戦略人事とは?人事戦略との違いは?役割や実現のためのポイントを紹介

  • 戦略人事とは?人事戦略との違いは?役割や実現のためのポイントを紹介

    公開日:2024.07.09

    更新日:2024.07.09

    戦略人事は人的資源を最大限に有効活用し、企業の経営戦略を実現するための人事管理、組織構築を実行していくことを指します。企業が変化の激しい時代を生き抜くには、タレントマネジメントやダイレクトリクルーティングなどの施策が必須です。この記事では戦略人事の基本や戦略人事の流れ、具体例、実現に向けたポイントなどを解説します。

戦略人事とは何か?

戦略人事は「人的資源を最大限まで有効活用し、経営戦略を実現するために人事管理や役割を決定、実行すること」を指します。 企業の経営戦略を実現し、企業の利益や業績を向上させるための手段です。経営学では「戦略的人的資源管理論(SHRM)」といわれており、さまざまな研究がなされています。

戦略人事が注目されている理由

戦略人事が注目されている理由には、急激なIT・DXの普及とグローバル化、生産年齢人口の減少などの社会変化が関係しています。これまで以上に急激に社会構造が変化し、数年先の未来も予測が難しい時代になっています。変化の穏やかな時代は経営戦略も一定の方向を示せばよく、戦略人事についてあまり意識されてきませんでした。しかし、近年は市場の変化についていけない企業は淘汰されるため、時代の変化に適応し、必要なスキルや知識を持つ人材の存在が重要視されるようになりました。 戦略人事は企業の経営戦略の1つとして、市場優位性を確保しつつ時代の変化に適した人材を育成するために不可欠となっています。

戦略人事と人事戦略の違いとは

戦略人事と人事戦略は、単に単語を逆にしただけでなく、意味が全く異なります。戦略人事とは企業の市場優位性を確保するために、戦略の一部として社内の人事業務を管理することです。一方の人事戦略とは人事業務をいかに改善するか、業務効率化に必要な人事構築などの視点が必要とされ、より広い視野で人事を捉えることが求められます。つまり、戦略人事とは人事戦略の一部に組み込まれる要素と理解すればよいでしょう。戦略人事の要素は他にも、インフラ人事やオペレーション人事などがあります。インフラ人事は人事制度の設計や人材開発、オペレーション人事は実務での人材管理のことです。戦略人事と人事戦略は、言葉の意味を明確にして使い分けましょう。

戦略人事の流れ

戦略人事の具体的な流れは初めに人事戦略、次にインフラ人事、最後にオペレーション人事と続きます。経営戦略実現に必要な人事戦略の構築を頂点とし、次に人事関連の制度設計・人材開発・人材確保を行うインフラ人事です。最後に、インフラ人事で構築した人事システムや労務管理を実際に活用するのがオペレーション人事です。より細分化すると、次の流れになります。
経営戦略→人事管理目標の設定→人事管理→成果の把握→経営戦略の成果を評価

戦略人事の具体例

戦略人事の具体例には、次の3つのポイントが挙げられます。
・採用
・育成・配置
・評価・待遇
それぞれのポイントと具体的な内容について解説します。

採用

戦略人事における採用の例として、ダイレクトリクルーティングが代表的です。 ダイレクトリクルーティングは自社の求人を出して応募を待つ方式ではなく、必要な人材や条件に合う人材に対して能動的にアプローチする手法です。近年はSNSや企業説明会などのイベントで、企業側から優秀な人材にアプローチすることが増えています。他にも従業員の家族や友人、知人を紹介してもらう方法もあり、ダイレクトリクルーティングの手法はさまざまです。ダイレクトリクルーティングは人事戦略として考えられることもあります。しかし企業の経営戦略に必要な人材を採用することを目的とする場合、戦略人事の一環といえます。

育成・配置

育成・配置の例は、リカレント教育(学び直し)の推進とタレントマネジメントの導入です。まずリカレント教育は、人材育成手段の1つです。戦略人事の視点では、企業側が経営戦略実現という目標を実現するために、従業員のスキルや知識をサポートすることを指します。リカレント教育の具体的な内容としては、次のようなものがあります。

・研修や学習機会の提供
・企業内大学の設置
・大学院などでの学び直し支援

リカレント教育で学ぶ内容のトレンドは次のものです。

・プログラミング
・外国語学習
・MBA
・国家資格取得支援

企業が経営戦略実現に最適な人材を育成する場と機会を提供することで、効率的な人材育成が可能になります。人事配置の視点では、タレントマネジメントの導入も効果的です。タレントマネジメントとはそれぞれの従業員の持つスキルや経験、知識などを採用や育成、配置に活用し、能力が発揮しやすい配属や人材の組み合わせを行うことで、企業の成長につなげていく人材マネジメントです。企業の経営戦略は常に同じではなく、社会情勢や企業と業界を取り巻く環境、社会的責任に応じて流動的に変化します。戦略人事も同様で、既存の人材、スキルだけで目標達成することは難しいでしょう。 タレントマネジメントは社会や環境の変化にも柔軟に適応するため、企業の経営戦略にとって重要な施策です。個々の従業員が最大限のパフォーマンスを発揮できるように、最適な人事配置を行うことがポイントになります。

評価・待遇

戦略人事の成果を最大化するには、評価・待遇についても考える必要があります。評価・待遇の具体例は、OKR(Objectives and Key Results)の導入や定年延長・延長雇用などです。OKRとは「目標と主要成果」のことで、企業の経営戦略達成のために従業員の自律性を高める手法として知られています。シリコンバレーの企業が率先して導入しており、日本でも導入する企業が増えつつあります。OKRは企業やチームの目標に対して、従業員がどのくらいの達成度合いや成果を出せたかで評価を行うものです。従業員一人ひとりが経営に参加している意識を高め、同じ組織の一員として連帯感を強める効果があります。またエンゲージメントの向上にも効果的で、人事戦略としても重要な評価方法です。
戦略人事における待遇の具体例として、定年延長や延長雇用も効果的です。高いスキルと豊富な経験を持つベテランが長く活躍し、企業の利益に貢献してもらえます。単なる臨時職員やパートタイマーとして再雇用するのではなく、一定の給与水準と待遇を維持するのがポイントです。

戦略人事を実現させるために人事部門が行うべきこと

企業の戦略人事を実現させるには、人事部門に求められる2つの重要なポイントがあります。

・企業経営への当事者意識
・自社に必要な人材・条件の明確化

企業経営への当事者意識

人事部門が戦略人事を実現させるには、企業経営への当事者意識を持つことが重要です。経営戦略と戦略人事は密接に関係しており、実現するには人事部門が自社の経営戦略を深く理解することが不可欠です。さらに戦略人事をいかに経営戦略実現に結びつければよいか、経営者視点で遂行することも求められます。「企業の経営戦略上の目標だから」という意識ではなく、「自分が経営者ならどう考えるか」と考える必要があります。 人事部門は経営戦略を人事・労務や人的資源の管理から実現する部署として、経営に参画する意識を醸成しましょう。

自社に必要な人材・条件の明確化

戦略人事を実現するには、人事部門が企業の現状を考慮し、自社に必要な人材・条件を明確化することも欠かせません。採用・育成・配置を行うには、自社の課題と課題解決に必要な人材が理解できていなければ、適切な人事ができないからです。また企業の利益を向上するだけではなく、将来の成長や事業拡大も視野に入れ、今後どのような人材が必要かを検討することも求められます。そのためには経営戦略の立案と実現を経営層に任せるだけでなく、人事部門にも課題解決思考が必要です。日ごろから経営層との意思疎通を行い、経営戦略への理解を深めましょう。

戦略人事を推進するための企業の風土づくり

戦略人事を推進するためには、企業風土づくりも大切なポイントです。
以下のポイントを意識することで、企業風土づくりがスムーズになります。

・経営者の抱くビジョンを明確にする
・管理者と一般社員間でのコミュニケーションを活性化する
・メンバー同士が連携しやすい体制を構築する
・社員全員に経営戦略と目標達成に必要な行動を浸透させる

上記はいずれも人事部門の施策によって、改善できるポイントです。
人事部門は企業内の人事管理だけでなく、社員間の連携やコミュニケーションの活性化、施策による成果の評価なども行います。そして施策で経営戦略をどの程度実現できたか定量的に評価し、足りないスキルや知識を分析することがポイントになります。 人事部門は人事・労務管理、人材育成などを幅広く担当するからこそ、戦略人事における企業風土づくりで不可欠の存在になるでしょう。

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まとめ

企業の戦略人事は時代の変化とともに不可欠となり、時代の変化に適応できる人材と戦略が求められるようになりました。変化の激しい現代においては、流動的な経営戦略でなければ生き残りすら難しくなりつつあります。このような時代だからこそ、戦略人事を担当する人事部門の価値は高まっています。自社にとってどんな人材が必要で、課題解決につながる人材育成、制度設計をどのように行っていくかが鍵になるでしょう。 企業を支える存在として、人事部門の担当者は戦略人事の視点から組織全体を俯瞰することが大切です。

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