部下育成とは何か?
部下育成とは、上司や先輩社員が技術やノウハウを指導するだけでなく、部下自身が意欲を持って学び、成長を促すことを意味します。部下育成では技術的な指導に加えて、部下に気付きや成長のきっかけを与え、一人の人間としての成長もサポートします。
ただし部下を育成する際は明確な目標を設定し、短期・中期・長期の視点で育成を行うことも大切です。
例えば、長期では1年後に達成したい目標、中期では3~6カ月後、短期では1カ月以内に達成を目指すといったように設定しましょう。 最終的には部下の仕事に対する価値観を変化させ、自主的に学ぶように導いていくのが部下育成の本質です。
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部下育成が必要な理由
部下育成が必要な理由について、2つのポイントをご紹介します。
ビジネス環境の変化に対応していくには、人材育成が不可欠
時代とともにビジネスの環境は変化しており、多くの企業がITやDXを導入しています。古い価値観や体制をそのまま引き継いでも、時代の変化に取り残されていくでしょう。
そのため、 企業として環境の変化に対応していくには、人材育成で企業の成長に必要な人材を自ら発掘する必要があります。 また企業全体の取り組みとして、従業員のモチベーションを高める施策を打ち出すことで、生産性の向上も期待できます。
離職率の低下につながり、競争力が高まる
部下育成は生産性の向上だけでなく、従業員エンゲージメントを高め、市場における企業の競争力の強化にもつながります。部下の視点で見れば、自分の成長のために上司や先輩がさまざまな面でサポートしてくれるのなら、期待に応えようと努力するからです。また、長く勤めるほど技術やノウハウが蓄積され、企業への貢献も期待できます。 長期的に見れば、部下育成は離職率の低下と競争力向上という大きなメリットがあります。
部下育成における課題点
部下育成においては、どの企業でも共通する3つの課題があります。
それぞれの課題について深く知ることで、具体的な解決策も立てやすくなるでしょう。
・部下の育成にかけられる時間が不足している
・上司の管理能力が不足している
・部下育成のノウハウが不足している
部下の育成にかけられる時間が不足している
部下を育成するには、多くの時間とコストがかかります。しかし実際に取り組もうとすると問題になるのが、育成に十分な時間を割けないことです。上司は普段の業務を行いながら、部下の育成も意識しなければなりません。どちらかに集中することが難しく、育成が思うように進まないことが予想されます。また、部下が複数人いる場合は、それぞれの部下に合った育成方法を考える必要もあり、さらに時間が足りなくなるでしょう。
そのため 新人や若手の部下を育成する際は、上司の業務負担の軽減を図り、人事・労務担当者も育成に積極的に関わる必要があります。 部下育成を一人の管理者に任せきりにすると、上司と部下が共倒れになる可能性があります。
上司の管理能力が不足している
部下の育成には、上司の管理職としての能力に問題があり、思うように進まないケースも考えられます。上司のマネジメント能力が不足していれば、部下への指示出しや業務管理がうまくいかず、結果として育成が進まないことがあるからです。
例えば部下とのコミュニケーション不足や指導力不足、タイムマネジメント能力不足などが代表的です。上司の中には経験こそ豊富なものの、経験に基づく勘でマネジメントをする人もいます。しかし経験と勘はエビデンスや理論とは正反対に位置し、部下の育成においては障害になることもあります。部下の育成に力を入れるなら、 部下の個性に合わせた目標設定、必要なスキルを明確化しなければなりません。 部下育成の成否は上司の管理能力も関わってくるため、マネジメント能力の見直しと再評価を進めましょう。
部下育成のノウハウが不足している
部下育成はどの企業も取り組んでいることですが、肝心のノウハウが不足していることも少なくありません。特に世代によって受けてきた教育の手法が異なり、教わるよりも見て吸収したり、叱責されて学んだりする環境で業務の知識やスキルを身につけてきた世代もあります。
現代のZ世代や若手社員は、論理性や根拠を重要視する傾向があるため、指導する側の上司にも十分な知識が求められます。また部下育成の経験やノウハウが限られる上司も少なくないため、育成経験の豊富な管理職との連携が必要です。企業によってはタレントマネジメントを活用し、全社で情報共有しながら育成を進めるところもあります。部下育成に悩んでいても、他部署や他の管理者に相談できない上司も多いため、部下育成のノウハウを共有できる体制の構築は重要です。
部下育成が上手くいかない事例
部下育成が上手くいかない事例を知り、対策についても理解しましょう。
・指示型のコーチング
・感情的な態度で接する
・責任のある仕事を任せない
・指導の結果が出ずに諦める
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指示型のコーチング
部下育成において重要なことは、部下が考えながら自ら学び、実践していくのを支援することです。しかし、上手くいかない典型例の1つに「指示型のコーチング」があります。
指示型のコーチングは部下の指導において、部下の行動に細かく指示を入れ、上司の思い通りに行動させるものです。 指示型のコーチングは上司の経験に基づくため、短期的には生産性向上につながりやすく、ある程度仕事に慣れた部下には効果があります。問題となるのは部下の行動に逐一指示を出すことで、部下が自ら考えて行動しなくなる点です。 部下が上司の指示待ち状態になれば、いずれ上司のマネジメント能力を超えてしまい、チームとして崩壊する危険があります。
【対策】
指示型のコーチングで部下が指示待ちになるのを防止するには、部下自身に考えて行動してもらうことです。そして、行動の過程と結果を上司とともに振り返り、行動の評価を行います。いわゆる対話型のコーチングといわれるもので、部下が自ら最善の方法を考えて行動する機会になります。また対話型のコーチングの良いところは、成功すれば部下の自信にもつながる点です。対話を通して部下の行動を最適化していくことで、部下が自分の行動を振り返る機会になります。自分で行動して成功すれば自信にもなるため、指示型よりも対話型のコーチングを重視することが対策になります。感情的な態度で接する
部下を育成する際、感情的な態度で接する上司では、部下の萎縮を招いて成長につながりません。部下が自分の思った通りに行動してくれないと、思わず感情的になることもあるでしょう。しかし、叱られることで部下は精神的に萎縮するだけでなく、叱責を恐れて自発的な行動を取らなくなり、チャレンジする気持ちも失ってしまいます。また感情的な上司は部下とのコミュニケーションも上手くいかず、信頼関係の構築も難しいです。そのため、部下との意思疎通が上手くいかないと感じている場合は、自分の態度に何らかの問題がないかを最初に考えることが重要です。部下の細かな行動や言動に感情を波立たせているのであれば、上司側に問題があると考えてよいでしょう。
【対策】
人間は誰しも感情的になる事柄、我慢できない部分はあるものです。しかし部下育成の視点では怒りをコントロールし、お互いに意思疎通を図ることが大切です。そのため感情的な対応をしがちな上司は、予めアンガーマネジメントを学ぶ必要があります。並行して上司が感情的になりやすい原因、ストレス要因も突き止めることにも意味があります。アンガーマネジメントは感情のコントロールを学ぶものであり、ストレスは感情とも密接に関係しているからです。部下育成を効率的に行うには、上司も常に冷静な態度を維持できるように学んでいく必要があります。
責任のある仕事を任せない
部下の能力や適性にもよりますが、 能力に対して過小な業務や責任のある仕事をさせないことも、部下育成においては問題になります。 任せるのが簡単な業務や責任のない仕事ばかりでは、部下のモチベーションは上がらず、成長の機会にもつながらないからです。また、部下の能力に見合わない業務ばかりさせていると、パワハラと認定されるおそれもあります。部下にとっては責任のある業務や、スキルアップ・キャリアアップにつながる業務のほうがやりがいになります。
逆に責任のある仕事をさせてもらえないとわかれば、育成する前に早期離職する可能性が高いです。
【対策】
対策は部下の能力や適性を正確に把握し、適した難易度の業務を任せることです。部下が成長するには、漫然と同じ業務をしてもらうのではなく、スキルや成長に合わせて業務を全面的に任せる、サポートしながら実践させるなどの方法が有効です。また部下に業務を任せる際は、最初から全部一人でやらせるのではなく、上司がサポートに入れば部下も余裕を持って業務に取り組めます。部下が責任感を持って仕事に取り組むには、上司も責任ある仕事を任せることが大切です。
指導の結果が出ずに諦める
部下育成は結果が出るまでに時間がかかるため、上司から見ると指導の成果が見えにくいです。そのため、上司が多くの時間をかけて指導したつもりでも、結果が出ずに諦めてしまうことがあります。
しかし人の成長は1日単位で大きく変わるものではないため、諦めずに続けていくことが大切です。部下の育成を続けながら、現時点で部下が目標のどの部分まで達成できているのか、不足しているスキルなどを常に観察する必要があります。人によって成長のペースは違いますから、その点を意識して育成していくことが重要といえるでしょう。
【対策】
対策は部下の個別性に焦点を当て、伸び悩みがあることも理解して育成を行うことです。上司が部下の育成を諦めてしまえば、そこで部下の成長の機会は失われてしまいます。短期的には成果が出なくても、中長期で成長できるようにサポートしていくことが大切です。また上司として部下に目標を提示し、達成に向けて進むよう道筋を示すことも意味があります。成果につながらないからとすぐに諦めるのではなく、地道に育成していけば部下の気持ちにも変化が訪れるでしょう。
部下育成を成功させる基本的なコツ
部下育成を成功させるには目標の立て方、指導方法、コミュニケーションなどが重要なポイントです。
より細かくポイントを分けると、次の7点が重要になります。
・部下とともに目標設定を行う
・指示型と対話型のコーチングを使い分ける
・部下の心情に配慮して叱責する
・結果と過程は別のものとして評価する
・必要に応じてコミュニケーションを図る
・部下の成長につながる仕事を任せる
・管理職も部下育成の基本を学ぶ
部下とともに目標設定を行う
部下育成を行う際の目標設定は、上司だけで決めるのではなく、部下ともコミュニケーションを取りながら行いましょう。
上司の理想と部下の実力がかけ離れている場合、目標が部下のプレッシャーになり、成長を阻害するおそれがあるからです。目標は高すぎても低すぎてもモチベーションの低下を招くため、部下の目標もチェックしながら決めていくことが大切です。
その際、 上司の立てる目標、部下自身が立てる目標、企業として掲げる目標などに分けて設定することに意味があります。 そして企業や上司の立てる目標は、部下の目標とのバランスも取りながら設定しましょう。主体はあくまで部下にあることを意識し、部下の成長につながる目標を考えてください。
指示型と対話型のコーチングを使い分ける
部下育成を進める際、指示型のコーチングやティーチングは部下の成長を妨げるとされています。部下が自分で考えて行動しなくなり、指示待ちになってしまうからです。部下の成長を考えるなら、自分で考えて行動してもらったほうが、仕事への責任感にもつながるでしょう。
上司として重要なポイントは、指示型と対話型のコーチングを上手く組み合わせ、一歩ずつ実力がつくよう支援することです。業務上必要なスキルを身に付ける際は指示型、部下の成長のきっかけになる仕事は対話型といったような使い分けがポイントです。指示型だけでは部下の主体性がなくなり、モチベーションの低下を招きます。
一方で、対話型だけでも部下と馴れ合いのような関係になるおそれがあるため、使い分けを意識しましょう。対話型のコーチングでは部下の考え、アイデアも引き出すことで、より効果的な部下育成につなげる効果も期待できます。
部下の心情に配慮して叱責する
部下の仕事や取り組み方が間違っている場合、間違っているからとすぐに叱責するのは良くありません。最初は指摘するだけに留め、何回指摘しても改善しなければ叱ることが重要です。ただし重大事故やクレームにつながる場合は、悪い点を指摘して叱りましょう。
重要なことは部下のモチベーションが低下しないように、叱った後は普段通りに接し、しっかりとフォローしていくことです。部下にとって上司からの叱責は精神的なストレスが強いため、フォローなしではメンタルヘルス不調を招く可能性があります。また注意したいのは、部下を叱責する際に個人の人格を否定しないことです。人格否定はパワハラに当てはまると同時に、部下のモチベーションと自己肯定感も大きく低下させてしまいます。悪い部分を丁寧に指摘し、部下の成長を促す関わり方を大切にしてください。
結果と過程は別のものとして評価する
日常の業務であっても、そこには過程と結果がついてきます。 部下育成の際は結果だけを見るのではなく、部下がどのような行動を取ったかという過程も見て評価しましょう。
例えば、部下の行動そのものは間違っていなくても、環境やその他外部の要因によって上手くいかないこともあります。そのため、結果が上手くいかなかったとしても、そこに至る過程まで無視してはいけません。
過程が正しく、結果が出なかった場合は、結果を出すために何をすべきだったかフィードバックしましょう。逆に過程が間違っていても結果が出た場合は、なぜ成果につながったのか分析し、行動変容を促していくことが大切です。
必要に応じてコミュニケーションを図る
部下育成は上司と部下の二人三脚で進めるものであり、状況や成長に合わせてコミュニケーションを取る必要があります。上司は、部下の個性や強み、性格傾向などを考慮しながら適宜交流しましょう。部下の立場から見た時、必要な時にコミュニケーションを取り、心理的なバリアが少ない上司ほど信頼しやすく感じます。信頼できる上司の下でなら、部下も期待に応えようと高いモチベーションを維持できます。部下育成の観点だけでなく、一人の人間としてコミュニケーションを取ることが部下の成長にもつながるでしょう。
部下の成長につながる仕事を任せる
部下を育成するには、毎日同じ業務ばかりを任せても成長につながりません。部下のスキルや実力に合わせて、少し難しい業務も任せることで成長を促すことが重要です。同じ業務ばかりでは部下のモチベーションも下がり、成長が鈍化してしまいます。逆に、本人が努力すれば達成できる仕事を任せれば、自分で考えて行動し、自由な発想で仕事に取り組めるでしょう。
管理職も部下育成の基本を学ぶ
部下育成では上司自身も指導方法を学び、基本的な知識を身に付けていくことが大切です。 部下の特性に合わせて指導のやり方を変えることで、どのような部下にも質の高い教育を提供できます。また、部下としても上司が自分のために努力する姿勢を見れば、「自分も同じように努力しなければならない」と意欲を高められます。部下育成は部下を育てるだけでなく、指導する上司の成長も大事なサイクルであることを理解しましょう。部下の特性別の指導方法
部下育成においては、部下の特性に合わせた指導をできなければ、着実な成長につながりません。本項では部下の特性を4種類に分け、指導方法の基本をご紹介します。
・アチーバータイプ
・エクスプローラータイプ
・キラータイプ
・ソーシャライザータイプ
アチーバータイプ
アチーバータイプは、他者からの評価や外部環境の影響を受けにくく、目標に向かって進んでいくタイプです。挑戦意欲が高いため、自分を成長させてくれる機会を重視しており、成長の機会がなくなるとモチベーションが低下しやすいです。上司としては比較的育成しやすく、成長も早いことからやや高めの目標を設定してもよいでしょう。ただし部下が自分から行動していくため、上司も部下の知識やスキルに合わせて、自己学習を続けていく必要があります。また評価する際は結果だけでなく、どのような過程だったかも含めて考慮し、正当な評価とフィードバックを行うことが重要です。
エクスプローラータイプ
エクスプローラータイプは、マイペースで自分の興味が仕事におけるモチベーションであり、他者や外的要因に影響されにくいタイプです。自分の興味がモチベーションになっているため、未知の業務や経験に関心を持ち、意欲的に取り組んでくれる傾向があります。
他者からの影響を受けにくいため、本人の能力を発揮しやすい自由な環境を用意することが成長につながります。またエクスプローラータイプは相対評価よりも、自分が行動した結果を重視する絶対評価がモチベーションになるタイプです。そのため、部下の取り組みがどのくらいの基準を満たしたのか、その点を評価するのがよいでしょう。
キラータイプ
キラータイプは他者と自分を比較し、勝ち負けや成功・失敗がモチベーションにつながるタイプです。他者との競争に強い関心を持つことから、競い合える相手がいると成長につながりやすいとされています。また自分の行動で競争相手に勝利した時、または差をつけた時に優越感を覚え、モチベーションが高くなる傾向があります。キラータイプの育成では競争相手になる部下を意識させ、成長を競わせるのが最も効果的です。また、勝ち負けにこだわることから相対評価との相性が良く、相手との差を認識させるために活用するとよいでしょう。
ソーシャライザータイプ
ソーシャライザータイプは、仲間との人間関係が仕事のモチベーションになるタイプです。ソーシャライザータイプは結果そのものよりも、目標達成に向けて仲間と行動したこと、努力したプロセスに強い関心を持ちます。そのため、育成においては仲間との連携、助け合いを意識したチームでの働きで成長を促しましょう。個人での働きよりも、目標に向けて仲間と協力することに強みがあるため、信頼できる人材と働ける環境を用意することが重要です。
部下育成はお任せください
企業が絶えず成長を続けていくには、若手社員の成長が必須です。しかしどれほど優秀な管理者であっても、すべての部下を同じように育成するのは困難です。また部下育成に多くの時間とコストがかかるため、普段の業務もこなしながら進めるのは難しいでしょう。
部下育成の難しさにお悩みの企業ご担当者様は、豊富な育成プログラムを用意している法人向け人材育成のユーキャンにお任せください。企業の業種や特徴に応じ、最適な部下育成カリキュラムをご用意致します。
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まとめ
今回は企業における部下育成に焦点を当て、部下育成におけるポイント、対策、特性に合わせた指導方法などを解説しました。上司にとって毎年悩みの種になるのが部下の育成です。上司は業務経験こそ豊富でも、部下の育成に関しては専門家ではなく、悩みながら指導しているケースが多々あります。注意すべき指導方法や特性に合わせた指導方法も参考に、部下への教育を効率良く進めましょう。
自社での部下育成に限界を感じたら、ぜひ法人向け人材育成のユーキャンへご相談ください。