DX人材育成とは
DX人材育成は、企業で自社に必要なDX・ITの知識とスキルを身につけ、組織のDXを推進していく人材を育てることです。DX人材を育成することで、自社に最適なDXを推進しやすくなり、組織の再構築も促進されます。ここで多くの方が疑問に思うのが「わざわざ自社で育成しなくても、既存のDX人材を雇用するか、外部に委託する方法ではいけないのか」という点です。自社でDX人材を育成することで、自社のシステムや組織構造に一貫性ができ、次世代のDX人材にも適用できる育成方法が確立できます。そのためDX人材育成を自社で推進することにより、時代の変化に適応しながら長期的な改革にも取り組みやすくなります。ただしDX人材を育成で注意すべき点があるとすれば、自社にとって本当に必要な知識とスキルを確実に身につけさせるべきということです。なぜDX人材育成が必要なのか、どんな人材を育成したいのか、育成計画はどのようなものか明確にすることで、効果的な人材育成計画が立てられます。実際の企業事例では、社員のレベルに応じて3段階のコースを用意し、段階的にDX人材を育成している企業もあります。企業側がDXの必要性を社員に理解してもらうことで、DX人材育成は進めやすくなるでしょう。近年はAIも大きく進歩しており、時代に適応するにはDX人材の育成が不可欠です。外部のセミナーも活用しながら、自社でDX人材育成を進めることがどの企業にとっても急務となっています。
DX人材を育成するメリット
DX人材の外部採用ではなく、社内育成するメリットは、以下のとおりです。
- ・自社の業務に合ったDXを推進できる
- ・各部署を調整・連携させた新しい社内体制が構築できる
- ・社内にDX化のためのノウハウを蓄積できる
自社に合ったDXを推進できる
自社の業務内容を熟知した人材がDX関連の専門知識を学ぶことで、自社に合うDX化が推進できます。自社のDX化推進のためには、DX化のための自社の課題を見つけ出す必要があり、自社の状況を正確に把握している人材が必要です。
社内にDX人材がいれば、企業のDX化のためのツール・システムなどの変更・導入の際、ベンダーなどの外部の人材との対応などが素早く行え、システムの一貫性が保てます。
新しい社内体制が構築できる
DX化のために新しい社内体制を構築する際にも、社内で育成されたDX人材は必要です。社内のDX化が進む中で、組織変換・配置転換などの新たな社内体制の構築が必要となります。
社内体制構築は、社内の各部署を連携が必要になります。自社の業務内容、各部署の関係性を熟知したDX人材であれば、正しく・速やかに遂行できます。
社内にノウハウを蓄積できる
育成されたDX人材が、新しい事業やプロジェクトに関わることで、知識・ノウハウを社内に蓄積できます。社内でのシステム構築が終了した後も、メンテナンスやシステム変更のためには、DXに関する専門知識・ノウハウが必要です。
ベンダーなどの外部の人材にすべてを任せたプロジェクトの場合、DX知識・ノウハウは社内には残らず、何かある度に外部の人材を頼る必要が生じ、高い経費がかかります。社内のDX人材が関わることで、ノウハウやスキルが蓄積されるのは大きなメリットです。
DX人材育成のための5ステップ
DX人材育成のための5つの基本的なステップについて解説します
- 1.企業内の全従業員のDXレベルを把握する
- 2.企業に必要なDX人材像を明確にする
- 3.DX人材育成のための専任チームを作りプロジェクとして立ち上げる
- 4.人材育成のための計画を立て育成環境を整える
- 5.DX人材の育成過程を可視化し全従業員に共有する
1.従業員のDXレベルを把握する
DX人材の育成を始めるにあたり、全従業員のDXスキルのレベルを把握します。 従業員のDXスキルレベルが分かることで、DX人材の育成計画が立てやすくなります。 具体的には、ITスキル・コミュニケーション能力・精神力などを把握すればいいでしょう。
従業員全員に対してアンケート調査・テストなどを実施することで、レベルの把握・可視化ができます。スキルレベルの把握は、従業員が自分の得意不得意を認識でき、モチベーションの上昇につながります。
2.必要なDX人材像を明確にする
自社に必要なDX人材像を明確にし、DX人材育成に必要な教育を決定します。企業に必要なDX人材には、デジタル技術の活用スキル・ビジネススキル・リーダーシップスキル・コミュニケーションスキルなどが求められます。
明確になったDX人材像に近い資質・能力・知識などを保有する従業員の教育から始め、最終的には、全従業員のDX人材育成を目指します。人材は、部門・役職・年齢などに偏りのない、幅広い層から選出しましょう。
3.DX人材育成のための専任チームを作る
社内のDX化を推し進めるために、DX人材育成のための専任チームを作ります。DX人材育成プロジェクトを立ち上げ、プロジェクトのメンバーにはDX人材育成のための業務に専念させましょう。
アンケート・テストなどで把握された従業員のDXレベルを基に、プロジェクトにふさわしい人材を集めます。デジタル技術の活用スキル・ビジネススキル・リーダーシップスキル・コミュニケーションスキルなどを保有する人材を社内から幅広く集めましょう。
4.人材育成のための計画を立てる
DX人材育成の最終目標を明確にし、育成計画を立てましょう。育成する対象者を確定し、育成のための環境を整えます。ITに関する基礎知識・デジタルスキルの学習のために、研修・eラーニング・資格取得のサポート体制などを整備するとよいでしょう。
DX人材育成には、アジャイル開発の手法が向いているといわれています。大きなプロジェクトをいきなり開始せず、小さなプロジェクトを段階的に実践します。成功体験が得やすく、モチベーション継続につながります。
5.DX人材の育成過程を可視化し共有する
DX人材の育成過程を可視化し全従業員に共有することで、社内での理解とモチベーション向上につながります。DX人材の育成の過程を情報公開することで、従業員の意識が高まり、DX人材育成が全社的な取り組みとなり得ます。
DX人材の育成を開始する際に目的を伝え、育成中の過程も可視化して共有します。共有することで、DX人材を目指したいと考える従業員が出てくる可能性があり、企業全体のデジタルリテラシーの向上につながります。
DX人材を育成する際の課題と注意点
DX人材を育成する際の課題と注意すべき点は以下のとおりです。
- ・DX人材育成のためにはITスキルとビジネススキルの習得が必要
- ・IT技術の進歩は速く最新の知識・技術への更新が必要
- ・DX人材育成の成果工場は実務への適用・活用が必須
ITスキルだけでなくビジネススキルの習得が必要
DX人材育成で陥りやすい失敗として、ITスキルの強化に力を入れすぎた結果、ビジネスマインドが置き去りにされてしまうことです。企業のDXを進めるには、ビジネススキルを基本としたITの活用が根底にあります。例えば小売店をDXするにしても、店舗のビジネスモデルを理解していなければ、効果的なDX推進は難しいでしょう。そのためDX人材を育成する際は、十分なビジネススキルと経験を持つ人材か、ITスキルと並行してビジネススキルも学んでもらうことがポイントになります。ITスキルとビジネススキルを融合することで、企業活動を効率化するDXが推進できます。
最新の知識・技術への更新が必要
ITの世界は1日で目まぐるしく変化することが多く、常に最新の知識・技術へのアップデートを続けることも注意点となります。一般的なビジネススキルとは異なり、常に同じ内容を学んでいては時代に取り残されてしまいます。そのためDX人材を育成するにあたっては、最新の知識を持つ外部の専門講師を依頼するほか、社員のモチベーションを高めていくことが重要です。新しい知識・技術を学び続けるには、社員への負担も考慮しなければなりません。企業側もIT技術は常に進化していることを理解し、社員が学びやすい環境を整備しておく必要があるでしょう。
DX人材育成後の実務への適用・活用が重要
DX人材を育成した後、どのように実務で能力を発揮してもらうのか、環境整備をどうするかといった点も考えるべきです。業界によってはDXを進めにくいこともありますが、DX人材を生かせなければ企業の変化は望めません。DX人材を効果的に活用するには、DX人材育成と同時に組織体制の再構築を進め、どこにIT技術を導入するか、優先すべき箇所はどこかを検討する必要があります。育成された社員にとっても、身につけた知識が活かせる環境があれば、仕事へのモチベーションアップにつながります。DX人材育成を成功させるためにも、知識・スキルをどのように実務へ活かしていくか考えておくことが大切です。
DX人材の育成に取り組む企業の事例5選
DX人材の育成に取り組む企業例を5つ紹介し、解説します。
- ・従業員研修を重視しAIリテラシー向上を目指した事例
- ・全従業員のDXリテラシーの底上げを目指した事例
- ・経営層を含む従業員のデジタルリテラシー向上を目指した事例
- ・全従業員へのe-learningを実施した事例
- ・デジタル技術で新規ビジネス創出する独自研修を始めた事例
新入社員の従業員研修を重視した空調機械製造業の事例
大阪にある大手空調機械製造企業は、新入社員の従業員研修を重視したDX人材の育成に取り組んでいます。新入社員のうちから、基礎的なデジタル知識を身につけ、日々進歩するデジタル技術に対応させることが目的です。新入社員のうち希望者100人は、通常業務は行わず、2年間研修に専念できます。
2017年には、大阪大学の協力を得て企業内大学を創設しました。数学などの基礎知識・プログラミング・機械学習・AI応用までの知識が学べます。新入社員対象の講座、選抜された従業員対象の講座が実施され、全従業員に対してもAIリテラシー向上のための講座が実施されています。
DXリテラシーの底上げを実施した食料品製造業の事例
ソフトドリンクなどを製造する食品製造業では、従業員のDXリテラシーを底上げするために、独自のDX人材育成プログラムを実践しています。2021年には、DX人材育成プログラムをDX道場という名で開校し、初級(白帯)・中級(黒帯)・上級(師範)の3種類のコースを用意しました。スキルレベルを分け、段階的に学習できるようになっています。
DX道場では、「ビジネスアーキテクト」を育てるためのプログラムを行っています。 現場で起きている課題に気づき、その解決策を発想し、データサイエンティストと協力して実際に解決できるような人材の育成が目標です。
経営層を含む従業員のデジタルリテラシーの向上を目指した道路貨物運送業の事例
宅配など各種輸送に関わる道路貨物運送業では、全従業員のデジタルリテラシーの向上と、デジタル人材の育成を早期に達成することを目的としたデジタル教育プログラムを2021年度より実施しています。プログラムは、全従業員向けカリキュラム・経営層向けカリキュラム・DX育成カリキュラムの3つが実行されています。
全従業員向けカリキュラムでは、各部門のリーダーは基礎的なDX研修を受講し、各スタッフはデジタル技術活用のための研修を受講します。経営層向けカリキュラムでは、経営プログラム習得のためのDXに必要な経営資源の分析などを研修します。DX育成カリキュラムでは、ITスキルを含む複数の研修を受講します。
全従業員へのe-learningを実施した空港運営会社の事例
愛知県にある空港運営会社では、 2023年基礎ステップとして、全従業員約1000人に対してe-learningを実施しました。 全従業員がデジタル技術を活用し、課題解決・業務プロセスの変革実践を可能にする人材育成を目的としています。基礎ステップ終了後、全従業員の中から100~200人の社員を選抜し、応用ステップを実施する予定です。
応用ステップでは、実務につながるスキルの実践を目指す育成プログラムに取り組み、業務改善・顧客サービスの向上などを推進できる体制づくりを目指します。2030年までに、デジタル技術を活用した空港運用・お客様サービス・社内の業務プロセスや働き方の変革などを目指しています。
次世代リーダー候補のための独自研修を始めた卸売企業の事例
機械工具などの工業用副資材の卸売企業では、デジタル戦略強化を図るために、次世代リーダー候補のための独自研修を始めました。物流のデジタル化・組織内でのデータの活用などの取り組みを推し進め、2020年にはデジタル推進部を設立し、「DXグランプリ」を受賞しています。
システムベンダーである他社の従業員と共に、デジタル技術活用による新規ビジネスを創出するという研修を実施しました。デジタル戦略本部は、オンライン学習・資格取得に向けた学びを実施し、従業員が学べる環境の整備に力を入れています。全従業員がデジタル活用できる体制づくりのため、DX関連知識とスキルを持つ人材が各支店に配置されています。
まとめ
さまざまな業種や分野で、DX化が求められる一方、企業におけるDX人材が不足するという現状に直面しています。デジタル技術を活用し、自社の競争力を高めていくためには、DX人材育成が重要な課題となっています。 自社でDX人材を育成することで、自社に合ったDXを推進し、新しい社内体制が構築できます。 DX人材は、ITスキルとビジネススキルを身につけ、真のDX化を推進しなければなりません。
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