OKRとは?
OKRとは組織やチームにおける目標設定や管理方法のことで、アメリカのIT企業インテルが生み出しました。正式名称は「Objectives and Key Results」で、日本語では「目標と主要な結果」です。日本でもOKRを取り入れる企業が増加しており、企業の目標、チームの目標、個人の目標などに細分化して設定・管理するケースが多くなっています。OKRは最上位に企業が目指すべき目標を設定し、それに伴う主要な成果を設定し、チームや個人の目標設定にリンクさせる仕組みです。 OKRによってすべての社員が同じ方向へ向かい、組織としての課題に取り組み、目標達成を目指しやすくなります。またOKRは組織と個人の目標がリンクできるため、目標設定・進捗の確認・評価までの一連の流れを高い頻度で繰り返す点が特徴です。従来の事業計画では年1~2回程度評価制度とは違い、OKRはより頻繁に評価をおこなうことから、その都度軌道修正がしやすくなります。評価の頻度が多くなることで、企業と個人の距離感が近くなり、個人のモチベーション向上と組織の生産性向上効果が期待できます。
OKRが注目されている背景
OKRは1970年代にアメリカのインテル社が生み出したのが始まりとされています。その後、シリコンバレーを代表する有名企業やGoogle、Facebookなどでも効果的な目標設定手段として採用されるようになりました。日本国内でも採用する企業が増加しており、メルカリや花王、Chatworkなどの有名企業でも実際に導入しています。IT技術の進歩やダイバーシティの浸透に伴い、人との距離や異なる価値観・文化に触れる機会も増えました。
一方で、異なる背景を持つ人間同士が一体となって目標達成を目指すには、組織に属する個々の社員が理解と共有しやすい目標と評価方法が必要になっています。そのため、組織と個人が同じ目標の下で一体となり、モチベーションと生産性を高められる管理方法としてOKRが注目されています。
OKRと類語・関連語との違い
OKRの類語・関連語にはKPI・KGI・MBOなどがあります。OKRとそれぞれの用語の違いについてご紹介します。
KPIとOKRの違い
KPIは「Key Performance Indicator(重要業績評価指標)」を意味し、組織の最終目標の達成や目標実現に向けた業務プロセスが適切に実施されているかどうかを定量的に測定する指標のことです。 OKRとは組織・チーム・個人で目標設定を行う点で近いですが、大きな違いは目標に対する達成率です。KPIは100%の達成率を成功と捉えるのに対し、OKRは目標に対する達成率が60~70%が理想としています。また、OKRは高い頻度で評価と目標設定の見直しを行いますが、KPIはプロジェクト単位が基本です。定量的な目標を設定する点では同様ですが、OKRはより機動的に目標設定できる点で大きな違いがあります。
KGIとOKRの違い
KGIは「Key Goal Indicator(重要目標達成指標)」を指し、組織やチームなどが業務における目標を達成するために、何を達成することで成果とするのかという定量的な指標です。
例えば年間売上を20%アップするために、何をもって達成を判断するかという指標がKGIです。KGIには売上高や営業利益率、成約率、EVA(経済的付加価値)などの定量的な指標が用いられます。KGIもKPIと同様に100%の達成率が求められるため、60~70%を目標にするOKRとは違いがあります。またOKRの根底にある目的は高い目標設定により、組織・チーム・個人の成長を促すことです。KGIは目標達成率という結果に対する評価指標ですから、OKRとは区別して考える必要があります。そしてKGIを細分化して、達成率を評価するものがKPIと考えるとよいでしょう。
MBOとOKRの違い
MBOは「Management by Objectives(目標による管理)」を指し、組織目標と個人の目標をリンクさせることで、社員の自主性を高める管理方法です。OKRとも近い部分はありますが、期間や評価頻度などに大きな違いがあります。まず、OKRは基本的に3カ月サイクルで評価と目標設定を見直します。一方、MBOは基本的に年に一度しか行いません。また、目標達成率の測定基準もOKRではSMARTの法則が活用されている点、定性的・定量的の両方の指標を用いる点でも違います。なによりもMBOはノルマ制度に近く、人事評価を行うための管理方法です。OKRは社員の成長やチャレンジ精神を高めることを目的にしているため、根本的な概念に違いがある点を理解する必要があります。
OKRを導入するメリット
OKRを導入することで、企業や個人にどんなメリットがあるのかご紹介します。
企業としての目標を明確化して共有できる
OKRは最初に企業としての目標を設定し、その目標から部署、チーム、個人の順に目標と重要な結果を設定していきます。従来の目標設定方法では、企業や部署としての目標が個人の目標にリンクできておらず、社員自身の目標が不明確になりやすいデメリットがありました。
一方で、OKRは企業としての目標設定や求められる結果が明確化できることから、社員全員が自社の目標と自分の目標、求められる結果を理解しやすいメリットがあります。
また、目標と結果が明確化されると、社員それぞれが仕事への目的意識を持ち、チームとして連帯感を持つ効果も期待できます。強い組織づくりを実現する意味でも、OKRを導入するメリットは大きいといえます。
仕事の優先順位が明確化できる
OKRでは企業としての目標、部署やチームでの目標、社員個人の目標と階層別に目標と重要な結果を設定、共有します。通常の企業目標設定とは異なり、個人レベルまで目標を落とし込むことから、仕事の優先順位を明確化しやすいメリットがあります。また、個人の目標も企業やチームの目標とリンクしていることから、個人の仕事が企業の目標に直接影響する点も大きなメリットです。組織人として企業に貢献する意識を養う効果が期待でき、経営や業務管理の視点を社員個人が身に付けられます。社員が業務効率を意識した優先順位付けができるようになれば、企業の生産性も向上するでしょう。
モチベーションやエンゲージメントが高まる
OKRを導入することで、社員の仕事へのモチベーションとエンゲージメントを高める効果も期待できます。 OKRでは社員個人にまで企業の目標を浸透させ、達成度を頻繁にチェックする特徴があります。MBOのように年に一度の評価では目標と実際に乖離が生じやすく、社員のモチベーション維持が課題の1つでした。その点をOKRは改善するとともに、目標を100%達成することよりも社員の成長に重点を置いています。目標や結果も重要ですが、それ以上に社員の成長とモチベーションの向上、エンゲージメントの高まりというメリットが大きいです。社員ひとりひとりが目標を共有し、企業へ貢献する意識が高まることで、仕事への意識も変化します。離職防止対策の一つとしても、OKRは役に立つでしょう。
社内でのコミュニケーションが活性化する
OKRで企業の目指すべき目標を社員にも共有することで、部署内やチーム内でのコミュニケーションを活性化できるメリットもあります。 OKRでは最短1カ月、少なくとも四半期に一度は評価を行います。達成率も60%程度で問題はなく、評価も楽な気持ちで迎える点がメリットです。また社員同士が目標に向かってどう動くべきか、それぞれの考えを共有しやすくなり、コミュニケーションの活性化が進みます。
OKRを導入する手順と運用方法
OKRの導入と運用は、主に4つのステップで行います。それぞれのステップについてご紹介します
1.企業OKRを設定する
最初のステップでは、まず企業としてのOKRの設定を行います。企業OKRは1つの企業につき1つが基本で、複合企業であれば事業単位でOKRを設定することもあります。企業OKR設定で注意すべき点は、企業OKRは部署や社員個人まで共有されることを考慮する点です。経営層からトップダウン式で設定すると、組織や現場の実態に則していない目標になるk脳性があるためです。そのため、企業OKR設定には部署の管理者や社員へのヒアリングを行い、現場で働く社員の意見を目標に取り入れましょう。そして、企業OKR設定では「達成目標(Objectives)の設定」と「主要な成果(Key Results)の設定」の2つも行います。
・達成目標(Objectives)の設定
達成目標とは自社が現在理想とする目標であり、到達したい定性的なものです。達成目標は売上や成約率などの定量的な数値ではなく、「AI技術を生活の一部にするイノベーションを生み出す」などのビジョンで構いません。目標は複雑なものよりも簡潔で、かつ社員のインスピレーションを刺激するものほどOKRでは良いとされています。
・主要な成果(Key Results)の設定
主要な成果は、達成目標を評価するための指標を設定します。達成目標は定性的な内容となる分、達成率の評価には数値を用いる必要があるためです。主要な成果で注意すべき点は、理想とする数値を高く設定しすぎないことです。努力によって達成可能なラインを見極め、簡単すぎず難しすぎない数値を設定してください。また評価では60~70%の達成度(ストレッチゴール)が理想とされていますから、その点も意識した設定を行う必要があります。
2.部門やチームのOKRを設定する
企業のOKRを設定したら、次は部門やチーム単位でのOKR設定です。基本となる企業OKRに連動したOKR設定がポイントになります。やることは企業OKRと同じく、達成目標の設定と主要な成果の設定です。企業OKRに関連した部門・チームごとの達成目標設定、達成度を評価するための定量的な主要な成果の設定を行いましょう。達成目標は企業OKRと同じように定性的な内容にするとともに、設定にあたってはチームメンバーからのヒアリングも実施します。部門やチーム全体が納得できる達成目標設定には、社員それぞれの思いや意見、アイディアを生かすことも重要だからです。
3.社員個人のOKRを設定する
部門・チームのOKRまで設定したら、最後に社員個人のOKRも設定します。社員個人のOKR設定は、部門・チームのOKRから個人レベルまで落とし込むことがポイントです。社員個人に任せるのではなく、部門の管理者やチームリーダーが社員と面談を行いながら、双方が納得できるOKR設定を行います。このステップでも達成目標の設定、定量的な主要な成果の設定を行ってください。
4.OKRの期間終了後に採点を行う
OKRは導入後、1~3カ月の期間を目安に評価と目標の再設定を行います。そのためには、主要な成果で設定した指標を基に達成度を採点しましょう。設定した指標を平均し、何%達成できているかで評価を行います。理想は60~70%程度で、達成できていたら再度OKRを設定し、次の評価まで続けるというサイクルを繰り返します。
業種・職種別のOKR具体例
業種や職種別にOKR設定の具体例をご紹介します。
営業職
営業職は顧客に自社製品やサービスを案内し、直接売上につなげる重要な職種です。特に新規顧客獲得は利益に大きく関与するため、OKRによる達成目標と主要な成果の設定は社員のモチベーションにもつながるでしょう。OKR設定では、達成目標は売上の向上や顧客満足度などの定性的な目標を設定するのがおすすめです。
例えば売上を倍増する、顧客満足度を前年より2割高めるなどです。そして主要な成果は具体的な数値の指標を設定しやすいため、複数の指標で具体的な目標設定を行いましょう。
例えば年間売上額30%アップ、新規顧客からの売上20%アップ、成約率プラス10%などです。ただし、あまり数値を重視しすぎるとノルマと同じになってしまうため、社員のモチベーションを高められる達成目標の設定を意識してください。
人事
人事職のOKR設定では、人材に関する達成目標と主要な成果の指標設定がポイントになります。新卒や中途採用のほか、人事やプロジェクトの人員配置などでどのような目標を設定するか、どのような方法で人材を確保するかなどを指標にします。
達成目標の設定では、グローバルで活躍できるマーケティングチームの結成、家族のように親身なチーム作りなどを達成目標にしましょう。そしてマーケティング人材を新規に3名採用する、チーム結成後に交流会やグループワークを定期的に開催するなどの指標を設定することです。
製造業
製造業のOKRは製品の品質に関するもの、新製品の開発などがあります。企業としての達成目標は、業界シェアトップを獲得する、製造業で新しい分野を開拓するなどがあります。達成指標には市場シェアを10%アップ、新製品を5種類開発するなどがよいでしょう。達成目標は各部署や製造ラインによって設定し、工程を担当する各社員が品質や開発への意識を高めるように、働きかけるものにすることがポイントです。各部署やラインの担当者でアイディアを出し合い、新しい製品開発や生産効率の向上などにつながる行動を支援できるOKR設定が重要です。
OKRを導入した企業事例
OKRを実際に導入した日本および海外企業の事例をご紹介します。
アメリカ大手インターネットサービス会社A
A社は1999年からOKRを導入し、世界的なIT企業として成長を遂げました。
当時社内で試験運用したところ、効果の高さが証明されたことで全社でOKRが本格的に導入されました。A社がOKRで特に重視したのが、ストレッチゴールとスコアリングの2点です。組織と社員の成長を促すために、達成目標を高めに設定するストレッチゴールを採用し、社員の自発的な行動につなげました。スコアリングは達成指標による達成度の可視化のことで、評価の度にフィードバックを行うことで、目標の再設定を繰り返して適正なゴール設定を行うものです。A社はOKR導入以降、企業として目覚ましい成長を遂げ、世界で知らない人はいないほどの大企業となりました。
大手フリマアプリ運営会社B
B社は社内の課題として、企業目標と社員の目標に意識のズレがあると気付き、課題解決方法としてOKRを導入しました。利用者の増加に伴って利益も増加し、生産性を維持するためにも社員数を増やさざるを得ませんでした。その結果、社員数が増え企業内での目標共有が難しくなったため、OKRを導入することにしました。B社がOKRで重視したのは、コミュニケーションとプロセス評価の2点です。コミュニケーションでは半年毎にチームのOKRを共有し、フィードバックすることでOKRについてチーム間で話し合えるようにしました。また、達成指標では結果よりもプロセスを重視した評価を行い、目標に対して社員がどう行動したか、どのように貢献していたのかを評価するシステムになっています。チーム間のコミュニケーションとプロセス評価の視点ができたことで、社員個人が企業の目標を理解し、エンゲージメントが高まる効果を生み出しました。
ビジネス向けコミュニケーションツール運営会社C
C社はオンラインの普及に伴い利用者が増加し、社員数も大幅に増加しました。しかし、社員数が増えたことで事業戦略を現場レベルで共有できないという課題が生じ、その課題解決手段としてOKRを導入しました。C社が重視したのは、業績評価と行動評価、そして会社業績の3つの指標です。特に業績評価を行う際にOKRの目標に対して、どれだけチャレンジしたかを評価しています。OKRそのものは人事評価とは直接関係しませんが、チャレンジングな精神を持つ社員には高い評価をつけるように制度を変更しました。OKR達成率に関わず挑戦する社員を評価し、社員のモチベーションを高めることに成功した事例です。
アメリカ大手半導体・電子機器メーカーD
D社は初めてOKRを導入した企業であり、達成目標の共有により経営状況の回復に成功しました。重視したのは戦略の絞り込み、目標のための連携、進捗状況の共有などです。D社は複数の事業内容がある中で、戦略を1つに絞ることで社内での達成目標を明確化しました。部署や社員が1つの目標に向かうことができ、チームや個人での連携がしやすくなる効果を生みました。またOKRの鍵となる定期的な評価を行い、進捗状況の把握と共有、再設定を進めることでより高い目標へ向かうモチベーションを高めた点も特徴です。難しいが努力すれば達成できる目標をうまく打ち出した結果、会社全体の利益が改善した事例です。
Webサービス開発・運営会社E
E社はスキルと経験の需要と供給を可視化し、マッチングするアプリケーションとして急速に普及しました。事業の拡大に伴い、OKRを導入したところいくつかの課題を発見したため、改善に取り組みました。
E社が抱えていた課題とは、当初に打ち立てた目標がズレる、一部の部署でOKRの設定が難しく、社内に浸透しないなどです。そこで以下の柔軟な対応でOKRを運用しました。
・期間中でも必要に応じて達成目標や達成指標を変更する
・ルーティン業務をOKRの対象から外す
・1on1ミーティングなどを実施してOKRについての会話を増やす
OKRで社員の成長を促すことを重視した結果、社員が達成目標を意識し始め、主体的な行動に取り組めるようになった事例です。
OKRの真の目的は企業と社員の成長
OKRは従来の企業目標、部署目標の設定とは大きく異なります。企業として努力すれば達成できそうな目標を設定し、社員のモチベーションや自発的な行動を促すことに本当の目的があります。企業の利益を向上させるためのノルマとして考えるのではなく、生産性の高い社員へと成長させるためにOKRを活用しましょう。OKRは企業の目標を社員ひとりひとりまで共有でき、社内のコミュニケーションの活性化、エンゲージメントの高まりといったメリットも多いため、eラー二ングなどを積極的に利用しましょう。
まとめ
OKRとは企業の達成すべき目標を部署やチーム、社員個人にまで共有する管理方法の一種です。企業としての目標設定や求められる結果がOKRにより明確化できることから、社員全員が自社の目標と自分の目標、求められる結果を理解しやすいメリットがあります。ぜひ貴社でもOKRを取り入れてみてはいかがでしょうか。その際に目標設定の仕方を学んでおくことでOKRをスムーズに進めることができます。ユーキャンの目標設定講座なら短時間で適切な目標設定の仕方を学ぶことができます。ぜひお役立てください。