モラハラとはなにか?
モラハラとは「モラルハラスメント」の略称です。モラルとは道徳や倫理を意味し、ハラスメントは嫌がらせを意味します。 モラハラは、殴る、蹴るなどの直接的な暴力行為を伴いませんが、人の尊厳を傷つけて精神的に追い詰めるような行為です。モラハラの例は職場における意図的な無視行為や暴言、理由なく不機嫌な態度をとる行為などです。モラハラが生じていると業務が適切に進められず、企業における生産性低下や離職の原因となります。
職場におけるモラハラとパワハラの違い
パワハラ(パワーハラスメント)とは、上司や先輩などの優位な地位にある人物が、立場を利用して部下や後輩に対して暴言・暴力・威圧行為・無理な要求などを行うことです。日本においてパワハラは以前から社会問題となっており、肉体的・精神的・社会的苦痛により自殺に追い込まれたケースもあります。
一方、モラハラ(モラルハラスメント)は社会通念に照らし、一般的な倫理観(モラル)に反する言動や行動を取り、強い精神的苦痛を与える行為を指します。モラハラは会社の上下関係だけでなく、企業と顧客、家族間でも起こる点が特徴です。顧客が企業に対して過剰な要求をしたり、不当なクレームを入れたりするカスハラ(カスタマーハラスメント)もモラハラの一種です。パワハラの場合、悪化すると社員のプライバシーを侵害することもあり、人としての尊厳を傷つけることにもなりえます。そのため、パワハラに対する社会的な目は厳しくなっており、企業として必要な対策を講じていくことが重要です。また、モラハラはハラスメント行為する側にハラスメントの自覚がなく、善意のつもりで行っている点が問題です。企業としてハラスメント行為に対応するには、パワハラ・モラハラについて正しい知識を社員に学んでもらう必要があるでしょう。
職場におけるモラハラの具体例
職場で起こりうるモラハラの具体例について、5つのパターンを紹介します。
人格を攻撃する
他者への人格攻撃は、モラハラで多い事例です。人格攻撃とは、相手の能力や人間性、交友関係などを否定したり、侮辱したりする行為のことです。人格攻撃の例には次のようなものがあります。
・勉強が苦手な子供に対し「こんなこともできないなんてダメね」「〇〇ちゃんはできるのにこの子は劣っている」などの言葉を浴びせる
・社員の交友関係について「あんな奴と友達だなんて、きっとバカなんだろう」「人を見る目がなくて可哀そう」などの批判を行う
・仕事での失敗を過剰に責め立て「仕事ができないなら辞めてしまえ」「役立たず」などの否定的な言葉を放つ
無視する
話しかけられても無視したり、連絡が来ても返信しなかったりすることもモラハラに該当します。
無視することで業務の進行に支障を来たすこともあり、組織の生産性にも関わる問題です。
・特定の社員だけ挨拶や声をかけられても無視する
・部下や同僚からメールなどで連絡を受けているにも関わらず、意図的に返信しない、または適当な理由をつけて無視する
嫌がらせをする
その日の気分や個人的な感情で、社員や部下に対して嫌がらせを行うこともモラハラです。
また、社員の仕事を邪魔して意図的に進行を妨害する行為も、嫌がらせに当たります。
・機嫌が悪いからと部下を罵る、机やゴミ箱などを強く叩く
・仕事中の同僚に対して執拗に声かけ、邪魔をして集中を乱す
・上司に嘘の報告をして、同僚の評判を落とそうとする
プライバシーを侵害する
仕事に関係のない社員のプライベートに干渉し、私生活について知ろうとしたり、関係性を持とうとしたりする行為もモラハラに当たることがあります。特に性的な内容を含む言動・行為はセクハラに該当し、場合によっては犯罪になる可能性もある点に注意が必要です。
・同僚に仕事と関係ない私的な内容を聞き出そうとする
・部下または同僚の人間関係や家族関係を聞き出そうとする
・社員の住所と電話番号を調べ、電話で連絡したり会おうとしたりする
仲間外れにする
特定の社員のみをグループから仲間外れにする行為も、モラハラに該当する可能性が高いです。
・グループチャットで特定の社員だけを仲間外れにした
・宴会や懇親会で特定の社員だけに予定を伝えなかった
・同僚の足を引っ張るために業務上必要な連絡をあえてしなかった
職場でモラハラが発生・放置することのリスク
職場でモラハラが発生したり、それを放置したりしている場合、企業にはさまざまなリスクが生じます。モラハラは退職者の増加や職場環境配慮義務違反、企業のイメージダウンなどにつながり、業績低下の原因となりうるものです。それぞれについて解説します。
退職者の増加につながる
モラハラを放置していると退職者の増加につながります。モラハラによって精神的な苦痛を継続的に受けている従業員は、心身の健康を損ない離職を考えるようになるでしょう。また、モラハラは直接的な被害者だけでなく、周囲の従業員にも悪影響を与えます。職場の雰囲気の悪さを理由に転職する従業員が増えれば、企業は人手不足に陥るかもしれません。優秀な人材ほど次の就職先も早く見つかるため、退職する可能性が高いといえます。
職場環境配慮義務違反になる
企業がモラハラに対して適切な対処をせず放置していると、職場環境配慮義務違反となる恐れがあります。職場環境配慮義務とは、事業者が従業員に対して快適な職場環境を提供する義務です。企業が職場環境配慮義務を果たさず、従業員が病気や怪我、精神疾患になると、訴訟によって法的な責任を問われ、損害賠償請求を受ける可能性があります。
企業のイメージダウンにつながる
モラハラが発生した事実が公に知られると、企業のイメージダウンにつながります。 モラハラが訴訟問題に発展すれば新聞やニュースで報じられ、多くの人に知られることになるでしょう。モラハラが横行し、放置している企業だと見なされると、職場の問題改善に取り組まない印象を持たれるかもしれません。イメージダウンによって売り上げが落ち業績が低下したり、採用活動でも人材が集まりにくくなったりと、モラハラは企業の活動に悪影響を及ぼします。
モラハラが起きない職場をつくるための予防策
モラハラが起きない職場をつくるには、会社として予防策を講じる必要があります。
効果的な4つの施策を紹介します。
ハラスメントの定義と対応指針の周知徹底
ハラスメントを防止するには、社員に対して定義と対応指針を周知徹底することが重要です。どのような行為がハラスメントに当たるのか、自分のどんな行動がハラスメントになるか理解してもらうことで啓発活動になります。加えて、会社としてハラスメントに厳しく対応する姿勢を示すため、対応指針も明確化して理解してもらうべきです。社内報や就業規則にもハラスメントへの対応指針を明記し、組織全体で取り組んでいくことを伝えましょう。
またハラスメント行為が実際にあった場合も想定し、どのような報告・連絡経路を辿ればよいか、重大性に分けてハラスメントに対する罰則規定も設けると効果的です。
ハラスメント相談窓口の設置
ハラスメント行為が発生した場合や発生が疑われる場合に、社員が相談しやすいように窓口を設置しておくのも重要な防止策です。社内での情報共有と連携した対応を重視するなら社内窓口、専門家による対応を求めるなら社外窓口がよいでしょう。社員にとって、ハラスメント相談窓口があるかないかで心理的な安心感は大きく変わります。相談窓口がなければ、ハラスメント行為をしている上司に相談するしかなくなり、組織の上層部に正しく情報が伝わらない可能性があります。そのため、他の部署とは利害の関係性がなく、第三者の視点で相談を受け付ける窓口の存在は重要です。担当する社員にはハラスメント研修を徹底して行い、正しい対応の検討やマニュアルの作成などをしてもらいましょう。
加害者と被害者の距離を物理的に離す
ハラスメント行為が実際に起こってしまった場合は、加害者と被害者のどちらかを別の部門に移すなど、物理的に距離を取ってもらう配慮も必要です。そのまま同じ部署に置いておくと、加害者が報復に走る危険性もあるため、早期に手を打つことが大切です。ただしハラスメント行為を理由に加害者を孤立させると、逆にハラスメントの被害者として問題になる可能性もある点に注意してください。
ハラスメント研修を実施する
ハラスメントが起きない職場をつくるには、社員にハラスメントへの理解を深めてもらうことも不可欠です。ハラスメントと一言で表しても、セクハラ・パワハラ・モラハラ・マタハラなどさまざま種類があります。それぞれのハラスメントがどういうものか、どんなときに起きやすいのか、どんな言葉や講堂がハラスメントになるか知ることは重要です。研修を通してハラスメントへの理解が深まれば、それまでは当たり前に行われてきた行為も、ハラスメントとして再認識することもあるでしょう。ハラスメント行為への理解を深めることで、社員一人ひとりが注意をもって発言・行動するようになり、働きやすい職場がつくられます。
職場でのモラハラの対処法・改善策
企業のモラハラ解消のためには、人事担当者の適切な対処が重要です。人事担当者が知っておきたいモラハラの対処法・改善策をいくつか紹介します。
講座や研修で正しい知識を身につける
職場におけるモラハラ解消のためには、まずは人事担当者が正しい知識を身につける必要があります。また、現場の従業員がそれぞれモラハラについての知識を得れば、モラハラが起こりにくく、発生した場合でも適切に対処できれば被害を抑えやすいでしょう。モラハラを含む職場の人間関係については、外部の専門機関に講座や研修を依頼するのがおすすめです。ハラスメントに関する正しい知識、最新の内容が学べ、実用的なノウハウが身につきます。
例えば ハラスメント防止コミュニケーション講座 では、パワハラの判断基準やパワハラとならない指導方法、職場の雰囲気作りの方法などが学べます。
事実確認を行い証拠を集める
社内でモラハラが生じている可能性があるなら、断片的な情報から状況を判断してしまわず、しっかりとした事実確認が重要です。モラハラの判断には証拠が必要なので、被害者や周囲の従業員から、メールや電話のやりとりなどの証拠資料を提出してもらいましょう。証拠資料や現場へのヒアリングなどを合わせて状況を把握し、判断する必要があります。事実確認した結果モラハラと判断されるなら、加害者に対する直接の指導や、再発防止のための対策が必要です。
被害者と加害者と距離を置くよう工夫する
事実確認によってモラハラが起きていると判断された場合は、被害者と加害者と距離を置くよう工夫しましょう。被害者が業務を続けパフォーマンスを高めるためには、加害者から離れる必要があります。例えば配置転換によって被害者と加害者の職場を分ければ、被害者が安心して働き続けられます。配置転換はパワハラの当事者だけでなく、周囲の従業員にも影響があるため、協力してもらえるよう理解を得ることが重要です。
相談窓口を設置する
モラハラを早期発見し適切に対策するには、社内での相談窓口の設置がおすすめです。 誰もが相談しやすい職場環境を整えれば、被害を最小限に抑えやすくなります。相談窓口の設置は社内で実施する他、外部の専門機関への依頼も可能です。モラハラの相談はセンシティブな内容なので、社内の人には知られたくないと感じる従業員も少なくありません。専門機関による相談窓口なら、より被害者が利用しやすくなるでしょう。
まとめ
モラハラは企業にとって多くの問題を引き起こします。被害者の業務効率が低下し、退職につながるだけでなく、企業全体の生産性も下げる原因となります。職場におけるハラスメントのなかでも、モラハラは特に発生しやすい問題です。 モラハラの解消には対策の実施とともに、モラハラに対する従業員の意識向上が重要です。
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