福利厚生制度とは?
福利厚生制度とは、企業が従業員やその家族のために、健康維持や生活の質向上に役立つサービスを提供する制度のことです。 給料や報酬とは別にさまざまなサービスが提供され、その内容は企業によって多岐にわたります。昨今では、自社独自のユニークな福利厚生制度を実施する企業も増えています。
日本では、少子高齢化の影響で労働人口が減少しているため、多くの企業で人材不足が深刻です。この問題を解決する方法の1つとして、福利厚生制度の強化が役立ちます。人材の確保や定着に必要とされる、従業員満足度やエンゲージメントの向上は、従業員がいかに気持ちよく働けるかが重要です。
また、働き方改革が推進されている現在では、ワークライフバランスの充実も重要視されています。福利厚生制度には、従業員の満足度向上やワークライフバランスを保つために役立つサービスも多いため、充実させれば人材の確保や定着につながりやすくなります。
さらに、働き方の多様化や従業員の健康維持につながるサービスもあるため、企業に対する社内外のイメージ向上にもつながるでしょう。企業のイメージアップは、他社よりも優位に採用活動を進めるためにも重要な要素です。
福利厚生には2つの種類がある
福利厚生制度で従業員に提供されるサービスは、以下の2種類に分けられます。
- ・法定福利厚生
- ・法定外福利厚生
ここからは、福利厚生制度で提供する2種類の内容について解説します。
法定福利厚生とは?
法定福利厚生とは、法律で義務化されている福利厚生を指します。企業は、対象となる従業員がいる場合は必ず導入・提供が必要です。
法定福利厚生には、以下の6種類があります。
健康保険 | 従業員のけがや病気、出産、死亡などにかかる医療費の一部負担や手当金などの支給がある保険制度。労使折半となっているため、企業は保険料を半分負担する |
介護保険 | 介護を必要とする場合に給付金が支給される保険制度。企業が雇用する40歳以上の従業員に加入が義務化されている。健康保険と同じく労使折半であるため、保険料の半分を企業が負担する |
厚生年金保険 | 老後の年金支給のための保険制度。公的年金であり、70歳以下の一定の条件を満たす従業員の加入が義務とされている。健康保険、介護保険同様に保険料は労使折半となる |
雇用保険 | 失業保険とも呼ばれ、退職後に一定期間失業状態にある場合、失業手当の給付や就職支援が受けられる保険制度。要件を満たせば、教育訓練講座なども無料で受講できる。保険料の負担額は事業内容によって異なる。一般事業の場合、企業が2/3、従業員が1/3の保険料を負担する |
労災保険 | 勤務中や通勤中の事故によるけがや障害、病気、死亡の際に給付金によって補償される保険制度。保険料の全額を企業が負担する |
子ども・子育て拠出金 | 子どもを育てている人が受け取る児童手当や仕事と子育ての両立支援事業の費用に充てられる税金の一種。厚生年金に加入している従業員全員が対象となり、納付が義務付けられている。拠出金は全額企業負担となる |
法定外福利厚生とは?
法定外福利厚生は、法定福利厚生の他に、企業が任意で用意する福利厚生のことです。法律で義務付けられたものではないため、企業によって内容や種類は異なります。 場合によっては、導入していないケースもあります。
法定福利厚生は追加も廃止もできないため、法定外福利厚生を充実させることで、企業は従業員の生活品質向上をはかり、彼らのモチベーションや満足度を高めます。また優れた人材の流出防止や、獲得の手段の一つとしても挙げられます。
法定外福利厚生は、以下のような要素で構成されることがあります。
1,健康保険および医療福祉:多くの企業は、従業員とその家族の健康保険プランを提供します。これには一般的な医療費、歯科治療、視力検査などが含まれ、従業員が必要な医療サービスにアクセスしやすくなります。
2,退職年金制度:企業は、従業員が将来の退職に備えて年金プランに参加できる機会を提供することがあります。これにより、従業員は安心して将来の経済的な安定を計画できます。
3,有給休暇:法定外福利厚生の一環として、企業は追加の有給休暇日を提供することがあります。これには休暇、病気休暇、育児休暇などが含まれ、従業員のワークライフバランスをサポートします。
4,教育支援:多くの企業は、従業員がスキルアップや専門知識の向上のために教育支援を提供します。これは、従業員の職業的な成長を促進し、企業にとっても利益をもたらすことがあります。
5,子供の保育施設:一部の企業は、従業員の子供のために保育施設を提供することで、仕事と家庭の調和を支援します。
6,フレキシブルな労働時間:法定外福利厚生の一環として、企業は従業員に柔軟な労働時間を提供し、家庭や個人のニーズに合わせた働き方を可能にします。
これらの法定外福利厚生は、企業が従業員の幸福感と満足度を高め、労働力を維持し、競争力を維持するのに役立ちます。また、法的な要件を超えた福利厚生を提供することは、企業のイメージ向上にも寄与します。従業員と企業の双方にとって、法定外福利厚生は双方に利益をもたらす重要な要素となっています。
法定外福利厚生には運用プランが2つある
福利厚生を充実させたい企業が任意で導入・提供できる法定外福利厚生には、以下の2つの運営プランがあります。
- ・パッケージプラン
- ・カフェテリアプラン
それぞれの運営プランについて、その特徴やメリット・デメリットを解説します。
1.パッケージプラン
パッケージプランは、あらかじめパッケージ化された複数の福利厚生のなかから、従業員が好きなものを選んで利用する法定外福利厚生の運用方法です。パッケージの内容は、プランを提供する福利厚生の代行業者が決めているため、企業が選ぶことはできません。複数のプランの中から自社に合ったものを選んで導入します。
パッケージプランのメリット・デメリットは以下の通りです。
メリット | デメリット |
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2.カフェテリアプラン
カフェで注文するときのように、従業員が自由に好きな福利厚生サービスを利用できる運用方法です。従業員に一律でポイントを付与したり、補助金を出したりして、その範囲内でそれぞれの生活や好みに合わせて福利厚生サービスを選んでもらいます。
従業員ごとに選ぶ内容が異なるカフェテリアプランの運用は、複雑になりがちなので、福利厚生の代行会社に委託も可能です。カフェテリアプランのメリット・デメリットは以下の通りです。
メリット | デメリット |
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福利厚生を充実させる必要性
近年、採用市場での競争率が高くなっているため、優秀な人材の確保には、福利厚生の充実が必要です。終身雇用が当たり前だった以前と比べて、優秀な人材ほどよりいい職場環境を求めて転職する人が増えています。
優秀な人材に自社を選んでもらうため、また離職率を上げないために、福利厚生を強化する企業が増えており、他社との差別化を図る施策の1つとしても注目されています。
福利厚生を導入する5つのメリット
多くの企業で任意にもかかわらず法定外福利厚生が導入されているのは、いくつかのメリットが期待できるからです。ここからは、法定外福利厚生を導入するメリットを5つ解説します。
1.採用力を向上させる
給料や報酬などの条件だけでなく、福利厚生を充実させると、採用力の強化につながります。さまざまな業界で人材不足が深刻化している昨今では、他社との差別化が重要です。そこで、自社が求める人材像に好まれそうな福利厚生を充実させれば、採用市場でのアピールポイントになります。
例えば、向上心の高い人材を求めるのであれば、自己啓発のサポートになる福利厚生を取り入れるなど、ワークライフバランスの充実にもつながるような福利厚生を導入するといいでしょう。
2.従業員満足度が向上する
福利厚生が充実していれば、従業員の満足度向上も期待できます。福利厚生として社員食堂や特別休暇など、より働きやすくなるようなサービスをそろえれば、居心地の良さを感じてもらえ、エンゲージメント(より深い関係性を築くこと)を向上させることができます。仕事しやすい環境を整えられれば、定着率アップも期待できるでしょう。
3.生産性が良くなる
福利厚生として、しっかり休んでリフレッシュできるサービスや、健康維持につながるサービスが提供できれば、業務の生産性向上も期待できます。高いモチベーションで仕事に臨んでもらうためには、従業員の健康面や精神面にも気遣いが必要です。心身ともに健康的な状態で働いてもらうためにも、福利厚生は役立ちます。
4.ブランド力や信頼性が向上する
福利厚生が充実していると、企業の認知度向上につながります。さらに、会社の認知度が上がれば、ブランド力や社会的信頼性の向上も期待できるでしょう。福利厚生が充実している企業は、従業員を大切にしているという印象を与えるのもメリットです。ブランド力や社会的信頼の向上は、業務の成果につながるほか、採用力アップも目指せます。
5.節税効果が期待できる
福利厚生にかかる費用は、一定の条件を満たせば経費計上可能となるため、節税効果も期待できます。 福利厚生の費用を「福利厚生費」として計上するには、社内規定の整備のほか、全従業員を対象にする、社会的に妥当な金額である、などの条件を満たす必要があります。
福利厚生を導入したり、従業員が活用したりする際に発生する費用を経費計上できれば、法人税の節税が期待できます。
福利厚生を導入する3つのデメリット
法定外福利厚生の導入には、多くのメリットが期待できますが、メリットだけではなく、デメリットの把握も重要です。ここからは、福利厚生の導入で知っておきたい3つのデメリットについて解説します。
1.導入や運用にコストや手間がかかる
法定外福利厚生を導入すると節税効果が期待できるものの、それ以上にコストがかかります。日本経済団体連合会の「2019年度福利厚生費調査結果の概要」によると、従業員1人につき月平均10万8,517円がかかります。
また、福利厚生の準備や運用には人手が必要です。利用状況の確認や、周知などで手間がかかります。社内業務に負担がかかるようであれば、福利厚生の代行業者への委託を検討するといいでしょう。
2.すべての従業員を満足させるのは難しい
導入した福利厚生の内容が、一部の従業員にしか需要がないというケースもあります。例えば、 家族向けの福利厚生は独身者には需要はなく、またその逆もあるでしょう。
一部の従業員しか利用できないような福利厚生を導入してしまうと、不平不満が生まれる可能性があります。なかなかうまくバランスが取れない場合は、カフェテリアプランにするなど工夫が必要です。
3.廃止時のモチベーション低下が懸念される
導入した福利厚生をやむを得ない理由で廃止または変更する場合、利用していた従業員のモチベーション低下につながる可能性があります。
仮に変更や廃止をする場合には、従業員に十分な説明をしたうえで、さらに書面で同意を得るようにするといいでしょう。
企業に人気の福利厚生の例
法定外福利厚生は、施策ごとに大きく7つに分けられます。ここからは、各施策で期待できる効果について解説します。
通勤・住宅に関する福利厚生
生活する上で、通勤にかかる交通費や家賃などの負担は大きくなりやすいため、通勤や住宅に関する福利厚生は、従業員の属性に関わらず広く喜ばれます。
具体的な導入例として、通勤手当、ガソリン代補助、住宅手当・家賃補助、住宅ローン補助、社員寮などがあります。
自己啓発に関する福利厚生
従業員のスキルや知識アップのために利用できる福利厚生は、自信やモチベーション向上につながります。仕事の質もアップし、成果も期待できるでしょう。
自己啓発を促す福利厚生としては、セミナーや研修の実施、資格取得費用の補助、書籍購入費の補助などがあります。
健康・医療に関する福利厚生
従業員の身体面や精神面を労わる福利厚生は、健康で長く働いてもらうために欠かせません。心身ともに健康で、意欲があれば、生産性アップにもつながります。
健康や医療に関する福利厚生には、人間ドック費用の補助、カウンセリングの実施、スポーツジム利用の補助などがあります。
育児・介護に関する福利厚生
育児や介護を理由に退職につながるケースもあるため、福利厚生での支援が重要です。育児・介護と仕事をうまく両立して、気持ちよく働いてもらうために、取り入れる企業が増えています。
育児や育児を支援する福利厚生には、育児・介護休暇の拡充、短時間勤務制度の導入、社内に託児所、保育所の設置などがあります。
文化・体育・レクリエーションに関する福利厚生
従業員にリフレッシュしてもらう機会をつくる目的で、レクリエーションなどの福利厚生を取り入れる企業も多くあります。社内レクリエーションは、従業員同士のコミュニケーションの場としても有効です。
また、企業の独自性を出しやすく社風のアピールにもなるため、他社との差別化にもつながります。導入例としては、社員旅行、社内運動会、社内サークルの費用負担などがあります。
財産形成に関する福利厚生
財産形成に関する福利厚生は、従業員の将来に役立つ資産形成を支援するものです。従業員の生活サポートに役立つため、従業員満足度やエンゲージメントの向上が期待できます。
例として、勤労者財産形成促進制度や個人年金の補助、社内預金制度などがあります。
慶弔・災害に関する福利厚生
慶事や弔事、災害があった場合、心身ともに大きな負担がかかるため、休暇や生活支援する福利厚生サービスを提供する企業もあります。従業員の生活を支えていく姿勢は、エンゲージメント向上につながるでしょう。
慶弔金の種類には、傷病手当金、結婚祝い金、出産祝い金、弔慰金、災害見舞金などがあります。
新たに福利厚生を導入する際の注意点
福利厚生の充実を図るために、新たなサービスを導入する場合、以下の4つの注意点にも気を付ける必要があります。それぞれ詳しく解説しますので、福利厚生導入の計画に役立ててください。
導入目的を明確化する
福利厚生は、導入目的が明確ではない場合、効果が低くなり、導入コストや手間が無駄になってしまう可能性があります。予算を無駄なく、効果的に使うためにも、どのような効果を目的に、従業員にどのようなメリットがある内容なのかをしっかり見極めて、導入を決定する必要があります。
社内の意見やニーズを調査する
新たに福利厚生を導入する場合、多くの従業員に利用してもらうために、社内の意見やニーズの調査も大事です。世間的に人気なサービスであっても、自社の従業員に合うとは限りません。社内でアンケートなどを実施し、できるだけ自社のニーズに合ったものを導入するといいでしょう。
周知や説明会を実施する
新しく福利厚生を導入するなら、より多くの従業員に利用してもらうために周知が必要です。 福利厚生の存在自体を知らなければ、利用率が上がらず無駄になり、効果も半減してしまいます。もれなく従業員に知らせるには、メールでの周知や説明会による利用方法の周知が効果的です。
定期的な改善を心掛ける
福利厚生を導入したら、定期的に見直して改善していく必要があります。より効果的な内容に改善するためには、利用状況の把握が大事です。運用中の福利厚生についてアンケートを実施するなど、従業員の意見を募り、反映させていくといいでしょう。
まとめ
従業員が働きやすいと思える職場環境の整備は、企業の成長に欠かせない課題です。 健康的に活き活きと働いてもらいながら、成果につなげてもらうためには、福利厚生の充実も欠かせません。 昨今では、さまざまな福利厚生サービスがあるため、社内ニーズや社風に合ったサービスを取り入れ、従業員が働きやすいと思える会社づくりを目指してはいかがでしょうか。
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