マネジメント職が資格を取得する必要性
マネジメントの資格は、管理スキルの向上につながるとして注目を集めています。マネジメントを主導する管理職の役割は「ヒト・モノ・カネ」を上手く使いながら、企業の業績向上を実現することです。
マネジメントに関する資格を取得すると、経営に関する専門知識の向上や、的確なマネジメントスキルアップが期待できます。経営を体系立てて学び、実践に活かすためにも資格取得は効率的な選択です。
そもそもマネジメントとは
マネジメントの概念を生み出したのは、アメリカの経営学者のピーター・ファーディナンド・ドラッカーです。ドラッカーは、マネジメントの定義を「組織に成果を上げさせるための道具・機能・機関、マネジャーとは組織の成果に責任をもつこと」と示しています。
マネジメントは「管理」や「経営」と訳されるのが一般的です。企業でいうマネジメントとは、組織運営や経営管理を指します。
※参考:マネジメントとは?期待される役割と能力の高め方を解説
マネジメント職に求められるスキル
マネジメント職には、主に次の5つのスキルが求められます。それぞれのスキルの概要と重要視される理由を解説します。
- ・リーダーシップ:設定した目標を達成するために組織を牽引するスキル
- ・ビジョニングスキル:理想の未来像に辿り着けるように戦略を練り実行するスキル
- ・問題解決スキル:課題に対する解決策を提示して行動するスキル
- ・コミュニケーションスキル:業務を円滑に進めるためにチームをまとめるスキル
- ・経営に関する知識:経営者目線でチームを正しい方向へ導くスキル
リーダーシップ
リーダーシップとは自ら目標を設定し、組織を率先して人を引っ張っていくスキルです。マネジメントでは考え方の違うメンバーをまとめるケースが多いため、マネジャーのリーダーシップが欠かせません。長期的な視点で物事を見据えつつも、一貫性のある思考が必要です。一方で、状況に応じて柔軟に対応できる姿勢もマネジャーには求められます。
※参考:リーダーシップとは?マネジメントとの違いやPM理論なども解説
ビジョニングスキル
ビジョニングスキルとは、実現したい未来像を明確にして戦略を練り、実行するためのスキルです。プロジェクトを実行する際には、組織のミッション、ビジョン、バリューをマネジャー自らの言葉で現場に落とし込み、目指す姿をメンバーと一体となって実現します。マネジメントでは、メンバーを牽引しながら結果が出るまでやり抜くスキルが必要です。
問題解決スキル
マネジャーには、課題を分析して解決策を発見し、行動する問題解決スキルが不可欠です。思い込みや先入観が強いと、見方が偏ってしまいます。客観的に問題を分析できないと、解決に時間がかかります。加えて、解決のためのアクションプランも曖昧になるでしょう。適切な方向に組織を導くためにも、マネジャーには創造的な発想が必要です。
コミュニケーションスキル
マネジメントにはチームをまとめる役割があります。円滑にやり取りをしながら仕事を進めるうえで、積極的なコミュニケーションが必要です。従業員の意見に耳を傾け、現状を理解しなければいけません。コミュニケーションスキルは、適材適所の人材配置でも有用です。従業員のモチベーションを上げながら、組織の能力を最大化させるために、大切なスキルといえます。
経営に関する知識
マネジャーには会計や法務など、経営に関する知識が必要です。マネジャーは通常業務で、経営に関する判断を迫られる場面が多くあります。率先してチームを導く役割をもつマネジャーに、経営知識が不足していると、間違った方向に組織を導きかねません。自信をもってプロジェクトの進行を判断するためにも、経営関連の知識は不可欠です。
マネジメントに役立つ資格一覧
マネジメントに役立つ資格は以下の8つです。自社に適した資格を見きわめ、マネジャーが取得に向けて行動できる環境を整備しましょう。
- 1,PMP:プロジェクトマネジメントの専門家であることを証明する国際資格
- 2,ビジネスマネジャー検定試験(R):マネジメントや経営学の基礎知識を総合的に身につけることを目的とした資格
- 3,プロジェクトマネージャ試験:ITシステム開発のプロジェクトにおけるマネジメントスキルがあることを証明する国家資格
- 4,メンタルヘルス・マネジメント(R)検定:従業員の心身の健康を管理するスキルがあることを証明する資格
- 5,公認モチベーション・マネジャー資格:自分や他者、組織のモチベーションを管理する能力を認定する資格
- 6,社会保険労務士:労務管理や社会保険の専門家として企業をマネジメントするための国家資格
- 7,中小企業診断士:中小企業に対して経営の支援やアドバイスを行うための国家資格
- 8,日商簿記検定:経営成績と財政状態を明らかにする技能を認定する資格
1.PMP(Project Management Professional)
PMPはアメリカのNPO法人「プロジェクトマネジメント協会」が認定している資格です。資格を取得すると、キャリアアップやスキルアップ、人的ネットワークを広げられるなどのメリットがあります。厳しい受験資格のある難易度の高い試験ですが、世界に通用するマネジメントスキルを身につけることが可能です。
2.ビジネスマネジャー検定試験(R)
ビジネスマネジャー検定試験は、東京商工会議所が主催しています。管理職として働くための土台作りのサポートを目的とした民間資格です。マネジメントの基礎知識が効率的に学べるため、管理職に必要なスキルや知識を育成する時間を圧縮できます。また、マネジャーへのキャリアアップを目指す方々にも役立つ資格です。
3.プロジェクトマネージャ試験
プロジェクトマネージャ試験は、情報処理推進機構(IPA)が主催する、情報システム開発プロジェクトの監督能力を認定する国家資格です。プロジェクト管理の責任者を対象とした試験で、受験年齢に制限はなく、実務経験の有無も問われません。試験に合格すると、マネジャーとしての知識や適性を証明できるため、年収アップやキャリアアップに役立ちます。
4.メンタルヘルス・マネジメント(R)検定
メンタルヘルス・マネジメント検定は、大阪商工会議所と施行商工会議所が主催する、民間資格です。近年、労働環境における従業員の精神面の管理が重要視されています。この資格は、ストレス社会のなかで従業員がどのように心身の健康を維持・増進できるか、活気ある職場づくりを実現するための、知識や対処方法が身につきます。
5.公認モチベーション・マネジャー資格
公認モチベーション・マネジャー資格は、東京未来大学と株式会社リンクアンドモチベーションが共同開発した、ビジネス資格です。資格は管理職向けと一般従業員向けがあり、モチベーションをマネジメントする方法を中心に学習できます。資格学習を通して、マネジメントの理論を学べると、受講生からの評判も高い資格です。
6.社会保険労務士
社会保険労務士は、労務管理や行政機関に提出する書類の作成ができる国家資格です。合格率は例年5%前後と、独学で取得するのは高いハードルがあります。資格を取得できると、労働関連の法律知識がある証明になります。労働分野の専門知識を深めたいマネジメント層は、社会保険労務士にチャレンジする意義があるでしょう。
7.中小企業診断士
中小企業診断士とは、経済学や財務・会計、経営理論、法務など、経営で必要な幅広い知識があることを証明する国家資格です。中小企業診断士の業務では、主に中小企業の現状を分析し、成長戦略をアドバイスします。自社の経営戦略に関わる業務を担当できる可能性があるため、資格を取得できるとキャリアアップが期待できるでしょう。
8.日商簿記検定
日商簿記検定とは、日本商工会議所と各地商工会議所が主催する公的資格です。管理職は、従業員をマネジメントしつつ、コスト削減と利益向上を目指す役割があります。簿記の知識があると、会計の知識だけでなく経営状況を読み解く分析力が身につきます。経営管理の知識の証明には、2級以上の取得を目指しましょう。
【職種別】取得を目指すべきマネジメント資格
職種ごとに、取得を目指すべきマネジメント資格は異なります。以下では4つの職種に分けて、マネジメント資格を解説します。
- ・営業職:営業に関するスキルを証明できる営業士
- ・技術職:プロジェクトマネジメントに有用なPMPやエンジニア系の上級資格となるITストラテジスト
- ・財務・経理:経営や事業に役立つ中小企業診断士や企業経営アドバイザー
- ・人事職:職務遂行に必要なスキルを証明するビジネスキャリア検定
営業職向けのマネジメント資格
営業職のマネジメントでは、マーケティング・セールスの専門家を証明する、民間資格の営業士がおすすめです。資格試験はレベルに応じて、3段階に区分されています。合格すると、営業に必要なマーケティングスキルや営業技術、生産・商品開発に関する知識・スキルの証明になります。
営業士上級の資格取得に向けた学習では、マネジメントを含む営業管理業務と、営業指導の知識が身につきます。
技術職向けのマネジメント資格
プロジェクトのマネジメントでは、PMPの資格が有効です。プロジェクトマネジメントの学習を通して、体系的に仕事を進める知識と能力が身につきます。また、エンジニア系の上級資格では、ITストラテジストも有用な資格です。ITストラテジストを取得すると、IT戦略の立案や実行、システムのリスクマネジメントなどで必要な知識がある証明になります。
財務・経理職向けのマネジメント資格
財務・経理職におすすめの資格は、中小企業診断士や企業経営アドバイザーです。企業経営アドバイザーの学習で得られる知識は、幅広いビジネスパーソンのコンサルティングや、経営・マーケティングの改善・サポートで役立ちます。経営や事業に密接に関係する資格であり、財務・経理職のマネジメントにも有用です。
人事職向けのマネジメント資格
人事職にはメンタルヘルス・マネジメント(R)検定試験以外に、ビジネスキャリア検定が役立ちます。ビジネスキャリア検定とは、職務遂行に必要なスキルを証明する資格です。学生や新人向けのBASIC級から、実務経験10年以上が対象の1級まで、等級があります。
キャリアによって、想定する受験対象者が違います。マネジメント層は、2級以上の資格取得を目指しましょう。
マネジメント資格を取得するメリット
マネジャーがマネジメント資格を取得するメリットは主に3つあります。以下にあげるポイントをふまえ、具体的に解説します。
- ・マネジメントに関する知識が身につく
- ・部下や上司からの信頼を得られる
- ・年収が増える・プロジェクトの責任者を任せられる
必要な知識が身につく
マネジメント資格を取得すると、マネジメントで必要な以下の5つのスキルを体系的に習得できます。
- ・目標設定
- ・チームビルディング
- ・プロジェクト統率
- ・コミュニケーション
- ・業務遂行
知識やスキルは普段の業務でも身につきますが、内容が偏る懸念があるでしょう。資格取得の学習では、マネジメントに必要な知識が網羅的に身につきます。
マネジャーとしての信頼性が高まる
マネジャーの業務には、必ずしも資格は必要ありません。しかし、マネジメントに関する確かな知識を有していることを証明するには、資格の取得が有効です。資格に裏付けられた知識があると、プロジェクトの進行中に何か問題が生じても、再現性の高い解決策を伝えられるでしょう。結果として、部下だけでなく上司からの信頼性も高まります。
年収アップやキャリアアップができる
企業によっては、マネジャーが資格を取得すると資格手当が支給され給料に加算されます。また、資格取得が昇進・昇格の条件になっている場合は、プロジェクトの責任者にキャリアアップできる可能性があります。
マネジメント資格取得者を増やすために企業ができること
マネジメント資格の取得者を増やすためには、資格取得を目指しやすい環境を企業側が整える必要があります。具体的には、以下の取り組みがおすすめです。
- ・自社の業務にマッチしている資格のアナウンス
- ・社内のコミュニケーション促進、従業員のモチベーション向上を狙った資格取得者の公表
- ・資格取得者への手当の支給や受験費用の会社負担
自社に必要なマネジメント資格を周知する
自社のどの業務でどのような資格が必要なのか、周知しましょう。従業員はそもそも、業務でどのような資格を活用できるか、理解できていない場合があります。自社に必要なマネジメント資格が分かると、従業員自身で不足しているスキルが明確になり、資格取得を目指すことが期待できます。資格取得後は従業員がその資格を活かせるような仕組み作りも重要です。
資格取得者を公表する
資格取得者を公表し、社内で共有しましょう。マネジメントに関する資格を有していると社内で認知されると、仕事を任される機会が増えます。資格取得で得た知識を従業員間で共有すると、コミュニケーションが活発化しやすくなります。取得した資格を名刺に記載すると、社外の人にもアピールできるため、従業員のモチベーションアップにも効果的です。
資格手当を支給する
資格手当の支給は、従業員のスキルアップを促す有効な手段です。資格手当を支給すると収入が増えるため、従業員のモチベーションが向上しやすくなります。資格手当の支給以外にも、受験費用を会社が負担する、資格の難易度によって手当額に差をつけるなどの方法も有効です。福利厚生の充実は、結果的に人材の確保や定着、質の向上につながります。
マネジメント資格の取得における注意点
マネジメント資格の取得を従業員に勧める際には、資格取得にかかる費用について、負担割合や支援制度などを明確にしましょう。従業員が資格取得に前向きになっている場合は、離職を検討しているケースもあるので、注視する必要があります。
また、手当たり次第に資格を取得すると、業務にどう資格を活かすのかが曖昧になりかねません。資格取得が目的になる事態を避けるためには、資格を活かせる自社の業務や、資格取得の難易度、目安の学習時間も合わせて伝えることが大切です。
まとめ
マネジメントに有効な資格は数多くありますが、職種によって取得すべき資格は異なります。従業員に取得をすすめる際には、資格取得の目的や適性などの理解が大切です。適切なマネジメント人材を育成できれば、全体のスキル向上や企業利益の最大化につながります。
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