• 更新日:2024/08/28

近年の日本では急速なIT化が進んでおり、IT系の資格を社員の標準資格に設定する企業も増えてきました。IPA(情報処理推進機構)が設けているIT系の国家試験では、ITパスポートと基本情報技術者が有名です。本記事では、ITパスポートと基本情報技術者の違いについて解説し、それぞれの資格を取得するメリットを紹介します。受験を考えている人は、ぜひ参考にしてください。

ITパスポートと基本情報技術者の違い

ITパスポートと基本情報技術者は、IT入門者向けの資格として、どちらも人気と知名度があります。資格取得にかかる費用はどちらも7,500円と同額なので、どちらを取得すべきか迷う人も多いでしょう。ここからは、次のポイントに沿って、ITパスポートと基本情報技術者の違いについて解説していきます。

  • 受験対象者
  • 試験内容
  • 難易度や合格率
  • 合格ライン
  • 出題範囲
  • 問題形式
  • 合格までの勉強時間の目安

どちらの資格も、取得するとIT関連の知識を有している証明になるため、今後の目標や目指す役職などに合わせて選択しましょう。

対象者の違い

ITパスポートと基本情報技術者の試験は、それぞれの目的や受験対象者が異なります。 まず、ITパスポート試験は、ITリテラシーを向上させたりIT技術を活用したりしたい人に向けたものです。試験内容では、情報技術や情報処理の基礎的な知識を問われます。情報処理の分野で、IT技術を活用する社会人としての知識を有する証明にもなる資格です。

一方の基本情報技術者試験は、ITエンジニアとしての技術が求められる資格であり、システムの設計や開発、運用などでの活躍が求められる試験です。ITエンジニアとして社内のIT技術の向上やIT関連の問題解決に取り組みたい人に適した資格といえます。

試験制度の違い

2023年の時点では、ITパスポート試験と基本情報技術者試験はともに、各地方の試験会場でCBT(Computer Based Testing)方式により実施されています。CBT方式は、試験会場に設置されたコンピューターを使って受験する方式です。

ITパスポート試験は、1年を通して毎月1~9回程度実施されています。基本情報技術者試験は例年4月と10月にCBT方式で実施されていましたが、2023年から毎月実施されるようになりました。どちらの資格も、受験するためには、IPAへの登録が必要であり、受験申込み時に試験日時と試験会場を選択します。

なお、試験時間は、ITパスポート試験が120分です。基本情報技術者試験は科目が2つあり、科目Aが90分で科目Bが100分です。

難易度・合格率の違い

ITパスポート試験と基本情報技術者試験は、難易度・合格率にも違いがあります。結論から述べれば、基本情報技術者試験のほうが難易度が高く、合格率が低い傾向にあります。

ITパスポート試験がすべての社会人・学生を対象にしているのに対し、基本情報技術者試験は情報技術者を対象としており、専門性が求められるためです。

合格率についても、両者には大きな違いがあります。ITパスポート試験の合格率は50%程度と比較的高い水準です。対して、基本情報技術者試験の合格率は20%~30%程度であり、合格率を比較しても基本情報技術者試験のほうが難しい試験といえるでしょう。

例年、基本情報技術者試験は、午後の試験で長文形式の問題が出題されており、この問題が難易度を上げ、合格率を下げているため、入念な対策が必要です。

合格ラインの違い

ITパスポート試験と基本情報技術者試験は合格ラインにも違いがあります。ITパスポート試験の場合は、総合得点が1,000点であり、600点以上で合格になります。ただし、ストラテジ系・マネジメント系・テクノロジ系の3分野すべての分野別評価点が、1,000点満点で300点以上なければ合格と認められません。

基本情報技術者試験の場合は、午前に行われる科目Aの試験で1,000点満点中600点以上、午後に行われる科目Bも1,000点満点中600点以上獲得すれば合格です。総合点数ではITパスポート試験と基本情報技術者試験のどちらも60%以上で合格点ですが、問題の難易度は基本情報技術者が高いとされています。

問題の出題範囲の違い

それぞれの試験の出題範囲にも違いがあります。

【ITパスポート試験】

大分類 中分類
テクノロジ系 基礎理論 基礎理論
アルゴリズムとプログラミング
コンピュータシステム コンピュータ構成要
システム構成要
ソフトウェア
ハードウェア
技術要素 ヒューマンインタフェース
マルチメディア
データベース
ネットワーク
セキュリティ
マネジメント系 開発技術 システム開発技術
ソフトウェア開発管理技術
プロジェクトマネジメント プロジェクトマネジメント
サービスマネジメント サービスマネジメント
システム監査
ストラテジ系 企業と法務 企業活動
法務
経営戦略 経営戦略マネジメント
技術戦略マネジメント
ビジネスインダストリ
システム戦略 システム戦略
システム企画

ITパスポート試験は3つの分野から出題され、基礎的な幅広い知識を問われます

【基本情報技術者試験 科目A】

科目A 大分類
テクノロジ系 基本理論
コンピューターシステム
技術要素
開発技術
マネジメント系 プロジェクトマネジメント
サービスマネジメント
ストラテジ系 システム戦略
企業と法務
経営戦略

【基本情報技術者試験 科目B】

科目B 情報セキュリティ・データ構造及びアルゴリズム(擬似言語)を中心に出題

基本情報技術者試験は、科目Aで3つの分野の知識を問われ、科目Bで長文問題を中心に20の小問が出題されます。

問題形式の違い

ITパスポート試験は、ITに関する知識を問う問題が多く、四肢択一方式で出題されます。受験者は、4つの選択肢の中から1つを選んで回答する仕組みです。

基本情報技術者試験は、ITに関する知識を確認する問題だけではありません。ITエンジニアとしての知識が求められ、システムの設計や開発・運用、必要な仮想言語を題材にした論理的思考を問う問題も出題されます。

合格までの目安勉強時間の違い

受験を決めるまでに取得した知識や技術力にもよりますが、合格までに必要な勉強時間の目安も異なります。

まず、ITパスポート試験だと、IT初心者の場合は100~130時間が勉強時間の目安といわれています。仮に、1日3時間の勉強時間を設定したとすれば、1ヵ月と少しです。

基本情報技術者試験は、ITエンジニアとしての知識や技術力よって大幅に勉強時間が異なりますが、目安時間は100~200時間です。ITエンジニアの初心者であれば、200時間程度の勉強時間を設定することがおすすめです

ITパスポート取得のメリット

ITパスポートの取得には多くのメリットがあります。

  • ITの知識習得
  • 就職活動でのアピール材料
  • 会社のITリテラシー向上に貢献できる

これらのメリットについて、詳しく解説していきます。

ITの幅広い知識を得られる

ITパスポート試験の出題範囲は、ITの仕組みやシステムなどが網羅されており、資格を得ることで、幅広い知識を習得したことが証明されます。ITの知識は、IT業界以外の業界でも需要が高まっているため、貴重な人材として重宝されるでしょう。

ITパスポートを取得するとどのようなリスクがあるのか理解でき、トラブルの発生も抑えられます。加えて、SWOT分析やBSC、財務諸表、損益分岐点分析などITに関連する知識が習得できるのも大きなメリットです。

就職時のプラス材料になり得る

ITパスポート試験に合格すれば、一定以上のIT関連知識を有していることが、客観的に証明されます。そのため、就職活動や大学などへの進学時にプラス材料になります。

IT化が急速に進んでいる現代において、IT関連の資格と知識を有することは大きなアピールポイントです。国家公務員採用試験や企業の採用試験、大学の入試、大学の単位認定などに役立つでしょう。

自社のIT力向上につながる

昨今は、ほとんどの企業でITを活用しており、不可欠な要素です。ITパスポート試験を人材育成や新人教育に導入する企業も増えており、自社のIT力向上と情報漏洩防止に役立つと考えられています。

人的ミスや故意により情報漏洩を起こしてしまうことは、企業の大きなダメージに繋がりかねません。IT力を向上させ、従業員のITの知識が豊富になれば、社内のコンプライアンスが強化されるでしょう。顧客にもITを利用した商品やサービスをスムーズに紹介できるようになることも大きなメリットといえます。

基本情報技術者取得のメリット

基本情報技術者取得の取得にも多くのメリットがあります。

  • 企業からの評価があがる
  • 就職活動に役立つ
  • IT関連での意思疎通に役立つ

これらのメリットについて、詳しく解説します。

企業からの評価につながる

基本情報技術者試験の合格は、社内での評価対象になることがほとんどです。この資格は、ITパスポート試験よりも難易度が高く、合格率も低い資格なので、企業によっては基本情報技術者の資格取得者に資格手当を支給しているケースも珍しくありません。自身のITエンジニアとしての知識を証明できるため、IT関連企業への転職でも有利な条件を得られるでしょう。

就職時のアピールになる

基本情報技術者試験は、基本理論に加えて技術要素や開発技術の知識も得られます。ハードウェアとソフトウェア、プログラミングに関する知識を有していることを証明できるため、IT業界への就職活動では大きなアピールポイントになるでしょう。ただし、基本情報技術者資格の取得者を優遇している企業も増えている一方で、即戦力を求める企業からは、実務経験も求められるかもしれません。

自社内での意思疎通が円滑になる

基本情報技術者を取得するとIT関連知識が豊富になるため、これまで難しかったIT関連部署との意思疎通が円滑になります。

IT系の部署では、IT関連知識があることを前提に話が進み、コミュニケーションをとることが多く、基礎的な知識を応用力や適応力の向上に役立てれば、さらなる成長にもつながります。人事異動で希望の部署へ配属される可能性も高くなるでしょう。

ITパスポートと基本情報技術者のどちらがおすすめ?

ITパスポート試験と基本情報技術者試験では、ITパスポート試験の難易度のほうが低いことは先に述べました。ITの初心者や実務経験のない学生・社会人なら、ITパスポート試験から挑戦することがおすすめです。ITパスポート試験でIT関連の基礎知識を得てから、基本情報技術者試験へと進むと、両方の資格をスムーズに取得できるでしょう。

一方、すでにIT業界で実務経験を積んでおり、ITエンジニアとして活躍している場合は、基本情報技術者試験を受けることが近道です。社内の評価や転職活動では、基本情報技術者の資格のほうが高い評価を得られます。また、ITパスポート試験と基本情報技術者試験は共通部分が多いため、両方の資格を同時に取得することも可能です。

まとめ

ITパスポート試験と基本情報技術者試験は、ともにIPAが行っている国家試験です。ITパスポート試験は、社会人全般が対象であり、合格率は50%前後です。基本情報技術者試験は、ITエンジニア向けの試験であり、合格率が20~30%とやや低い傾向にあります。ITの初心者などは、ITパスポート試験から始めるほうが得策でしょう。

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生涯学習のユーキャン
この記事の監修者は生涯学習のユーキャン

1954年設立。資格・実用・趣味という3つのカテゴリで多岐に渡る約150講座を展開する通信教育のパイオニア。気軽に始められる学びの手段として、多くの受講生から高い評価を受け、毎年多数の合格者を輩出しています。
近年はウェブ学習支援ツールを拡充し、紙の教材だけでは実現できない受講生サポートが可能に。通信教育の新しい未来を切り拓いていきます。

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ITパスポートとは、ITに関する基礎的知識を証明する、経済産業省認定の国家試験です。パソコンやインターネットを使うのが当たり前の時代。技術者だけではなく幅広い層に正しい知識が必要であることから、2009年4月に新設されました。Iパスとも呼ばれ、年齢、性別、職種を問わず人気資格です。