等級制度の概要
等級制度とは、社員の能力・職務・役割・経験年数などに応じて、段階的に等級で分ける制度です。 主な等級制度には職能資格制度、職務等級制度、役割等級制度があります。等級によって与えられる権限や責任も異なり、給与や待遇を決定する基準になるため人事評価で用いられます。日本でも多くの企業に導入されており、社員の所属や職務に応じて等級も決まるため、人材育成や人材配置の決定などさまざまな面でメリットがあります。
等級制度の目的とは?
等級制度を導入する目的には、次の3点があります。
・社員の処遇を円滑に決定する
・社員に必要な業務レベルを明示する
・キャリア自律を促進する
社員の処遇を円滑に決定する
等級制度は各等級で必要な基準が明確に決まっており、基準を満たすことで昇給や報酬が与えられます。等級毎の基準が明確であれば、社員の処遇決定も迅速に行うことができます。また、社員にも評価基準が明確に伝わるため、目標設定がしやすく、納得感のある処遇決定となるでしょう。評価の納得感は、仕事へのモチベーションにも関わる重要なポイントです。
社員に必要な業務レベルを明示する
等級制度は各等級で必要な基準が明確に決まっており、基準を満たすことで昇給や報酬が与えられます。等級毎の基準が明確であれば、社員の処遇決定も迅速に行うことができます。また、社員にも評価基準が明確に伝わるため、目標設定がしやすく、納得感のある処遇決定となるでしょう。評価の納得感は、仕事へのモチベーションにも関わる重要なポイントです。
社員に必要な業務レベルを明示する
等級制度では資格や職務、能力などを基準に評価されるため、社員に求める業務レベルがわかりやすくなる点も目的の1つです。基準毎に必要な能力や業務レベルが明示されており、社員が自身のためにすべきことが一目でわかります。どのようなスキルを磨けば、どんなキャリアにつながるかもイメージできるため、キャリアプランの面でもメリットになります。
キャリア自律を促進する
等級制度はキャリアアップに必要な能力と基準が明示されるため、キャリアプランを立てる際も参考になります。社員が自発的にキャリアイメージを持つようになり、目標に向けた行動を促す効果も期待できます。自分の仕事や学びがキャリアにつながると理解できれば、仕事へのモチベーションやエンゲージメントも高まるでしょう。社員のキャリア自律は組織活性化にも効果的であり、生き生きと働ける職場作りにもつながります。
等級制度・評価制度・報酬制度の違いとは?
等級制度は人事評価でも使用されます。人事評価制度は、等級制度、評価制度、報酬制度の3つに分類されます。それぞれの制度の違いをまとめると次のようになります。
・等級制度:社員の地位や役職を定める制度
・評価制度:社員の業務遂行能力や成果、取り組みへの姿勢などを評価する制度
・報酬制度:社員の等級や評価を反映した報酬を決める制度
3つの制度は相互に関係があり、1つの人事評価制度として機能するようにできています。
等級制度の種類とは?
等級制度には職能資格制度・職務等級制度・役割等級制度の3種類があります。それぞれの等級制度のメリット・デメリットなどを解説します。
職能資格制度
職能資格制度は社員の能力を基準として、職務遂行能力に応じて等級が上がる制度です。日本の年功序列・終身雇用制と相性が良く、勤続年数が長い人ほど能力が高い傾向があるとされ、ベテラン社員に高い等級が与えられます。また社員の業務遂行能力を全般的に評価することから、幅広い能力を持つ社員ほど等級が上がりやすい仕組みになっています。例えば2~3年毎に部署異動がある会社の場合、職能資格制度のほうが社員の等級が高くなりやすいです。職能資格制度のメリットは次の通りです。
・ゼネラリスト育成に適している
・人材定着率が上がる
・仕事へのモチベーションにつながる
職能資格制度の下では部署異動も昇給のチャンスであり、幅広い知識を持ちどの分野でも活躍するゼネラリストの育成に向いています。新しい知識・技術を学ぶことで昇給しやすいため、仕事へのモチベーションアップにもなるでしょう。昇給があれば社員の給与も上がるため、人材の定着率も上がります。一方、デメリットは次の通りです。
・コストが高い
・等級=活躍につながりにくい
・若手のモチベーション低下につながりやすい
職能資格制度では勤続年数と能力が評価基準になるため、等級の高い社員が増えるほど、人件費が多くかかります。加えて社員の等級が高いからといって、会社への貢献や仕事での活躍につながるとは限りません。そのため活躍していないベテラン社員が高い給与をもらう反面、若手社員は正当に評価されていないと感じ、モチベーション低下を引き起こしやすいです。
職務等級制度
職務等級は職能資格制度とは異なり、仕事の成果に応じて等級が変化する制度です。職務等級制度では勤続年数や職歴ではなく、どれだけの成果を出したか、職務遂行能力がどれだけ高いかで評価されます。そのため、1つの仕事を継続して行う会社の評価制度として適しています。職務等級制度のメリットは次の通りです。
・スペシャリスト育成に適している
・ジョブ型雇用に向いている
・人材のミスマッチが予防できる
・公平公正な評価でモチベーションを高めやすい
・生産性向上につながる
職務等級制度は1つの分野の治験や技術を高めるほど、高く評価される等級制度です。専門性の高いスペシャリスト育成やスキルに特化したジョブ型雇用に向いており、採用時のミスマッチも防止できます。また職務等級制度は成果で公平公正に評価されるため、社員が成果を競ってモチベーションを高める効果もあります。結果として生産性向上にもつながりやすい点もメリットです。一方、職務等級制度にはデメリットもあります。
・人間関係が悪くなりやすい
・組織としての柔軟性がない
・社員の人柄が評価されない
同じ部署の社員であっても成果を競い合うライバルとなるため、人間関係の悪化や足の引っ張り合いにつながる可能性があります。職務等級制度は基本的に人事異動もないため、一部の社員が抜けてしまうと交代要員がいなくなる点もデメリットです。さらに、どれほど仕事に対して誠実に勤勉に努力をしている社員がいても、成果が出ていなければ正当に評価されません。正当に評価されなければ社員のモチベーションが下がり、離職率上昇につながるおそれがあります。
役割等級制度
役割等級制度は社員の能力と役割に応じて、その役割に応じた業務遂行能力や達成度で評価する等級制度です。職能資格制度と職務等級制度のハイブリッドのような制度であり、若手社員でも成果を出せば昇級されることもあります。 逆にポストに見合わない仕事をすれば降級もありえるため、社員は仕事に対して真剣に向き合う必要があります。役割等級制度のメリットは次の通りです。
・多角的な視点で人材育成できる
・コストが抑えられる
・社員の活躍や貢献度に応じて評価できる
役割等級制度はハイブリッド型の仕組みですから、ゼネラリスト・スペシャリストの育成に向いています。スペシャリストとしてキャリア形成する方法もあれば、ゼネラリストとして幅広い分野で活躍する方法もある点が社員にとって大きなメリットです。仕事への評価も成果と業務遂行能力、勤務態度、職歴など幅広い点を基準にするため、社員の活躍や貢献度をバランスよく評価できます。勤続年数に応じた昇級とはならないため、人件費も低く抑えられる点は会社にとってのメリットです。一方、デメリットには次の点があります。
・評価が難しい
・処遇に不満が出やすい
役割等級制度では評価項目が多くなるため、評価基準の選定と実際に人事評価を行うのが難しいというデメリットがあります。さらに評価に基づいて処遇を決定しても、社員に不公平感が生まれることもあるでしょう。また人事異動や役割の変更があれば、等級が下がることもあります。社員から不満が出ないように運用するのが、役割等級制度の最も難しい点といえます。
等級制度の作り方について
社員の納得感が得られる等級制度を作るには、ポイントを押さえながら計画的に進めることが重要です。具体的な作り方のステップについて、5段階に分けて解説します。
導入目的・方針の決定
等級制度を導入するにあたり、会社にどのような課題や解決すべき問題があるか洗い出します。そのうえで、等級制度の導入目的や方針を具体的かつ明確に決定しましょう。目的と方針の決定はその後の制度運用にも関わる重要なポイントですから、しっかりと検討して決定すべきです。
等級制度の種類の決定
目的・方針を決定したら、相応しい等級制度の種類を決定します。例えば、社内で専門職を増やしたいなら職務等級制度、幅広い経験を活かしてイノベーションを起こすなら役割等級制度など、自社に適した制度を選ぶことになります。また選択する等級制度は1つである必要はなく、複数の制度を組み合わせて運用することも可能です。それぞれの等級制度の特徴、メリット・デメリット、自社の状況などを加味して、最適な制度を選択しましょう。
等級数の決定
導入する等級制度を決定したら、次は等級の数を決定します。等級の数を誤ると導入の効果が得られなくなります。ある程度社員の業務レベルが均一になる範囲で、等級を設定しておくことが重要です。そのため、管理職であれば2~3程度、一般社員であれば3~4程度の等級数を用意しましょう。等級数が少ないと同じ等級内でレベルの差が大きくなり、社員の不満を生みます。また多すぎてもキャリアアップの道のりが長くなり、社員の成長を阻害することになります。評価基準が曖昧になることを避ける意味でも、等級数は適切な範囲にすることを意識すべきです。
等級別の定義の明確化
等級数を決定したら、次は等級別の必要な能力、レベル、役割などを定義します。等級による基準については、職種別にする方法もあれば、全社共通にする方法もあります。どちらを選択するかは会社次第ですが、公正公平な評価を行うため定義は明確にしておくことが重要です。社員の意欲向上のためにも、わかりやすい定義を設定しましょう。
運用方法の決定・シミュレーション
最後に等級制度の運用法を決定し、シミュレーションを行います。シミュレーションは実際の運用を想定して行い、想定外の事態や課題がないか確認しましょう。シミュレーションなしで運用開始すると、等級制度の評価に社員が戸惑うだけでなく、不当な評価をされたと感じる社員が現れるおそれがあります。実践を想定して課題を発見することで、修正点や改善を早期に発見できます。
等級制度の企業事例
等級制度の導入に関連して、2つの企業事例を紹介します。
国内大手電機機器メーカーA
国内家電製品などを生産するA社では2014年まで年功序列制を採用していましたが、2015年から役割等級制度を導入しています。日本企業で最初に年功序列・終身雇用制を採用したA社ですが、生産年齢人口の減少や社会の変化に伴い、管理職を対象とした役割等級制度を導入しました。近年は役割等級制度を含むジョブ型雇用にシフトしつつあり、若手の成長促進を期待しています。一方でグループ会社では役割等級制度や昇格試験を廃止し、公募制の人事制度としてジョブディスクリプションを導入しています。この制度は事業戦略の達成に必要な仕事が何かを定義し、社員がどれだけ貢献しているかを判断する仕組みです。他のグループ会社でも2023年4月以降、係長以上の役職を完全公募制にしています。応募制にしたことで年齢や経験を問わず、すべての社員が管理職に挑戦できるようになっています。資金力と人材の多い大手企業ならではの等級制度ともいえますが、年功序列・終身雇用制から大胆な変更があった企業の事例です。
国内スキル型フリマサービス運営会社B
スキルを売り買いするフリーマーケットとして、拡大を続けるB社では独自の等級制度を採用しています。ココナラは曖昧な評価基準を避けるために、コミット範囲・業務レベル・裁量・育成責任・ノウハウレベルの5つの項目と、11のグレードで等級を決定しています。B社は急速な成長を続ける中で、2017年12月から従来の等級制度を変更しました。その大きな目的は評価基準を統一し、給与決定のルールを明確化することです。社員の多くが中途採用だったこともあり、前職の給与を基準を踏襲していたため、レベルに見合わない給与を受け取る社員もいました。そこで社員の多くが中途採用だったこともあり、前職の給与を基準を踏襲していたため、レベルに見合わない給与を受け取る社員もいました。 明確な基準を設けることにより、社員の中にある不公平感をなくし、個々の社員の成長へとつなげようと考えた結果の制度でした。 各等級と実際の業務レベルにギャップがある社員に対しては、成長を支援するためのプログラムも用意し、業務レベル向上を図りました。その結果、社員のモチベーションアップにつながっただけでなく、人事評価と給与決定が円滑に進むようになりました。管理職の社員にとっては、部下の評価する際に足りないスキルが何か明確になり、面談でも客観的なアドバイスが可能となっています。
人材育成のことならユーキャンへ
人材育成でお悩みなら、ユーキャンにご相談ください。企業の人材育成を円滑に行うには、等級制度を含めた人事評価制度の見直しが不可欠です。人材育成は研修だけでなく、人事評価と連動して行うことで、初めて成功するものだからです。「社員の意欲が低い」「育成に力を入れているのに成果が出ない」このようなお悩みがあるなら、人材育成と併せて人事評価制度の構築についても理解することが大切です。ユーキャンは人材育成の基本だけでなく、人事評価制度の仕組みまで、企業を支える幅広い研修を用意しています。
まとめ
今回は等級制度について、概要や目的、種類、導入にあたっての手順などを解説しました。等級制度は人事評価の重要な軸であり、優秀な社員を確保・育成するための施策でもあります。多くの企業で年功序列・終身雇用制を廃止し、新しい人事制度の導入を進めています。等級制度は人事制度を構築するベースの制度であり、社員の能力や成果に応じて役職や等級が上がるため、社員のモチベーションを高めるためにも重要な制度です。自社に適した等級制度を選択し、人材育成と生産性向上を加速させましょう。