特定社会保険労務士とは?社労士との違い
- 更新日:2024/08/27
特定社会保健労務士とは、事業主と労働者のあいだで起きる紛争の代理人業務を行うことが認められる社労士です。この記事では、特定社会保険労務士として活躍したい人に向けて、特定社会保険労務士の業務内容、なるためのステップ、試験の合格率などについてくわしく解説します。特定社会保険労務士の資格取得に役立ててください。
特定社会保険労務士(特定社労士)とは
特定社会保険労務士は、通常の社労士の業務に加えて、労働者と事業主のあいだで個別労働関係紛争が起きたときに、代理人としての対応業務を行うことが認められています。裁判によらない円満解決のために業務を担います。社会保険労務士よりも取り扱える業務の種類は増えますが、社会保険労務士の上位資格ではありません。
一般的な社会保険労務士(社労士)との違い
一般的な社会保険労務士の業務は、労働環境の改善策を企業に提案するコンサル業務や書類作成などが中心です。一方で、特定社会保険労務士は、通常の社会保険労務士の仕事に加えて、法律業務として紛争解決手続きの代理業務にも対応が可能です。紛争解決手続きの代理業務は、労使間で起きる紛争を裁判によらずに話し合いで解決するために行います。
特定社会保険労務士が注目される背景
特定社会保険労務士が注目を浴びる背景には、近年、残業代の未払いや解雇、嫌がらせやいじめなどの問題が深刻化し、労働相談の件数が高止まりしていることがあります。都道府県労働局、各労働基準監督署、駅近隣の建物などで専門の相談員が対応する総合労働相談コーナーでの相談件数は、1年間で121万412件(令和5年度)に達しました。
弁護士や大学教授ら専門家が間に入り、話し合いを促すあっせん申請も3,687件に上ります。また、パワハラやセクハラなど、ハラスメントへの意識の高まりによる相談制度の存在の浸透も、相談件数が高止まりしている一因となっています。
- 参考:令和5年度個別労働紛争解決制度の施行状況|厚生労働省(https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/newpage_00165.html)
紛争解決手続き代理業務とは
紛争解決手続き代理業務は、トラブルの当事者と話し合い、「あっせん」「調停」「仲裁」を行います。このうち、特定社会保険労務士は「あっせん」という手続きでトラブルを解決に導きます。紛争解決手続きは、裁判外紛争解決手続き(ADR)とも呼ばれ、民事上のトラブルを裁判によらず決着させたい人のために、第三者が中立の立場から解決を図るために行う手続きを指します。紛争解決手続きを利用すれば、裁判をせずに法的な問題を解決することが可能です。
「あっせん」とは
特定社会保険労務士が行う「あっせん」とは、民事上のトラブルについて中立な立場にある公正な第三者が、トラブルの当事者それぞれから話を聞いて解決を促す行為です。「あっせん」は非公開で行われるため、双方のプライバシーを保てるという特長があります。また、裁判と比べると、解決までの時間がかかりません。
特定社会保険労務士(特定社労士)の業務とは
特定社会保険労務士が行える業務は以下のとおりです。
- あっせん申立てに関する相談・手続き
- 代理人として意見を陳述・和解の交渉・和解契約締結
具体的な業務内容と併せて解説します。
あっせん申立てに関する相談・手続き
特定社会保険労務士は、労働者や事業主からの要請があれば、あっせん申立てに必要な手続きを行います。あっせんの申立ては、労働者、事業主の双方が行うことが可能です。
代理人として意見を陳述・和解の交渉・和解契約締結
紛争解決手続き代理業務において、特定社会保険労務士はトラブルの当事者それぞれと面談を行います。特定社会保険労務士は、労働問題に関する知識を持つ専門家です。双方の言い分を聞き取り、和解策を提示したり合意に至る条件を提案したりして、解決に向かって交渉を進めます。
和解が成立すると、特定社会保険労務士は和解契約書を作成し、当事者双方ともに署名・捺印により和解契約を締結させます。
特定社会保険労務士(特定社労士)の具体的な業務内容
特定社会保険労務士の業務は、全国社会保健労務士会連合会によれば以下の通りです。
- 都道府県労働局及び都道府県労働委員会における個別労働関係紛争のあっせん手続き等の代理
- 都道府県労働局における障害者雇用促進法、労働施策総合推進法、男女雇用機会均等法、労働者派遣法、育児・介護休業法及びパートタイム・有期雇用労働法の調停の手続き等の代理
- 個別労働関係紛争について厚生労働大臣が指定する団体が行う裁判外紛争解決手続きにおける当事者の代理(単独で代理することができる紛争目的価額の上限は120万円)
代理業務には、依頼者の紛争の相手方との和解のための交渉及び和解契約の締結の代理も含まれます。
- 参考:紛争解決手続代理業務|全国社会保険労務士会連合会(https://www.shakaihokenroumushi.jp/about/tabid/212/Default.aspx)
特定社会保険労務士(特定社労士)になるためのステップ
特定社会保険労務士になるためには、以下の4つの手順を踏む必要があります。
- 社会保険労務士試験に合格する
- 社会保険労務士として登録する
- 特別研修を受ける
- 紛争解決手続代理業務試験に合格する
1.社会保険労務士試験に合格する
特定社会保険労務士として業務を行うためには、まず、社会保険労務士の試験に合格する必要があります。以下のいずれか1つを満たしている場合に、受験資格が与えられます。
- 短大卒と同等以上の学歴がある
- 一定期間以上の実務経験がある
- 厚生労働大臣が認める国家試験に合格している
受験には、受験資格があると分かる『受験資格証明書』の提出が必要です。社会保険労務士の試験は、年に1回、毎年8月に実施されています。国家試験である社会保険労務士試験は、例年合格率が10%を下回る、難易度が高い試験です。
2.社会保険労務士として登録する
社会保険労務士として業務を行うには、試験に合格するだけでなく全国社会保険労務士会連合会が備える社会保険労務士名簿に登録しなくてはなりません。登録は、以下のいずれかの条件を満たした人のみが可能です。
- 2年以上の労働社会保険諸法令に関する実務経験がある
- 連合会が実施する事務指定講習を修了している
3.特別研修を受ける
特定社会保険労務士になるためには、社労士として登録した後に特別研修として以下の3つの講習への参加が必須です。
- 中央発信講義(30.5時間)
- グループ研修(18時間)
- ゼミナール(15時間)
特別研修では、63.5時間のカリキュラムを漏れなく修了する必要があります。カリキュラムを1つでも欠席すると修了とならないため、スケジュール調整が大切です。特別研修の費用は85,000円です。
特別研修の内容
特別研修では、中央発信講義、グループ研修、ゼミナールの順に講習を修了する必要があります。
- 中央発信講義(30.5時間)
eラーニング形式で行われるオンラインの講義です。特定社会保険労務士の責務や倫理、憲法や民法、労働契約・労働条件、個別労働関係法制に関する専門知識、個別労働関係紛争解決制度などを学び、法的思考を養います。講義は、学識経験者及び弁護士が行います。 - グループ研修(18時間)
10人程度のグループに分かれて、個別労働関係紛争における申請書及び答弁書の作成に関する研修をゼミナール形式で行います。 - ゼミナール(15時間)
ロールプレイ等の手法を取り入れて、紛争解決手続き代理業務を行う上での実践的な能力を養います。講師の弁護士から、グループ研修で作成した申請書と答弁書について一問一答形式で回答を求められます。
4.紛争解決手続代理業務試験に合格する
毎年11月下旬か12月上旬に実施される、紛争解決手続代理業務試験での合格を目指します。紛争解決手続代理業務試験は、第1問が70点満点、第2問が30点満点です。100点満点中54〜60点以上かつ第2問目で10点以上の取得が、大まかな合格基準です。合格基準点は年度により異なりますが、第11回(平成27年度)以降は55点以上となっています。
試験に合格したのち、全国社会保険労務士会連合会が備える社会保険労務士名簿にその旨の付記を受けると、特定社会保険労務士としての業務が可能です。紛争解決手続代理業務試験は、マークシート式で解答する社会保険労務士の試験とは異なり、全ての問題が記述式で解答が求められます。
特定社会保険労務士(特定社労士)試験の受験者数と合格率
2023年から2019年までの過去5回の特定社会保険労務士試験(第19〜15回)の受験者数と合格率は以下の通りです。
実施年 | 受験者数 | 合格者数 | 合格者率 |
---|---|---|---|
2023年(第19回) | 892人 | 502人 | 56.3% |
2022年(第18回) | 901人 | 478人 | 53.1% |
2021年(第17回) | 950人 | 473人 | 49.8% |
2020年(第16回) | 850人 | 526人 | 61.9% |
2019年(第15回) | 905人 | 490人 | 54.1% |
試験は記述式のため、法律に関する知識だけでなく、文章としてまとめたり組み立てたりする能力も求められます。昨今の合格率は50〜60%で推移している、難易度の高い試験です。
- 参考:紛争解決手続代理業務試験の結果について |厚生労働省(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/roumushi/hunsou.html)
まとめ
特定社会保険労務士は、社労士の業務に加えて労使間のトラブルや紛争を代理人として解決する業務を担います。特定社会保険労務士になるには、社労士として登録したうえで特別研修を受講し、紛争解決手続代理業務試験に合格する必要があります。
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- この記事の監修者は生涯学習のユーキャン
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社会保険労務士(社労士)は、労働問題や年金問題、社会保険のエキスパート。社労士試験には、受験資格があります。次の代表的な受験資格(学歴・実務経験・試験合格・過去受験)のいずれかを満たす必要があります。まずは「学歴」です。1)大学、短大、高専(高等専門学校)等を卒業した方、2)4年制大学で、62単位以上を修得した方又は一般教養科目36単位以上かつ専門教育科目等の単位を加えて合計48単位以上を修得した方、3)修業年限が2年以上、かつ、課程修了に必要とされる総授業時間数が1,700時間(62単位)以上の専修学校の専門課程を修了した方などと定められています。次に「実務経験」における主な要件は、「法人の役員または従業員(いずれも常勤)として、通算3年以上事務に従事した方」などです。また、「試験合格」「過去受験」における主な要件として、行政書士試験や厚生労働大臣が認める国家試験の合格者及び直近の過去3回のいずれかの社労士試験の受験票又は成績(結果)通知書を所持している方などにも受験資格が与えられます。