デジタルスキル標準とは何?
デジタルスキル標準とは、ビジネスパーソンのDX人材育成に必要な基本知識、スキル、マインドなどの指標のことです。そして、デジタルスキル標準にはDXリテラシー標準(DSS-L)とDX推進スキル標準(DSS-P)の2種類があります。デジタルスキル標準は2022年12月、経済産業省と独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が策定しました。社会の変化に対応していくために、基礎となる指針やマインドをまとめたのがDXリテラシー標準、DXの活用にあたって習得すべき知識・スキルをまとめたのがDX推進スキル標準です。それぞれの概要について紹介します。
DXリテラシー標準(DSS-L)
DXリテラシー標準(DSS-L)とは「働き手一人ひとりがDXに参画し、その成果を仕事や生活で役立てるうえで必要となるマインド・スタンスや知識・スキルを示す、学びの指針」とされています。つまり、すべてのビジネスパーソンが身につけるべき能力・スキルの標準を策定したのが、DXリテラシー標準です。DXリテラシー標準はDX推進を通して、社会に新たな価値を生み出す意識や姿勢を意味する「マインド・スタンス」を基盤にしています。マインド・スタンスの上にWhy(DXの背景)、What(DXで活用されるデータ・技術)、How(データ・技術の活用)の3点がある構図です。DXリテラシー標準は急速に進む社会のIT化・DXに対応するために、企業や社員がDXと関連するスキルを学ぶうえでの基本となる指針です。
DX推進スキル標準(DSS-P)
DX推進スキル標準(DSS-P)とは「DXを推進する人材の役割や習得すべき知識・スキルを示し、それらを育成の仕組みに結び付けることで、リスキリングの促進、実践的な学びの場の創出、能力・スキルの見える化を実現する」ことを目的に策定されました。DX推進スキル標準では、データやデジタル技術活用にまつわる人材について、次の5つを定義しています。
・ビジネスアーキテクト
・デザイナー
・ソフトウェアエンジニア
・サイバーセキュリティ
・データサイエンティスト
5つの人材類型が相互に連携することで、ビジネスや製品、サービスの変革につながるとしています。
デジタルスキル標準が定義された背景と目的
社会のデジタル化・DXは急速に進んでおり、デジタルスキル標準が定義された背景や目的にも関係しています。国がデジタルスキル標準を策定した背景・目的は次の2点とされています。
・AI開発に伴うDXの加速
・デジタル人材確保の困難
AI開発に伴うDXの加速
デジタル分野においては、近年AIが目覚ましい進化を遂げています。代表的な例は、生成AIのChatGPTです。質問に対してネット上の情報から適切なものを選んで返答を行うだけでなく、ユーザーからの質問や検索内容を学習し、最適化した返答を行います。他にもイラストや写真の自動生成、自動運転技術、GPSを利用した自律型ロボットなど、AIの開発は世界中の企業で競争となっています。そのようなAI開発の加速に伴って、ビジネスパーソンにもDX推進に必要な知識・スキルが求められるようになりました。今後、AI開発と企業間競争は加熱していくことが予想され、企業の成長にはDXが欠かせない要素となるでしょう。企業がDXをいち早く進め、デジタル人材の確保を進めることが生き残りの戦略となります。
デジタル人材確保の困難
デジタルスキル標準を策定した背景には、日本ではデジタル人材確保が難しくなっている状況も関係しています。「2023年世界デジタル競争力ランキング」によると、日本は総合順位で64か国中32位となっています。中でも「人材」は49位、「上級管理職の国際経験」は64位、「デジタル/技術的スキル」は63位、「高外国人材への魅力」は54位といずれも低い結果です。結果からもわかる通り、日本においてはデジタル人材の確保の遅れが順位を下げることになっています。また、デジタル人材の不足が企業のDX推進を遅らせる要因にもなっており、悪循環に陥っています。このような背景から経産省とIPAはデジタルスキル標準を策定し、国内でのDX推進を行うこととなりました。
参考:2023年世界デジタル競争力ランキング 日本は総合32位、過去最低を更新https://www.imd.org/news/world_digital_competitiveness_ranking_202311/
デジタルスキル標準の対象者:ビジネスパーソン全体
デジタルスキル標準では、経営者を含むすべてのビジネスパーソンが対象者として策定されています。そのうえで、DXリテラシー標準とDX推進スキル標準の2種類を設定しています。すべてのビジネスパーソンが対象となることから、組織としての共通の指標を設定するとともに、DX推進についても具体的な方向性を定めることが重要です。
デジタルスキル標準の対象者:5つのDX推進人材
デジタルスキル標準においては、社員の育成やリスキリング、学びの場の創出を意識することとして、5つのDX推進人材を定義しています。・ビジネスアーキテクト
・デザイナー
・ソフトウェアエンジニア
・サイバーセキュリティ
・データサイエンティスト
ビジネスアーキテクト
ビジネスアーキテクトとは、DX推進スキル標準において、「デジタルを活用したビジネスを設計し、一貫した取り組みの推進を通じて、設計したビジネスの実現に責任を持つ人材」と定義されています。定義からもわかりますが、ビジネスアーキテクトは、ビジネスシーンにおけるDXに向けた変革をリードする人材のことです。DXを実現するために他のデジタル人材とも協働したり、他職種との橋渡しをしたりすることで、組織のDXを推進していくことが本質となります。
デザイナー
デザイナーとは、DX推進スキル標準において次のように定義されています。「ビジネスの視点、顧客・ユーザーの視点等を総合的にとらえ、製品・サービスの方針や開発のプロセスを策定し、それらに沿った製品・サービスのありかたのデザインを担う人材」定義によるとデザイナーはビジネス視点でのDXだけでなく、ユーザビリティを意識したDXとデザインを考える人材といえます。DX推進におけるデザインは、すべての人にとって優れたデザイン性と問題解決の手段となることが重要です。その点で、デザイナーはビジネスパーソンとしての視点だけでなく、顧客・ユーザー目線で他職種と連携して製品・サービスの開発を行う人材となるでしょう。
ソフトウェアエンジニア
ソフトウェアエンジニアとは、DX推進スキル標準において次のように定義されています。
「DXの推進において、デジタル技術を活用した製品・サービスを提供するためのシステムやソフトウェアの設計・実装・運用を担う人材」ソフトウェアエンジニアはビジネスシーンのDX推進で、デジタル技術を活用する中心的な人材です。エンジニアにはさまざまな種類がありますが、その中でもソフトウェアエンジニアは新たなデジタル技術や価値を創造するエンジニアです。既存のシステムやソフトウェアにはない仕組みを作り出すという点で、DXの核心部分を担っているといえるでしょう。
サイバーセキュリティ
サイバーセキュリティとは、DX推進スキル標準において次のように定義されています。
「業務プロセスを支えるデジタル環境におけるサイバーセキュリティリスクの影響を抑制する対策を担う人材」サイバーセキュリティは、企業の業務で使用されるデジタル技術の保守を担当する中心的な人材です。システムやソフトウェアの知識・スキルに深い見識を持ち、最先端のサイバーセキュリティで情報と資産を守る役割があります。サイバーセキュリティはリスクを事前に察知して被害を予防するだけでなく、高いネットリテラシーにより、企業イメージの毀損を防ぐことも求められるでしょう。
データサイエンティスト
データサイエンティストとは、DX推進スキル標準において次のように定義されています。
「DXの推進において、データを活用した業務変革や新規ビジネスの実現に向けて、データを収集・解析する仕組みの設計・実装・運用を担う人材」データサイエンティストはネット上に存在する膨大な量の情報から、必要なデータの抽出・分析を行い、仕組み作りに昇華していく人材です。企業のDX推進においては、闇雲にデジタル化するのではなく、データサイエンティストによって収集されたデータを参考に行われるのが基本です。そのため、企業におけるデータ活用の中心的な役割であり、DXが成功するか否かはデータサイエンティストの手腕にかかっているといえるでしょう。
デジタルスキル標準の分類:DXリテラシー標準の4分類
デジタルスキル標準のDXリテラシー標準における4つの分類とは、次の点です。
・マインドスタンス
・Why(DXの背景)
・What(DXで活用されるデータ・技術)
・How(データ・技術の活用)
マインドスタンス
マインドスタンスとは「社会変化の中で新たな価値を生み出すために必要な意識・姿勢・行動」と定義されています。具体的には、次の内容を指針としています。「個人が自身の行動を振り返るための指針かつ、組織・企業がDX推進や持続的成長を実現するために、構成員に求める意識・姿勢・行動を検討する指針とする」マインドスタンスは社員個人の行動だけでなく、会社として持続的に成長していくために、具体的な行動指針などを検討・推進していくことが重要とされています。例えば、社会の変化をいち早く掴み、会社や組織がどのような影響を受け、どんな変化が起こるか社員が自ら考えることもマインドスタンスの1つといえるでしょう。
Why(DXの背景)
Whyは「DXの重要性を理解するために必要な、社会、顧客・ユーザー、競争環境の変化に関する知識」と定義されています。具体的には、次の内容を指針としています。「DXリテラシーとして身に付けるべき知識の学習の指針とする」このような指針となった理由として、社会の変化・顧客価値の変化・競争環境の変化があります。メガトレンドや顧客を取り巻くデジタルサービス、デジタル技術の具体的な活用例など、DX推進に向けて学ぶべき項目がまとめられています。
What(DXで活用されるデータ・技術)
Whatは「ビジネスの場で活用されているデータやデジタル技術に関する知識」と定義されています。具体的には、次の内容を指針としています。「DXリテラシーとして身に付けるべき知識の学習の指針とする」WhatはDX推進手段としてデータやデジタル技術の知識を知ることをゴールにしており、次の項目が含まれています。
・社会におけるデータ
・データを読む・説明する
・データを扱う
・データによって判断する
・AI
・クラウド
・ハードウェア・ソフトウェア
・ネットワーク
これらの項目に関して歴史、仕組み、方法など学ぶべき内容がまとめられています。
How(データ・技術の活用)
Howは「ビジネスの場でデータやデジタル技術を活用する方法や留意点に関する知識」と定義されています。具体的には、次の内容を指針としています。「DXリテラシーとして身に付けるべき知識の学習の指針とする」指針はWhy・Whatと同じですが、ゴールとするのはデジタルの活用事例から基本的なツールの活用方法を身に付け、実際の業務で活用することとされています。そのうえで、次の項目を活用方法・留意点としています。
・データ・デジタル技術の活用事例
・ツール活用
・セキュリティ
・モラル
・コンプライアンス
学習内容としてネット上での被害事例やビジネスでの活用例、個人情報保護や著作権の取り扱いなどが含まれます。
デジタルスキル標準の分類:DX推進スキル標準の5分類
デジタルスキル標準では、DX推進スキルとして5つの分類と12のサブカテゴリーで区分しています。
・ビジネス変革
・データ活用
・テクノロジー
・セキュリティ
・パーソナルスキル
5つの分類について、サブカテゴリーとともに紹介します。
参考:独立行政法人情報処理推進機構(IPA) DX推進スキル標準(DSS-P)概要
https://www.ipa.go.jp/jinzai/skill-standard/dss/about_dss-p.html
ビジネス変革
ビジネス変革はDXでビジネス環境を変革するために必要なスキル分類です。
サブカテゴリーとスキルには次のものがあります。
サブカテゴリー |
スキル |
戦略・マネジメント・システム |
ビジネス戦略策定・実行 プロダクトマネジメント 変革マネジメント システムズエンジニアリング エンタープライズアーキテクチャ プロジェクトマネジメント |
ビジネスモデル・プロセス |
ビジネス調査 ビジネスモデル設計 ビジネスアナリシス 検証(ビジネス視点) マーケティング ブランディング |
デザイン |
顧客・ユーザー理解 価値発見・定義 設計 検証(顧客・ユーザー視点) その他デザイン技術 |
データ活用
データ活用はDXを推進するうえで求められるデータ活用のノウハウ、分析能力、AI知識などのスキル分類です。サブカテゴリーとスキルには次のものがあります。
サブカテゴリー |
スキル |
データ・AIの戦略的活用 |
データ理解・活用 データ・AI活用戦略 データ・AI活用業務の設計・事業実装・評価 |
AI・データサイエンス |
数理統計・多変量解析・データ可視化 機械学習・深層学習 |
データエンジニアリング |
データ活用基盤設計 データ活用基盤実装・運用 |
テクノロジー
テクノロジーはソフトウェア開発の手法・プロセス、コンピュータサイエンス、デジタルテクノロジーの知識・スキルの分類です。サブカテゴリーとスキルには次のものがあります。
サブカテゴリー |
スキル |
ソフトウェア開発 |
コンピュータサイエンス チーム開発 ソフトウェア設計手法 ソフトウェア開発プロセス Webアプリケーション基本技術 フロントエンドシステム開発 バックエンドシステム開発 クラウドインフラ活用 SREプロセス サービス活用 |
デジタルテクノロジー |
フィジカルコンピューティング その他先端医術 テクノロジートレンド |
セキュリティ
セキュリティでは、組織のDXを推進していくための外部からのサイバー攻撃への対策、社内の情報管理、セキュリティマネジメントなどのスキル分類をまとめています。サブカテゴリーとスキルには次のものがあります。
サブカテゴリー |
スキル |
セキュリティマネジメント |
セキュリティ体制構築・運営 セキュリティマネジメント インシデント対応と事業継続 プライバシー保護 |
セキュリティ技術 |
セキュア設計・開発・構築 セキュリティ運用・保守・監視 |
パーソナルスキル
パーソナルスキルはDX推進に必要な個人のリーダーシップ、マネジメント層に求められるコンセプチュアルスキルに欠かせないスキルを分類したものです。サブカテゴリーとスキルには次のものがあります。
サブカテゴリー |
スキル |
ヒューマンスキル |
リーダーシップ コラボレーション |
コンセプチュアルスキル |
ゴール設定 創造的な問題解決 批判的思考 適応力 |
デジタルスキル標準の学習項目例
デジタルスキル標準には、紹介した各分類ごとに細かな内容や行動例、学習項目例が紹介されています。DXリテラシー標準とDX推進スキル標準から、それぞれの学習項目例をみていきましょう。
DXリテラシー標準の学習項目例
DXリテラシー標準の場合、マインド・スタンス、Why、What、Howの4分類にそれぞれ学習項目例が明示されています。一例として、マインドスタンスの「変化への適応」では、環境や働き方の変化を受け入れ、新しいことに適応するために自己学習することが内容として示されています。そのための具体的な行動例としては、最新の技術書から学ぶこと、eラーニングの活用、PC上のデータのクラウド化、コミュニケーションツールでのグループ内連携などが挙げられます。また、Whatの「データを読む・説明する」では、データ分析手法や結果の読み取り方、適切に説明する方法などが内容となっています。そして、学習項目として統計や確率の知識、データから事象を読み解く知識、条件による比較、データの可視化などが含まれています。 このようにDXリテラシー標準のポイントは、DXに関する価値観や変化への適応だけでなく、デジタル技術を応用するために必要不可欠な知識を得ることといえるでしょう。
参考:経済産業省 デジタルスキル標準 ver.1.2
https://www.ipa.go.jp/jinzai/skill-standard/dss/ps6vr700000083ki-att/000106872.pdf
DX推進スキル標準の学習項目例
DX推進スキル標準も、DXリテラシー標準と同様にビジネス変革、データ活用、テクノロジー、セキュリティ、パーソナルスキルの5つの分類に学習項目例が明示されています。
例えば、ビジネス変革の「戦略・マネジメント・システム」では、エコシステム&アライアンスやリスクマネジメント、ポートフォリオマネジメントなどが含まれます。DXリテラシー標準に比べると、学習項目が細かく記載されており、各人材類型で必要な知識を選択して行く必要があるでしょう。データサイエンティストにはデータ活用、サイバーセキュリティにはセキュリティ、ビジネスアーキテクトにはパーソナルスキルやビジネスモデル・プロセスなどの学習がおすすめです。
このように人材類型別に学習項目例を活用することで、人材育成や自社に必要な人材を明確化する効果があります。
デジタルスキルのことならユーキャンへ
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まとめ
今回はデジタルスキルについて、デジタルスキル標準とは何か、DXリテラシー標準・DX推進スキル標準、各分類と学習項目例などを解説しました。デジタルスキルは国、すなわち経済産業省と情報処理推進機構(IPA)によって策定された「デジタルスキル標準」として、必要な知識やマインド・スタンス、人材類型などがまとめられています。各企業がDXを推進する際は、経済産業省と情報処理推進機構(IPA)がまとめた指針に従って制度設計や教育を行えば、基本的なDXは進められるでしょう。しかし、ITやデジタル技術の分野は日々進歩しており、国の示す指針に従うだけでは時代に遅れてしまいます。 自社でデジタルスキルに明るい人材を養成し、自主的に制度設計やソフトウェア開発、セキュリティ対策ができる体制を整えることが重要です。