ハラスメントとは?
ハラスメント(harassment)とは、「いやがらせ」「迷惑行為」のことであり、言動や行動で相手に不快感を与えたり、脅迫したり、尊厳を傷つけたりする行為を指します。意味合いだけで判断すれば「いじめ」とも近いですが、大きな違いは故意か無意識かという点です。ハラスメントの場合、無意識の言動や行動であっても相手方に不快感や嫌な思いをさせれば、ハラスメントとして認定される可能性があります。また法令上で明確にハラスメントとして定義されているものや、一般常識に照らしてハラスメントとされているものもあります。ただし近年は多様性が広がっていく中で、ハラスメントの種類も増加している点には注意すべきです。かつてはパワハラやセクハラなどが一般的に知られていましたが、近年はそれ以外にも多くのハラスメントが存在しています。
日本におけるハラスメントの現状
日本のハラスメントの現状としては、セクハラやパワハラなどのハラスメントが増加している点に大きな違いはありません。しかし令和2年から令和5年までで大きく変化した点は、カスタマーハラスメント(カスハラ)の増加です。厚生労働省の「職場のハラスメントに関する実態調査について」を見ると、令和5年に企業であったハラスメントの相談件数では、「顧客からの著しい迷惑行為」が過去3年間で23.2%増加したことがわかっています。パワハラは19.6%増加、セクハラは11.0%増加、妊娠・出産・育児休業等ハラスメントが13.7%の増加であることと比較すると、ひときわ高い増加率です。この結果から、日本においてはハラスメントは組織内だけの問題ではなく、組織外からのハラスメントにまで注意しなければならない状況にあるとわかります。
参考:厚生労働省 「職場のハラスメントに関する実態調査について」P8
職場で多いハラスメントの種類
職場におけるハラスメントは、多種多様な種類があります。ここでは、代表的な10種類のハラスメントについて解説します。
※ハラスメント研修に関する記事はこちら
1.パワーハラスメント
職場の上下関係や権力を利用した嫌がらせのことです。厚生労働省は、以下の3つの要素を満たすものとして定義しています。
1)優越的な関係を背景とした言動
2)業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動
3)労働者の就業環境が害される
2.セクシュアルハラスメント
性的な言動や嫌がらせにより、不利益を受けたり就業環境を害されたりすることです。男性から女性に対して行われる行為だけでなく、男性やLGBTに対する発言、性的なものを連想させることも含まれます。
3.モラルハラスメント
精神的な苦痛を与える嫌がらせ行為です。職場で特定の人を無視する、意見をすべて拒否する、見下した態度を取る、実行が難しい仕事を依頼するといった、モラルに反する見えない暴力が該当します。
4.マタニティハラスメント
妊娠や出産を理由に、肉体的・精神的な嫌がらせや、不利益な取り扱いを行うことです。退職を迫る、妊娠中に心無い発言をするといった言動から、不妊治療に対する否定的な言動も含まれます。
5.ジェンダーハラスメント
男らしさ・女らしさといった性区別を強要することです。「男だから」「おばさんだから」などの性差別的な言葉を使い、その基準に合わせた行動を求めます。性別による不当な評価を下すこと、採用や昇進の機会損失も該当します。
6.リストラハラスメント
リストラ対象者に対する嫌がらせを行うことです。無理難題を押しつけたり、不当な配置転換を命じたりして、自主退職に追い込みます。主に管理職級の従業員が対象にされます。
7.アルコールハラスメント
飲酒に関わる迷惑な言動・行為です。上下関係を利用した飲酒の強要、意図的な酔いつぶし、アルコールが飲めないことをからかう、酔った状態で暴言を吐く・暴力をふるうといった迷惑行為などが該当します。
8.スモークハラスメント
タバコに関する不適切な行為です。喫煙者が非喫煙者に受動喫煙させたり、喫煙を強要したりする嫌がらせ行為です。勤務時間中に不当な喫煙時間を取得すること、「吸ってもいい?」と上司が部下に断りにくい状況を作ることもスモークハラスメントです。
9.リモートハラスメント
リモート中に起こるハラスメントです。特定の従業員を参加させない、映り込んだ部屋や服装を指摘してプライベートに言及する、業務に必要がないのに2人きりのWeb会議を要求する、といった不快感を与える行為が該当します。
10.テクノロジーハラスメント
パソコンやスマートフォンなどのITスキルの高い人が、知識のない人に対して行う嫌がらせです。専門用語を多用して話す、回りくどい指示をして困惑させる、見下した言動を取るといった行為です。
11.セカンドハラスメント
セカンドハラスメントは、セクハラやパワハラなどのハラスメント被害者が、被害を相談したことで二次被害を受けることを指します。
・セクハラの相談をしたら自分が悪いと言われた
・セクハラ被害を周囲にバラされた
・ハラスメントを相談したことで部署異動をさせられた
上記は一例ですが、ハラスメント被害者が不利益な扱いを受けることは、すべてセカンドハラスメントの定義に当てはまります。セカンドハラスメントは専用の窓口がない会社で発生しやすく、相談相手に注意しなければなりません。
12.スメルハラスメント
スメルハラスメントは、体臭や口臭などの臭いによって周囲に被害を与え、不快にさせるハラスメントです。臭いは日頃の習慣や衛生状態、体質に起因するため、非常にデリケートな問題です。しかしスメルハラスメントは、悪臭を自覚したうえで相手を不快にさせた場合にハラスメントとして認められます。体臭や口臭以外にも、香水の強烈な香りやカビの臭い、たばこ臭などもスメルハラスメントの一種となります。臭いで相手に不快感を与えた時点でハラスメントになるため、日頃から自分の臭いには注意する必要があるでしょう。
ハラスメントが起こる4つの原因
ハラスメントが起こるには、主に4つの原因があります。ここではハラスメントが起こる原因について解説します。
1.個人の無知と無自覚
組織内でハラスメントが起きる原因の1つとして、社員個人のハラスメントへの無知と無自覚が挙げられます。ハラスメントは日頃の言動や行動から認められることが多く、無意識している行動がハラスメントになっている可能性があります。そしてこのときに問題となるのがハラスメントの知識がないことで、「この言葉はハラスメントになるかもしれない」という気付きにつながらないことです。例えば「自分がこういう指導を受けてきたから、部下にも同じように厳しく指導しよう」「ボディタッチはコミュニケーションの一貫」という思い込みがあると、部下にとっては上司からのパワハラ・セクハラと認識されるでしょう。自分の思い込みや偏見で起こるハラスメントは「アンコンシャス・バイアス」と呼ばれ、無知と無自覚だからこそ非常に悪質なハラスメントとされます。
2.コミュニケーション不足
ハラスメントが起きる原因としてコミュニケーション不足も挙げられます。職場内でのコミュニケーションが不足すると、同僚や部下の価値観や個性を理解する機会も自然と減少し、無意識に相手を軽視する言動や行動が増加します。普段から意見交換や相談ができる関係性が築かれていないと、指導や注意が一方的なものとなりやすく、それを受ける相手からは攻撃的な言動として受け止められる可能性が高いです。さらに信頼関係が構築できていなければ、ちょっとした言動や行動がハラスメントと認識され、職場環境の悪化につながります。そのため積極的なコミュニケーションと相互理解を促進することが、ハラスメント防止の鍵となるでしょう。
3.職場環境の悪さ
ハラスメントが起こる原因の一つとして、職場環境の悪さも重要です。職場環境が悪い場合、過剰な業務負担や長時間労働、不公平な評価制度などで社員間に不満が蓄積します。このような状況は職場内での対人関係が悪化する要因になり、攻撃的な態度や個人主義的な対応が発生する土壌となります。また職場の風通しが悪く、意見や相談が言いにくい雰囲気があると問題の発見につながりにくくなり、ハラスメントが容認されることにもなりかねません。そのため職場内で明確なルールやガイドラインが欠如している場合には、どのような行動がハラスメントになるかという基準を明確化し、該当する行為が発生しない体制と職場環境の構築を急ぐ必要があります。
4.日本全体の意識の低さ
ハラスメントが起こる原因には、日本全体の意識の低さも影響しています。日本では長い間、職場内の上下関係や暗黙の了解を慣例とする企業文化があり、ハラスメントを問題視する意識が他国と比べて遅れてきた背景があります。特に暴力やセクハラに関しては「指導のつもり」「冗談の一種」として許されてしまうケースが多く、被害者が声を上げにくい雰囲気や社会状況がありました。また労働法やハラスメント防止に関する規制が一般的には知られておらず、企業や個人で具体的な対策への理解が進まず、適切な対策が取られていなかったことも一因です。ハラスメントが発生した場合でも、問題を公にすると「職場の秩序を乱す」「キャリアに悪影響がある」という意識から、被害者が不利益を被っても訴えることを恐れる風潮もありました。
企業が行うべきハラスメント対策・対処法
ハラスメントを予防するために、企業には教育や社内ルールの設定、相談窓口の設置が求められます。
教育・研修を行う
企業がハラスメント対策を行う場合には、全社員を対象としたハラスメント教育・研修の実施が効果的です。人や価値観の多様性が増すと同時に、ハラスメントの種類が大幅に増加しています。かつてはハラスメントとして認識されなかった言動・行動であっても、現代ではハラスメントとして問題になる可能性があります。そのため全社員を対象に教育・研修を進め、どのような行為がハラスメントに該当するのか、実例も踏まえて知識を得ることで、自分自身の行動改善につなげてもらうことが大切です。また可能ならグループワークやディスカッションでハラスメントの意識を他者と共有し、他者視点で考える力を持ってもらうのがよいでしょう。
相談窓口を設置する
ハラスメント防止策として、企業内に専門の相談窓口を設ける企業も少なくありません。ハラスメントを受けている相手が上司だった場合、相談窓口がなければ社員が相談できる相手は限られ、有耶無耶のまま終わってしまう可能性があります。しかし専門の相談窓口があれば社員は気軽に相談できるようになり、相談窓口は独立した立場から対策を打つこともできます。対面だけでなく、メールやチャット、電話などさまざまな相談方法を用意し、いつでも社員の相談を受けられる窓口を用意しましょう。
社内でルールを設定して周知する
ハラスメントを防止するには、社内で統一したルールを決定し、周知することも対処法になります。就業規則にハラスメント行為の禁止規定を定め、懲戒規定も設けることで組織としてハラスメントを防ぐ意思を明確にしましょう。また、ルールを決める際はすべてのハラスメントに通じる横断的なルールに加え、パワハラ、セクハラ、マタハラなどハラスメント別に規定を設けておくこともポイントになります。日本においては相談窓口と専門の担当者を設けている企業は、約4割です。そのため社内でハラスメントの規定を設けると同時に、被害者が不利益な扱いを受けないように、独立した相談窓口と担当者を設置することも重要です。
ハラスメントが発生したときの対応方法
ハラスメントが実際に発生した場合、適切な対応を取ることで企業と社員へのダメージを最小限に抑えることができます。具体的には、次のような手順で素早く対応を取ることが求められます。
1.被害者・加害者へのヒアリングと事実確認
2.事実があったか否かの情報を集める
3.ハラスメントの有無について判断する
4.委員会等で調査報告書を作成する
5.被害者への配慮と該当する職場に適切な措置を行う
6.加害者に対しては行為の重大性に応じた措置や処分を下す
7.再発防止に向けた具体策を検討・実行する
上記の対応で特に重要になるのが「被害者・加害者へのヒアリングと客観的な事実の確認」です。ハラスメントは被害者と加害者の双方が主観に基づいて訴えることが多く、中立的な立場からの調査が求められます。自社内で調査が難しい場合は、外部の専門機関に依頼し、第三者の立場から事実確認と調査報告書の作成をすることが重要です。
ハラスメントに関連する法律
企業で対策を行ううえで、人事担当者が知っておくべきハラスメントに関する法律について解説します。
パワハラ防止対策関連法
労働施策総合推進法のことで、通称でパワハラ防止対策関連法、パワハラ防止法とも呼ばれます。パワーハラスメント防止対策の強化が目的で、2022年4月からは中小企業も実施が義務化されました。
男女雇用機会均等法
男女雇用機会均等法は、男女の均等な機会と待遇の確保を目的とした法律です。ハラスメントを行ってはならないことが明記されています。2017年1月からは、事業主に妊娠・出産等に関するハラスメント防止措置を講じることが義務づけられています。
育児・介護休業法
育児・介護休業法は、育児や介護をしながら働く労働者の支援を目的に成立した法律です。事業主には育児休業、介護休業に関するハラスメント防止措置が義務づけられています。
まとめ
ハラスメントとは相手が不快に感じる嫌がらせや迷惑行為のことで、何十種類ものハラスメントがあります。発生すると企業にリスクが起こるため、予防には教育・研修や社内ルールの設置が欠かせません。自社での研修・教育が不安な場合は、外部サービスの利用がおすすめです。
ユーキャンの法人向け人材育成サービスは丁寧なヒアリングで課題を抽出し、その法人様にフィットするご提案をいたします。ハラスメント研修について、お気軽にお問い合わせください。