社会人基礎力とは?
社会人基礎力は経済産業省が2006年に提唱した社会で多様な人々と働いていくための基礎的な力を指します。具体的には「前に踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」の3つの能力と12の能力要素から成り立っています。少子高齢化が進む中で、人生100年時代が到来。個人が社会や組織と関わる時間が長くなると予想されます。このような時代を生き抜くためには、自らキャリアを切り開く社会人基礎力が欠かせません。近年、日本でもIT化やDX、AIの進化が凄まじく、新しい情報やスキルを身につけなければ時代に取り残されてしまう状況です。社会人基礎力は変化の早い現代にも適応するため、常に学び、目的を持って生きていくための力ともいえるでしょう。
社会人基礎力を構成する3つの能力と12の能力要素
社会人基礎力は「前に踏み出す力(アクション)」「考え抜く力(シンキング)」「チームで働く力(チームワーク)」の3つの重要な能力と、さらに、3つの能力を細分化した12の能力要素で構成されています。それぞれの能力について具体的に解説します。
前に踏み出す力(アクション)
「前に踏み出す力(アクション)」とは「一歩前に踏み出し、失敗しても粘り強く取り組む力」とされています。例えば誰でも初めて挑戦することには緊張しますし、失敗を怖いと思うことがあります。それでも失敗をおそれずに挑戦し、成功に向けてどうすればいいかを考え、最善策を取ろうとするでしょう。誰かの指示に従うのではなく、自分の意思で前へと進み、行動することが「前に踏み出す力」とされています。その点を踏まえ「主体性」「働きかけ力」「実行力」の3つが能力要素とされています。3つの能力要素について具体的にみていきましょう。
・主体性
社会人基礎力における「主体性」は「物事に進んで取り組む力」とされています。主体性のある人は上司や先輩からの指示を待たずとも、やるべきことを見極め行動することができます。また 挑戦したことがない仕事に積極的に取り組んだり、新しい価値を創造するなど、常識にとらわれないチャレンジも主体性があってこそできることです。社会人として活躍するためにも、主体性は非常に重要な能力といえます。
・働きかけ力
「働きかけ力」は「他人に働きかけ巻き込む力」とされています。主体性にも共通することですが、指示を待って行動するのではなく、目標に向けて自分から他者に働きかけて行動する力を指します。課題を解決するためには自分だけではなく、周りの理解、協力が必要になります。また新しい分野や商品開発を進めるために、社外の人と交流することもあるでしょう。多様な価値観を受け入れ、信頼関係を構築し、同じ目標へ向かって人を巻き込む力が「働きかけ力」です。自分が主体的に取り組み、なぜ協力が必要なのか、周りがモチベーションを維持できるような声かけを続けることも大切です。
・実行力
「実行力」は「目的を設定し確実に行動する力」とされています。前に踏み出す力があっても、無計画に行動するのでは周囲の理解や協力は得られず、目標を達成することも難しいでしょう。実行力とは単に行動することだけでなく、目標を正しく見定め、達成までの道のりを具体的に計画・実行できる能力とも言い換えられます。また実行力の高い人は、目標設定や行動計画に沿って動けるだけでなく、失敗しても諦めずに行動し続ける特徴があります。挑戦することをおそれず、失敗し次の挑戦への糧にできる粘り強さが実行力の本質です。主体性・働きかけ力とともに重要な力であり、目標を達成するために欠かせない能力の1つです。
考え抜く力(シンキング)
「考え抜く力(シンキング)」とは「疑問を持ち、考え抜く力」とされています。論理的思考力をイメージするかもしれませんが、論理的に考えるのではなく、日々の生活や仕事の中で常に問題意識を持ち、課題を解決するためにシナリオを考える力を意味します。考え抜く力には、問題提起し、問題解決までの道のりを繰り返し考え、自律的な思考力を高めることが重要です。 考え抜く力は、「課題発見力」「計画力」「創造力」の3つで構成されています。それぞれについて、詳しくみていきましょう。
・課題発見力
「課題発見力」は「現状を分析し目的や課題を明らかにする力」とされています。課題発見力の高さとは、現状の課題を分析し、目標を達成するためにどのような課題や障害があるか認識するための力です。現状を正しく理解するために情報収集、分析を行い、時には他者からの意見も参考にしながら目標を達成するために何をどう解決しなければならないのか明らかにしていきます。課題発見力とは個人で完結するものではなく、発見した課題を周囲に説明し、理解してもらうことも含みます。「前に踏み出す力」の「働きかけ力」にも通じる能力といえるでしょう。他者と課題を共有し、一緒に解決策を探っていくことも課題発見力です。
・計画力
「計画力」は「課題の解決に向けたプロセスを明らかにし準備する力」とされています。計画力の高い人は課題解決のために目標から逆算して考え、最善の行動計画を立てられます。また計画を実行するために必要な準備も進め、実現可能性の高い計画を考え、着実に実行していく力ともいえるでしょう。「前に踏み出す力」の「主体性」や「実行力」とも関係しており、自律した行動をするには「計画力」も不可欠です。そして計画力で大切なのは、計画の状況を常に注視し、必要に応じて軌道修正していくことです。計画が予定通りに進まない場合も考慮し、目標達成に必要なプロセスを見直す力が求められるでしょう。
・創造力
「創造力」は「新しい価値を生み出す力」とされています。「創造」という言葉の通り、既存の枠や発想にとらわれず、新しい価値や商品、解決方法を導き出す力です。組織や企業に所属していると、価値観や環境が変わりにくく、創造力も働きにくくなります。逆に社外や地域のさまざまな人や価値観に触れることで固定観念が破られ、自由な発想がしやすくなります。創造力の高さは新しい価値観を生み出すとともに、イノベーションの創出にもつながりやすいです。成長や変化が少ない組織ほど、創造力を高めて変化を起こすことが重要になります。
チームで働く力(チームワーク)
「チームで働く力(チームワーク)」は「多様な人々とともに、目標に向けて協力する力」とされています。部署やチーム、個人的なグループだけでなく、社外や地域などさまざまな人とのつながりの中で、お互いに助け合う力が高められるでしょう。会社でも地域でも、大きな目標を叶えるためには個人でできることは少なく、多くの人の協力が不可欠です。自分の価値観や能力だけでなく、他者の価値観や能力を尊重し、協力することで「チームで働く力」は磨かれていきます。<strong class="p-column-text-em"> 「チームで働く力」は「発信力」「傾聴力」「柔軟性」「状況把握力」「規律性」「ストレスコントロール」の6つの能力で構成されています。</strong>それぞれの能力について紹介します。
・発信力
「発信力」は「自分の意見をわかりやすく伝える力」とされています。例えばSNSのインフルエンサーなどは、自分の意見を端的にわかりやすく伝えるよう情報を整理し、理解してもらえる言葉で発信することを得意としています。社会人でも相手に自分の意見をわかりやすく伝えるために、最も重要な情報を先に伝えたり、根拠となるデータを用いたりするのが一般的です。仕事においては論理的な説明をできることが、わかりやすく伝えるうえで重要とされています。
・傾聴力
「傾聴力」は「相手の意見を丁寧に聴く力」とされています。傾聴力の高い人は相手の話しやすい雰囲気や環境を作り出し、相槌や質問なども駆使して相手の意見や気持ちを引き出すことを得意とします。 <strong class="p-column-text-em">傾聴力で大切なことは相手の意見や気持ちを引き出すだけでなく、相手のことを深く理解することです。</strong>人は自分の価値観を基準に物事を見る傾向があるため、相手の話を聴いても自分の基準で判断してしまいがちです。傾聴力を高めることで自分基準ではなく、相手を基準に物事を捉え、本当の意味で相手のことを理解できるようになるでしょう。
・柔軟性
「柔軟性」は「意見の違いや相手の立場を理解する力」で、多様な考えや価値観を持った人々と協働して生きるために欠かせない能力です。柔軟性が高いと、自分の意見や考えだけに固執せず、相手の立場や意見、考えを尊重しながら対応できます。社会生活では状況や環境の変化に臨機応変に対応し、新しいアイデアを取り入れることができます。
・情況把握力
「状況把握力」は「自分と周囲の人々や物事との関係性を理解する力」とされています。集団で行動する場合に、状況把握力の高い人は自分の役割ややるべきことを理解し、的確な行動に移せます。チームで働く場合に必要な能力となり、状況把握力の高い人と一緒に働くと、チームワークも円滑になるでし
・規律性
「規律性」は「社会のルールや人との約束を守る力」とされています。社会人にとって、社会のルールに則って活動し、約束を守ることは当然のことです。規律性ではルールや約束を守ることに加え、社会人としてのマナーや倫理観を身につけ、正しい振る舞いをすることも含まれます。
・ストレスコントロール力
「ストレスコントロール力」は「ストレスの発生源に対応する力」とされています。社会人として働く人であれば、多かれ少なかれ日々のストレスを感じることはあるはずです。ストレスコントロール力が高いと、そうしたストレスをただ蓄積するのではなく、成長のためのエネルギーに変換できます。またストレスコントロール力の高い人は、発生源を自分で見抜いてその原因を取り除くために自分なりの行動を取り、ストレスを和らげようとする防衛行動にもつなげられます。
人生100年時代の社会人基礎力
日本では男女の平均寿命が80歳を超えており「人生100年時代」ともいわれています。それだけの長寿大国である日本では、社会人として働く期間も非常に長くなっています。そして長く働くということは、社会の変化に適応し、知識と技術をアップデートし続けなければなりません。そこで経済産業省は2018年に「個人の企業・組織・社会とのかかわりのなかで、ライフステージの各段階で活躍し続けるために求められる力」を提唱し「人生100年時代の社会人基礎力」を定義しました。 「人生100年時代の社会人基礎力」では、「学び」・「組み合わせ」・「目的」という3つの視点からキャリアについての重要性が語られています。3つの視点について、詳しく紹介します。
【学び】何を学ぶか?
【学び】では「何を学ぶか」を重点にしています。「学び続けることを学ぶ」がコンセプトであり、ライフステージが進んでも各段階に合わせた学びを続けることが大事であるとしています。高度経済成長期の日本では終身雇用・年功序列制が当たり前で「年齢=キャリア」が当たり前でした。しかし現代では実力のある人材はキャリアアップできますが、時代の流れに乗り遅れるとキャリアアップの機会を逃してしまいます。そこで「学び続けることを学ぶ」という姿勢が人生100年時代の社会人には重要であり、強みは伸ばし弱みは補うことが大切になっています。ただし自分が何を学ぶべきか、学んだことをどこで生かすかといった視点がなければ、本当の意味で「学び」を生かすことは難しいでしょう。
【組み合わせ】どのように学ぶか?
【組み合わせ】は「どのように学ぶか」を重視しています。組み合わせとは、体験や実践を通して得たものをリフレクション(振り返り)し、キャリアなどと組み合わせて最後に統合していくことです。【学び】では学び続ける意識を身につけることが重視されていましたが、学び続けて終わりではありません。吸収した知識を自分の経験や知識、スキル、キャリアとも組み合わせることで新しい能力へと発展させる必要があります。組み合わせは個人の持つ経験や知識などが反映されるため、それぞれが個性を持つタレントになれる可能性があります。またそれぞれの個性を組み合わせることで、新たな価値の創造へとつなげ、イノベーションを起こすきっかけにもなるでしょう。
【目的】どう活躍するか?
【目的】は「どう活躍するか」という視点です。ある目的を持って行動する場合に、自分がどのように活躍すべきかを考えることです。例えば「社会に貢献できる仕事をする」という目的がある場合、具体的に自分がどのように活躍できるか、何に貢献できるかを考える必要があります。独自のスキルを生かすのか、人脈を生かした働きかけを行うのか、リーダーシップを取って行動するのかなど、活躍の方法は人それぞれです。目的を達成するためには、自分の持つ経験・知識・スキルを最大限活用し、何ができるかを模索し続けることに意味があります。そして活躍できる道があれば、思い切って行動する決断力と実行力も求められるでしょう。
社会人基礎力の鍛え方
社会人基礎力は長い時間をかけて鍛えるものですが、鍛え方にもポイントがあります。社会人基礎力の鍛え方について、4つの重要ポイントを解説します。
自分の現状を客観視する
社会人基礎力は、いずれも社会人にとっては必要不可欠な能力です。しかし社会人経験や個人の特性によって、高い能力もあれば低い能力もあるでしょう。社会人基礎力を鍛えるには、現状の自分を客観視して、自分の長所・短所は何かを認識することから始めることが大切です。自己分析や社会人基礎力の診断を行い、自分の能力を第三者に評価してもらえば、成長するために必要なことがわかります。中には診断結果に納得のいかない人もいるかもしれませんが、自分が他者からどう見えているかを知る機会にもなります。現状を客観視することで今後のキャリア、自分の能力をどう生かしていけばよいかなど、自分の新たな可能性を知るチャンスにしましょう。
強みを活かし、弱みは補完する
社会人基礎力には細分化された12の能力がありますが、その中でも高い能力があれば低い能力もあるはずです。社会人基礎力を高めていくには、強みはそのまま伸ばし弱みを補完していくことが大切です。例えば働きかけ力が強みで周囲を巻き込む力がある人は、そのままチームワークやコミュニケーションを武器にしながら、弱みとなる部分を克服するのがよいでしょう。苦手なことを諦めるのではなく、少しずつでも学び、改善しようとする姿勢が重要です。身近に尊敬する人物や見習いたい人がいるのなら、その人を参考にして行動するのもおすすめです。できないことでも克服するための努力を習慣化すれば、いずれは強みに変わります。
社会人基礎力を意識して過ごす
普段の生活で社会人基礎力を意識していない人は、社会人基礎力を意識しながら過ごすのもポイントです。普段の仕事で自分に足りていない部分を認識し、意識的に行動を変えてみましょう。また仕事以外のプライベートな場面で社会人基礎力を意識するのも効果的です。日々の生活と社会人基礎力を結びつけることで、意識的に不足する能力を鍛えることができます。そして定期的に振り返りを行うことで、自分ができるようになったこと、集中的に鍛えたい部分を常に確認しましょう。社会人基礎力は仕事以外でも通用する能力ですから、日常生活でも学び続ける姿勢を持つことが訓練になります。
育成支援プログラムや研修に取り組む
社会人基礎力を鍛えるには、自己学習以外の支援を利用する方法もおすすめです。学生や一般向けに企業や大学が社会人基礎力について育成支援を行うプログラムや、企業の新人・若手向けに育成支援制度を設けている場合があります。中には、実際に社会で活躍する人や企業の経営者など、社会人基礎力の高い人と直接接する機会が提供されることもあります。企業が社員向けに社会人基礎力の向上を狙うなら、外部の専門機関に依頼し、講師による研修を実施してもらうのもよいでしょう。社会人基礎力についてはさまざまな企業や教育・行政機関も注目していますから、積極的に活用して自分の力にしてください。
まとめ
社会人基礎力は社会人が基礎的に備えておく必要がある能力であり、幅広い世代が長く活躍できる社会をつくるために必要な力です。日本は平均寿命が世界トップクラスの国であり、人生100年時代を生きていくには、社会人基礎力はますます重要になっていくでしょう。企業としても既存の人材が長く活躍できる環境にするため、社会人基礎力の育成支援が必要になります。10年、20年後のキャリアまで見据えて、社員の学び続ける意識を高め、時代の変化に対応できる会社を目指しましょう。