組織課題とは何?
組織課題とは、組織全体での理想的な姿を目指すにあたって、その障害や課題になっているものを指します。経営者が組織課題を明確に示すことで、社内で解決すべき課題を全員で共有でき、同じ方向性で解決を目指せるようになります。組織課題の例としては「人材育成が進まない」「チャレンジ精神が育たない」「新しい制度が浸透しない」など、組織運営上の課題になりやすいものがわかりやすいでしょう。顕在化している課題と潜在化している課題があるため、何が課題になっているか分析することが重要です。そのうえで、課題の重要性や緊急性に応じて優先順位をつけ、会社として解決へ導く姿勢を見せなければなりません。
組織課題のタイプについて
先ほども述べましたが、組織課題には顕在課題と潜在課題の2種類があります。それぞれのタイプの特徴と例について紹介します。
顕在課題
顕在課題は、組織や社員が認識できている課題のことです。わかりやすい例として次のものがあります。
・人材不足
若手が入社しない・専門知識のある人材が少ない・部署に適切な人材を配置できない
・離職率の高さ
就職3年以内の離職率が高い・中途採用してもすぐに離職する
・生産性の低下
組織全体のモチベーションが低い・業務の効率が悪い
・業績の低迷
赤字額が大きくなっている・物価高により商品が売れない
このように目に見えるもの、数字で把握できるものが顕在課題です。社員の多くが認識している課題であり、社員の間でも共通認識になっている場合があります。そのため、顕在課題を把握するには社員へのアンケートやヒアリング、面談などを行うのがよいでしょう。同時に複数の社員と話し合い、解決策を出し合うことで改善策につながることがあります。社員の多くが共通課題として認識しているため、解決策の実行にも協力と理解を得やすいのが特徴です。
潜在課題
潜在課題は課題が表面化しておらず、組織や社員がまだ認識できていない課題のことです。認識できていないことから言語化することが難しく、課題解決への協力と理解を得るのも難しいという特徴があります。潜在課題の例には次のようなものがあります。
・経営者と社員の意識のズレ
経営者の理念に社員がついていけない・管理職と現場との認識の違い
・社内のコミュニケーション不足
上司と部下の折り合いの悪さ・社員間のコミュニケーション不足・メンバー間の性格の不一致
・マネジメント層の不足
管理職に就ける人材が少ない・管理職のマネジメントスキル不足・パワーハラスメント
・メンタルヘルス
上司のハラスメントによる被害・労働時間の長さによるうつ病
潜在課題の多くは目に見えていても、それを課題として認識できないことが多いです。
特に「慣れ」によって課題として認識できない場合、そのまま見過ごされてしまうこともあります。客観的な視点で課題を把握し、早期発見と対応を行うことが大切です。
企業における組織課題の具体例
企業における組織課題の具体例について紹介します。
離職率の増加
企業にとって、離職率の増加は人材の不足と生産性の低下という大きな問題につながる組織課題です。特に大きいのが、早期離職や優秀な若手社員の離職です。若手社員が会社からいなくなれば、将来的に会社を担う人材がいなくなってしまいます。加えて中途採用で人材を補充しなければならず、そのための時間とコストも発生します。離職率増加という経営課題を解決するには、社員が満足感を持って働ける職場環境を整備し、エンゲージメントを高めることが大切です。例えば残業時間の削減、公正公平な評価基準の設定、教育制度の充実、ハラスメントをゼロにするなどが考えられます。 社員の離職は現実と理想とのギャップによって生じるため、社員が納得して働ける会社にすることが最も重要です。
部署間・社員間のコミュニケーション不足
企業規模の大小や業界を問わず、会社内のコミュニケーション不足はどの会社でも組織課題として起こりえます。コミュニケーション不足は部署間・社員間の情報共有の不足につながり、会社全体の事業に影響を及ぼす可能性があります。特にチームや部署間で連携して進めるプロジェクトでは、お互いの認識の違いから生産性が低下することもあるでしょう。またコミュニケーション不足は社員の相互理解を阻み、陰口や悪口の温床になることもあります。コミュニケーション不足は顕在課題であると同時に、潜在課題の側面も持ちます。社内でコミュニケーションを取りやすいようにSNSやチャットツールの導入、掲示板の利用、社内イベントの開催などで改善を進めてください。
理念の浸透不足
経営者や会社の理念が社員に十分浸透していないと、社員の行動に一貫性がなくなり、会社のイメージを損ねるおそれがあります。企業の理念や経営方針といった「MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)」は、社員が同じ価値観や未来、方向性を持って働くために重要な指標です。同じ業界の企業であっても、それぞれに独自の理念や経営方針を掲げています。それが企業の風土や文化であり、企業の対外的イメージにもつながっています。
しかし理念や経営方針が社員に十分浸透していなければ、部署やチームでもまとまりがなくなり、生産性の低下や人間関係の悪化につながるでしょう。会社としてどんな理念や方針を掲げているのか周知するとともに、各部署の社員がどのような働きをしているか把握することが大切です。社員の働きを理念にも反映し、会社が社員を大切にしていること、仕事内容が会社の発展に結びついていることを理解してもらいましょう。
人材育成の遅滞
「人材育成がなかなか進まない」「研修をしても成果が出ない」といった人材育成の遅滞も、組織課題の1つです。資金力の小さな中小企業にとって、人材育成にかける人員・時間・コストは負担になることもあるでしょう。大企業であっても人材育成には多くの時間とコストをかけることから、効率的なカリキュラムの計画が求められます。また教育を受ける社員にとっては、本来の業務に加えて研修を受ける必要があり、限られた時間を有効活用しなければなりません。そのため、人材育成を円滑に進めるにはOJT・OFF-JT、eラーニング、公開研修などを活用し、さまざまな方法でアプローチすることが求められます。
業務の非効率
非効率的な業務工程や体制も、組織課題によくあるパターンです。特に人の手での入力作業や紙媒体での情報共有など、時間がかかるうえに伝わるまでに時間のかかる方法は改善すべきポイントといえます。例えば、紙媒体で資料などを作成すると紛失のリスクがあることに加え、伝達に時間がかかり、紙や印刷のコストも発生します。またデジタルとは異なり、誰が閲覧したのかがわかりにくく、伝達漏れの可能性もある点が大きな問題です。
紙媒体に限らず、アナログな方法は業務効率が低下するため、デジタル技術を活用していくことが改善策となります。チャットツールや掲示板によるコミュニケーション、タスク管理ツールでの業務管理、勤怠管理システムでの勤怠・給与計算などが良い例です。 非効率で生産性低下につながっている部分を見直し、デジタルやIT技術を駆使した業務効率化を進めましょう。
不適切な人事評価制度
「人事評価制度が時代に合っていない」「能力や成果よりも経験年数が重視される」など、不適切な人事評価制度を維持している企業も少なくありません。日本では終身雇用・年功序列制の残る企業も多く、優秀な人材や若手社員にとっては、公正公平な評価にはなっていないことがあります。会社に貢献している人材からすれば「成果が正当に評価されていない」と感じ、納得しにくい制度といえるでしょう。社員の努力や成果が正しく評価に反映される仕組みや基準を設ければ、組織全体のモチベーションが高まり、会社と社員両方の成長へと結びつきます。適切な人事評価制度を設けるには、部署毎の仕事内容や定量的な基準、公正な評価項目などを設ける必要があります。可能な限り公正公平な人事評価制度を作り、人材確保と企業の成長を目指しましょう。組織課題を発見する方法
組織課題にはすでに認識しているもの、気付きにくいものを含め、多様な課題があります。組織課題を発見するにはどのような方法があるのか、具体的な4つの方法を紹介します。
アンケート調査
組織課題を発見するには、現場で働く社員が悩んでいること、改善してほしいと感じていることを知ると確実性が高いです。社内でアンケート調査を行い、上司や会社には伝えにくい悩みや要望、提案をしてもらうのが効果的です。経営者から見えている組織と、現場で働く社員から見えている組織では、視点の違いや認識の違いがよくあります。経営者視点では課題になっている部分でも、社員には上手く伝わらないことも珍しくありません。その逆もまたしかりで、社員視点で経営課題となっている部分を把握することで、改善すべき課題が見えてくることもあります。アンケートは定期的に行い、課題の把握と同時に課題が改善しているか、新しい改善案がないかを記入してもらうことも重要です。ただし、アンケート調査を行う際は匿名を基本としましょう。部署名と名前を記載する形では、社員の本音を引き出すのが難しいからです。
1on1ミーティング
社員の上司による1on1ミーティングも、経営課題の発見につながる方法です。面談は社員が普段の業務で困っていること、不満に感じていること、会社の問題点などを聞き出すために効果的です。面談で話した内容は外部に漏らさないこと、活用する際も匿名を厳守することをあらかじめ約束します。面談を行う際は、社員が周囲の目を気にせずにリラックスして話せる環境を用意し、本音を引き出すことが大切です。社員にとって上司との面談は少なからず緊張するものであり、余計なことを話さないように警戒しながら臨んでいます。そのため、上司や管理職から社員に歩み寄る姿勢を見せ、話しやすい場を調整しましょう。また、面談を行う際は日頃からの信頼関係も重要です。信頼されていない上司との面談では、社員も本音で話してはくれません。社員の本音を引き出すためには、面談を行う担当者は利害関係がなく、信頼できる人が行うべきです。
社内会議
組織課題を発見するには、定期的な社内会議で組織全体の状況を把握する必要があります。社内会議は各部署の代表者が集まり、それぞれの抱える課題や解決策を話し合う機会になります。自分の部署だけでは把握できない課題でも、他部署の意見を聞くことで発見できることもあるでしょう。また課題が発見できたら会議内で話し合い、具体的な解決策を検討できる点もよいところです。社内会議で話し合って出た内容を部署に持ち帰り、チーム内で話し合う方法も効果的です。社員が組織課題を共有し、解決に向けて同じビジョンを持ちやすくなります。経営課題の解決に向けて一致団結できれば、社員間のコミュニケーション活性化につながります。社員一人ひとりの課題を解決する意識の醸成になり、組織の健全化と業務効率化への足掛かりとなるはずです。
ブレインストーミング
経営課題発見の方法として、ブレインストーミングを取り入れるのもおすすめです。
ブレインストーミングは会議の場を設定し、参加者で課題の発見と整理、そこから関連するワードやアイデアを提案していく手法です。例えば「離職率増加→モチベーション低下→仕事量が負担になる→人材不足」のように、経営課題から連想される言葉を次々に話し合っていきます。ブレインストーミングは数人で話し合うよりも、多人数で話し合うほど多様な意見を取り入れられる点が特徴です。そのため、経営課題発見には複数の部署から社員に集まってもらい、それぞれの視点から意見を出し合ってもらうのが理想です。当たり前に行っていた業務の中にも、視点を変えれば経営課題が隠れていることもあります。多角的な視点から経営課題を発見し、課題解決へと導いていくためにブレインストーミングを活用しましょう。
組織課題を解決する4つのステップ
組織課題を解決するには4つのステップがあります。
・組織課題の把握と共有
・課題の分析と優先順位決定
・課題解決策の検討と実行
・検証・評価
4つのステップの具体的なポイントについて解説します。
組織課題の把握と共有
最初に行うのは、組織内にある顕在・潜在課題の把握と共有です。まずはどのような課題が組織内にあるか細かく調査し、社内全体で課題に対して共通した認識を持つことが大切です。組織全体で課題を共有することにより、社員からの協力も得やすくなります。また課題の解決策を話し合う際も、課題が明確になっているほど意義のある話し合いになります。重要度や緊急度を問わず、洗い出せる課題を一通り探ってみることから始めましょう。
課題の分析と優先順位決定
続いて、洗い出した課題から具体的な原因を分析し、課題ごとに優先順位を決定します。優先度の高い課題ほど先送りにはできませんから、原因分析に時間と人員をかけ、優先順位を早期に決めるべきです。優先順位と緊急性の高い課題とは、次のようなものです。
・経営に影響を及ぼすおそれがあるもの
・社員の離職につながりやすいもの
・社員の働き方や給与に関係するもの
・顧客に悪影響を与える可能性があるもの
こうした課題は組織そのものに損害を与える可能性があるだけでなく、社員のモチベーションやエンゲージメントを低下させるおそれがあります。
課題解決策の検討と実行
優先順位を決定したら、具体的な課題解決策の検討と実行の段階です。組織課題の根本原因を解決できる対策、または原因となるものを緩和・軽減できる対策を会議で話し合います。対策を考える際は現実性があり、社員への過度な負担とならないことを前提に考えることが重要です。組織課題の解決には社員の協力が不可欠ですから、社員への負担はモチベーション低下を招くおそれがあります。わかりやすく、具体性のある解決策を提示し、現場の協力も得ながら進めましょう。
検証・評価
課題解決策は実行して終了ではなく、効果の検証・評価も行う必要があります。 解決策を実行したら一定期間でPDCAを回し、対策の改善に結び付けましょう。改善を続けながら、中長期的な視点で課題解決まで持っていくことを意識することが大切です。
組織課題を解決する際に活用すべきフレームワーク
組織課題の解決に役立つフレームワークについて、4つ紹介します。
7S
7Sとは世界的なコンサルティング会社のマッキンゼーが提唱した「マッキンゼーの7S」とも呼ばれるフレームワークです。7Sはハードの3Sとソフト4Sに分けられ、それぞれの要素のバランスが組織課題の発見やマネジメントに重要とされています。まず、ハードの3Sの具体的な要素は次の通りです。
・戦略(Strategy):事業戦略や経営の方針
・構造(Structure):組織構造や形態
・仕組み(System):組織内の制度や仕組み
次にソフトの4Sは次の通りです。
・人材(Staff):社員
・経営スタイル(Style):組織の風土や方針
・価値観(Shared value):ミッション・ビジョンや会社としての方向性
・スキル(Skill):組織としてのスキルや技術
7Sの考え方では、企業を発展させるためにはすべての要素のバランスが整っていることが重要です。組織課題を発見するために、7Sの各要素の視点から組織の状況を把握し、不足している部分を改善していくのが効果的です。
MECE
MECEとは「Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive:漏れなく、ダブりなく」の頭文字を取っています。ロジカルシンキングを行うための基本とされ、課題解決へのアプローチを導き出す際に使われます。MECEでは3つの工程で物事を分析する点が特徴です。
・目的を設定
・要素の洗い出し
・要素の細分化
各工程で重複するもの(ダブり)がないか確認しながら、要素の細分化まで進んだら、課題となっている部分をチェックしていきます。そして各要素に漏れがなく、ダブりがない状態まで検討が進んだ時に、経営課題への適切なアプローチができるようになります。そのため各工程でしっかりとロジカルシンキングを行い、漏れとダブりがない状態にしていくことがMECEにおいては重要です。
KPI
KPIとは「重要達成度指標」または「重要業績評価指標」と呼ばれ、組織の目標達成までのプロセスを評価する指標のことです。 KPIは結果ではなく、目標達成に必要な行動をどれだけ行ったかを指標にしている点が特徴です。 例えば「営業での年間売上1,000万円アップ」を目標にした場合、そのために必要な行動はアポイントメントや販売促進、広告を行うこととなります。KPIでは「電話連絡100件」「訪問営業1日10件」など、目標達成に向けて取った行動を数値化して指標とします。つまり最も大きな目標を達成するために、社員が今どのようなプロセスを踏んでいるか把握するための指標がKPIです。KPIを設定する際は「SMARTの法則」も利用し、具体的・計測可能・達成可能・期限が明確であることも重要です。目標達成のプロセスであるKPIが現実離れしていると、社員の行動をかえって阻害してしまいます。
PDCAサイクル
PDCAサイクルとは問題を特定し、解決策の計画・実行・評価・改善を反復しておこなうサイクルのことです。このサイクルは組織課題解決以外にも、ビジネスのさまざまな場面で応用されているフレームワークです。一定期間毎に改善策の評価を行い、さらなる改善につなげていきます。組織課題の解決には中長期的な視点が必要ですから、PDCAサイクルは長期的な改善策とも相性の良いフレームワークです。
人材育成のことならユーキャンへ
企業の人材育成ならユーキャンへご相談ください。企業にとって経営課題になるのが、次世代を担う人材育成です。人材育成は組織課題とも結びつきが強く、どの企業にとっても頭を悩ませる課題となっています。ユーキャンの人材育成研修では、人材育成の基本はもちろん、組織課題解決に役立つフレームワークやノウハウ、知識も学べます。次世代の人材育成が経営課題になっていると感じたら、ぜひユーキャンの人材育成研修をご活用ください。
まとめ
今回は経営課題について、概要や具体的な課題の例、必要なプロセス、有効なフレームワークなどを解説しました。経営課題はどの企業も大小さまざまなものを抱えており、組織が大きくなるにつれて自然と発生するものです。一見しただけではわかりにくい経営課題もあり、意識的に発見に向けたアプローチをする必要があります。経営課題は放置するほど社員のモチベーションと生産性を低下させ、離職率増加につながるおそれもあります。
組織に顕在化・潜在化する課題を見抜き、適切な対策を打つためにも、課題解決に向けた知識を学び続けましょう。