潮が強くなり、成果主義や能力主義が主流になりつつあります。従来の終身雇用・年功序列制は能力や成果に関係なく、勤続年数の長い人ほどキャリアアップできるシステムでした。そのため若手社員のキャリア志向にミスマッチが生じ、優秀な人材ほどより良い職場を求めて離職してしまうケース もあります。今後もこの潮流は戻ることはなく、むしろ加速していくでしょう。社員の成長と会社の経営を安定させるためにも、キャリア開発の重要性が増しています。
国際的な競争の激化
日本の高度経済成長期には、企業のほとんどが国内の消費者や企業を対象に経営していました。しかし現代では、経済のグローバル化により国際競争が激化し、国内企業は海外市場をターゲットとして競争せざるを得ない状況です。そこで企業の国際競争力強化の施策の1つとして、人材育成=キャリア開発が注目されるようになりました。キャリア開発は人的資源の有効活用であり、人的資本経営の一種とされています。人に投資することで組織の成長を促し、国際競争力を高めることがキャリア開発の大きな目的です。先が見えない変化の激しいVUCA時代を乗り越えるには、個々の社員が専門性を磨くことで、会社の成長に結びつけるのが効果的な施策といえるでしょう。
IT技術の進化
近年はスマホの高性能化やビッグデータ解析、AIの普及などIT技術の進歩は目覚ましいものがあります。IT技術の進化は人の生活を便利にするだけでなく、それを支えるビジネスの世界も大きく変化させます。例えばRPAはそれまで人が行っていた単純作業をオートメーション化し、事務作業などに割いていた人員と時間を大幅に削減しました。また自動運転技術では実際に人を乗せて走るバスが登場し、複数の自治体で実証実験が行われています。この他にもインターネットやモバイル回線、Wi-FiなどさまざまなIT技術が革新的な進化を遂げています。日々進化していく技術に追いついていくには、社員も専門知識や技術を学んで成長を続けるしかありません。キャリア開発は技術進歩に追いつき、会社が時代の流れに乗り遅れないための必須課題となっています。
キャリア開発を行うメリット
キャリア開発に取り組むことで、企業にどんなメリットがあるのかみていきましょう。
優秀な人材の採用と定着
キャリア開発に注力する企業には、その企業でしか学べない技術や経験、知識が集約されていることもあります。キャリア開発に意欲的な人材は、キャリア開発に魅力を感じて応募が見込めます。また既存の人材においても、キャリア開発は定着率上昇に効果的な施策です。社員の定着率が上がれば企業の評判も良くなり、さらに優秀な人材の流入が期待できます。社員がキャリア開発に積極的に取り組めば、スキルアップとキャリアアップにつながり、仕事へのモチベーションがあがります。社員が活力に溢れて働く姿は、働きやすい会社という印象を与えるでしょう。近年の若手社員は仕事にやりがいを求める傾向があるため、複数のキャリアプランを用意し、努力がどのような成果に結びつくか明示するとより効果的です。
従業員エンゲージメントの向上
キャリア開発によって期待できる効果として、従業員エンゲージメントの向上も挙げられます。従業員エンゲージメントとは、従業員が会社の企業理念に共感し、企業の業績向上のため貢献したいと思う会社に対する愛着であり、人材定着率とも大いに関係しています。近年はキャリアアップ目的の転職も多く、一定の経験やスキルが身についたら転職する社員も珍しくありません。そのような時代にあっても、従業員エンゲージメントが高ければ優秀な人材を会社に留めておくことができます。前提として社員の希望するキャリアがあることも条件ですが、キャリア開発の支援があれば、社員の仕事へのモチベーションアップにも効果的です。
組織活性化
キャリア開発の支援は優秀な人材の採用・定着、エンゲージメントの向上になり、組織の活性化にも大きなメリットがあります。キャリア開発で社員が成長すれば、職場内で知識やスキルが共有され、ボトムアップを取り入れることが可能になれば、現場の声が経営に届きやすくなり、組織課題の解決やサービス向上につながりやすくなります。加えて成果が個人のキャリアアップになることで、社員は「努力を評価してくれる会社」と感じ、エンゲージメントが高まるでしょう。社員の働きと組織が活性化することで、イノベーションが起こることにも期待できます。その結果、長期的に成長を続けられる強い組織が作られ、社員全員が前向きな気持ちで働ける環境が生まれます。中長期的な視点で社員に「どう成長してほしいか」を考え、適切なキャリアプランを提示していくことが重要です。
キャリア開発を成功に導く4つのポイント
社員のキャリア開発を成功へ導くには、4つの大切なポイントがあります。
社員ごとに支援方法を変える
会社からキャリア開発を支援したとしても、すべての社員が同じようにキャリアアップを目指しているとは限りません。管理職を目指す人、専門性に特化したい人、子育てしながら働き続けたい人などさまざまな人がいます。企業の考えるキャリア開発はスキルアップを主体にしていますが、一律に成長を促すことだけがキャリアにつながるわけではありません。キャリア開発を支援するには、さまざまな価値観の社員がいることを理解したうえで、それぞれの社員に応じた支援方法を取り入れることが大切です。また社員の年代や階層、職種によっても必要な支援方法は変わるでしょう。社員一人ひとりのキャリアに対する考え方を尊重し、複数の支援方法を用意することでキャリア開発が円滑に進みます。
学べる環境を整備する
キャリア開発を支援するには、社員が自発的に学べるような環境を整備することも欠かせません。近年はIT技術の進歩により、オフィス外でもオンラインで研修を受けることができるようになっています。従来の集合研修だけでなく、オンライン研修やeラーニングなども組み合わせれば、より学習効果を高められるでしょう。またIT技術が進歩しても、扱う社員がいなければ会社の成長は見込めません。いわゆる「リスキリング」により、社員に最新のIT技術を学んでもらい、新しいキャリアにつなげてもらうことも大切です。新たなスキルを積み、キャリアアップして昇進したい人材を集め、会社が支援して学べる環境、雰囲気を作りましょう。
キャリア開発しやすい仕組みを導入する
日本でもジョブ型雇用やタレントマネジメントなど、専門性や能力に特化した雇用方法や、社員のスキルを把握し、配置や育成を行うマネジメント手法が注目を集めています。社員のキャリア開発を支援していくには、社員のキャリア志向を理解し、能力や成果に応じてキャリアアップの機会を与えることは重要です。社員が自分の働きに応じてキャリア設計できると理解すれば、自律的なキャリア開発に進んでいくでしょう。
キャリア自律を浸透させる
キャリア自律とは、自分自身でキャリアプランを設定し、目標の実現に向かって進むべき道を自己決定できる状態をいいます。従来の日本では年功序列・終身雇用制が一般化していたため、キャリア自律について考える機会は多くありませんでした。しかし日本では長年にわたる経済の低迷、円安の加速などで多くの企業で業績が悪化しています。変化する環境の中、優秀な社員を定着させるには、キャリア自律の意識を浸透させ、キャリア構築とスキルアップのための学習を継続的に行うことが重要になっています。会社として自己分析のサポートやキャリアプランの提示、上司との1on1ミーティングなどを行い、社員のキャリア意識を高めることも大切です。
キャリア開発の具体的な実施方法
企業がキャリア開発を支援するために、どのような取り組みを行っているのかみていきましょう。厚生労働省発表の能力開発基本調査によると、キャリア形成に向けて実施した取り組みとして表の内容が挙げられています。
キャリア面談
キャリア面談とは、上司と部下、人事担当者がキャリアに関連した面談を行うことです。1on1ミーティングで行うケースや、外部のコンサルタントに依頼するケースもあります。キャリア面談のポイントは、社員一人ひとりのキャリアプランや希望、今後の課題などを明確化し、課題解決と自己成長につなげていくことです。会社として社員のキャリアへの意識を詳細に把握できるだけでなく、社員にとっては会社からの支援を受けやすくなるメリットがあります。キャリア面談を通して新しい適性や能力が判明し、人事異動や配置転換を判断する情報にもなるでしょう。最終的には社員がどのようなキャリア形成を希望しているかが重要ですが、社員の特性に応じた支援がしやすくなる点で、キャリア面談は重要な施策となります。
キャリア研修
キャリア研修は、今までの業務を振り返り、将来的な課題を踏まえて、社員のキャリアビジョンやキャリア自律を促すための施策です。社員がキャリア開発に前向きになりにくい要因の1つとして、キャリアに対する曖昧なイメージや具体的なキャリアアップ方法がわかりにくいという点があります。キャリア研修を通して自身のキャリア形成を具体的にイメージすることで、キャリア自律の意識が高められます。またキャリア研修後に改めてキャリア面談を行うことで、より具体性のあるキャリアプランに結びつけることにもなるでしょう。面談を行う上司としても、具体的なキャリアプランを提案しやすくなり、キャリア開発が効率化できます。
自己啓発・自己学習の支援
キャリア開発には、社内研修以外にも社員の自己啓発や自己成長の支援も必要です。会社が多くの研修を用意しても、社員の意欲が低ければ成長にはならないからです。会社が用意した研修だけを受講しても、それ以上の成長は見込めません。そのため、会社側から自己啓発や学習に必要な費用の補助、学習スペースの提供、研修のための特別休暇などさまざまな支援策を打ち出すのがよいでしょう。キャリア開発のための自己啓発は、行き過ぎれば社員の負担となり、社員のモチベーション低下と離職率増加につながるリスクがあります。社員のやる気を自然に引き出せるように、社内の雰囲気や制度設計などを見直していくことが大切です。
柔軟性の高い人事・評価制度
キャリア開発には、人事異動や評価制度の柔軟性も求められます。キャリア形成には社員が希望するキャリアを叶えられるように、複数の制度を用意しておくとよいでしょう。キャリア開発に成功している企業では、キャリア自己申告制度や社内公募制度を導入しているケースも珍しくありません。他にもジョブローテーションや社内FA制度など、社員が異動したい部署に自身を売り込むことで、希望の人事異動を実現し、自らキャリア形成できる施策を採用すると効果的です。
キャリアパスの提示
キャリア開発に取り組む際、組織内においてキャリアを積み重ねていくために必要な過程や道筋を示すキャリアパスを提示することも重要です。社員が考えているキャリアと、実際に会社で積めるキャリアにはズレが起きることもあります。キャリアのイメージにギャップが発生すると、社員のキャリア形成が阻害されるだけでなく、仕事へのモチベーション低下にもつながります。会社としてどのようなキャリアプランがあるのか、いくつかのキャリアパスを提示することで、社員が自由にキャリア選択できる用意をしましょう。
キャリアパスと社員のイメージが合致すれば、会社の離職率は低下し、組織の生産性向上にも結びつきます。
社外での活動支援
キャリア開発の一環として、社外での活動支援に注力することもポイントです。社外での活動とは研修だけではなく、外部機関と協力してボランティアを行ったり、副業や兼業で別の業界を経験したりすることも意味します。本業に支障が出ない範囲で、新たな環境でスキルアップを図ってもらうことが重要な目的です。社外での活動を通してさまざまな視点やスキルを身につけるだけでなく、新しい人脈を築くこともできるでしょう。
主体的な取り組みの内容 |
割合 |
上司による定期的な面談の実施(1on1ミーティング等) |
66.0% |
職務の遂行に必要なスキル・知識等に関する情報提供 |
51.4% |
自己啓発に対する支援 |
46.7% |
人材育成に関する基本的方針の策定 |
37.0% |
経営者や管理職から主体的なキャリア形成の重要性を発信 |
30.0% |
労働者の主体的な取組に対する人事考課における考慮 |
26.4% |
社内公募制等の労働者の意向を重視した人員配置 |
19.1% |
労働者の意向や課題に応じて個別最適化したOFF-JTの実施 |
18.4% |
社内兼務制度の導入・実施 |
15.3% |
兼業・副業の推進・容認 |
15.3% |
キャリアコンサルティングの実施 |
11.9% |
人材育成に関するPDCAのための労働者に対する調査 |
9.5% |
その他の取組 |
4.9% |
https://www.mhlw.go.jp/content/11801500/001111383.pdf
キャリア開発を行っている企業事例
実際にキャリア開発を行っている企業の事例から、どのような制度が取り入れられているかを紹介します。
国内電子機器メーカーA
A社では「自分のキャリアは自分で築く」を根底として、社員が自らキャリア形成できるような制度を取り入れています。具体的には社内募集制度と社内フリーエージェント(FA)制度、キャリアプラス制度などを活用し、キャリア開発を支援しています。社内募集制度は歴史が長く、50年以上前から導入されています。特定の部署に2年以上在籍している社員には、自由に社内異動する権利が与えられます。社内FA制度も社内で枠のあるポストや職種に対し、FA権を行使して異動できる制度です。社員の成長やキャリア形成を力強くサポートしており、これまでに8,000名以上の社員がキャリア形成の制度を利用しています。
国内食品メーカーB
B社では、キャリア開発のためにさまざまな研修を用意しています。日清食品籍の全社員を対象に階層別研修や自己啓発・資格取得支援制度、選抜型研修制度などが導入されています。中でも経営人材育成を目的とした独自の研修制度は、キャリアアップの重要な施策です。意欲のある人であればだれもが学ぶことのできる公開型プログラムと、選抜型プログラムの2部構成となっています。また、200種類以上の通信教育講座やTOEIC受験費用の全額負担、ハンズアップACADEMYによる社外公開講座の費用補助などもあり、多面的な支援を行っているのが特徴です。
ガス供給会社C
C社では、新卒採用の社員の業務内容に応じてキャリアアップ支援を行っています。具体的には、O&M(オペレーション&メンテナンス)職と、エンジニアリング職、2職種の新入社員にPTA(Personal Tutor Adviser)と呼ばれる先輩社員をつけ、1人の社員に専属で指導します。PTAがつくのは入社3年目までの若手社員で、 PTAの先輩は上司や他の先輩社員と若手社員サポートする役割を担っています。また、エンジニアリング職は技能開発センターという研修設備で各種研修を受講でき、社内資格取得の支援も行っています。若手社員の成長と人材の定着、技術力向上を支援している点が、大阪ガスネットワークの施策の特徴です。
医薬品開発・販売会社D
D社では、さまざまなキャリア開発制度を導入しています。まず2020年4月から始まった社内公募システムの「グローバル・ジョブ・ポスティング制度」です。グループ内の全社員を対象に、ポジションに就きたい人を公募するシステムです。ポジションの公募を通してキャリアパスを具体的にイメージしてもらい、キャリアプランを考えるきっかけにしています。次にマイスター制度により、一部の工場で独自のマイスター認定を行っています。有資格者で高い技能と経験、同僚から信頼される社員に「マイスター」の称号を与える制度です。他にも社員一人ひとりのライフステージに合わせ、ワークライフバランス実現が図れるような制度もあります。この制度ではさまざまな休暇制度が利用可能であり、社員が自分の望むキャリアや働き方を実現しやすい点が魅力です。
国内電機メーカー兼総合ITベンダーE
E社では少子高齢化による生産年齢人口の減少、地域経済の縮小の解決策として、地域キャリア開発ソリューションを進めています。地域キャリア開発ソリューションはキャリア開発、地域人材確保・定着、拠点サービス設計・整備・運営の3つを柱にしています。キャリア開発ではキャリアカウンセリング、リカレント教育、学校などの教育機関とも連携し、学生も対象としたキャリア開発を行っている点が特徴です。地域の産業に貢献するソリューションとして、他社とは異なるキャリア開発の取り組みとなっています。
キャリア開発に取り組むならユーキャンへ
社員のキャリア開発に取り組むなら、ユーキャンにご相談ください。キャリア開発の重要性は理解していても、実際にどのような施策ができるかわからず、具体的な対策ができていない企業は少なくありません。キャリア開発を支援するには、社員がキャリア形成について理解し、自身のキャリアを具体的にイメージできることが大切です。ユーキャンのキャリア研修なら、若手からベテラン社員、マネジメント層まで幅広い対象者にキャリア開発の重要知識を提供できます。「社内で人材が育たない」「人材が定着しない」と感じている企業担当者様は、ぜひユーキャンを活用してください。
まとめ
今回はキャリア開発について、重要性や成功のポイント、具体的な実施方法などを解説しました。企業の人材育成において、キャリア開発は年々重要性を増しています。生産年齢人口の減少局面にある日本では、優秀な人材の採用と定着が重要な課題だからです。IT技術の進歩も相まって、新たなスキルを習得して絶えず成長を続ける人材が企業にとって欠かせない存在になっています。社員のモチベーションとエンゲージメントを高め、組織の生産性を向上するためにも、具体的なキャリア開発プログラムを早期に導入することが重要です。