マインドフルネスとは?
マインドフルネスとは、過去の出来事や未来への先入観などの雑念を排除し、現在の状況に意識を向けることで、五感の情報を正確に感じ取ることです。現在の感情や身体の状況に対する評価や善悪の判断を放棄し、ありのままを受け入れられる気付きの状態(アウェアネス)を、意図的に作り出します。
以下のような例は、マインドフルネスが実践できている状態です。
- ・お茶を飲むときにただ飲み干すのではなく、お茶の香りや温かさなどを感じ取りながら味わう
- ・トラブルがあった場合に、そのトラブルや要因となる人物に対する評価や判断は手放し、今の状況を受け入れる
実践的なマインドフルネスの例として、マサチューセッツ大学の医療センターで1979年に開発されたMBSR(マインドフルネスストレス緩和プログラム)が有名です。MBSRでは、8週間に渡りプログラムが実施され、学習能力や思いやりの活性化、ストレスの軽減などに効果的であったと科学的に実証されています。
またマインドフルネスは、仏教の瞑想がベースになっていると言われています。仏教における瞑想も雑念を振り払い、過去の後悔や未来への不安などの感情に左右されない精神を育むものです。マインドフルネスの実践方法の1つに、瞑想が取り入れられています。
マインドフルネスにおける瞑想も、自己認識力を高めて雑念を振り払うのが目的であり、集中力の向上や、精神的な安定に効果的です。過去の出来事や未来予想に対する不安やストレスから解放され、コンディションの安定やセルフマネジメント能力の向上に役立ちます。
自己認識力やセルフマネジメント能力はビジネスにも必要なスキルです。そのため、マインドフルネスはビジネスシーンでも注目されており、組織づくりや人材育成の領域に取り入れる企業も増えています。
ビジネスシーンでマインドフルネスが注目される理由
ビジネスシーンにおいて、マインドフルネスが注目される背景には、現代の企業が抱える問題に起因しています。日本は少子高齢化が進み、労働人口の減少が深刻化しています。人材不足でも業務を進めていくためには、業務の効率化や生産性向上が欠かせません。
業務の効率化や生産性の向上には、業務改善や従業員1人ひとりのパフォーマンス向上が求められます。しかし、働き方の多様化への対応や従業員の定着率アップのためのワークライフバランスの充実など、やるべきことが多くあるため、多くの企業が対応に苦戦しているのが実情です。
さらに、深刻な人材不足は、従業員のメンタルヘルスにも影響しています。1人に対する業務負担の増加によってストレスを抱えやすくなっていたり、採用の売り手市場化により仕事にやりがいを求める人材が増え、モチベーションを維持するのが難しくなっているためです。従業員のメンタルヘルスには、企業側の十分なケアが必要です。
このような課題を抱える企業が増えるなかで ビジネス界で広がったのが「Search Inside Yourself」(SIY)というマインドフルネスメソッドです。 もともと大手企業の社内研修用のメソッドだったものが社内外で評判を呼び、結果的に書籍化まで果たしました。
仕事と幸せはイコールではないという考えから生まれたマインドフルネスメソッドは、自身が持つやる気の根源を見つめなおせるプログラムになっており、ビジネスシーンに新しい気付きを与えました。
さらに、マインドフルネスに関する近年の研究結果から、業務効率化やセルフマネジメント能力の向上のほか、プレゼン力、ストレス耐性、周囲への気配り力、コミュニケーション能力など、ビジネスシーンで役立つスキルの向上にも効果的とされています。
そのため現在では、複数の大手企業をはじめ、現場の運営で悩みを抱える企業からも注目され、マインドフルネスに関する取り組みが実施されるようになってきています。
ビジネスシーンにおけるマインドフルネスのメリット
ビジネスシーンでも活用されるマインドフルネスは、特に以下のようなメリットが注目されています。
- ・業務の効率が上がる
- ・人間関係を良好にしやすい
- ・アイデアが浮かびやすくなる
- ・記憶力が上がる
- ・ストレス耐性が高まる
ここからは、それぞれのメリットについて解説していきます。
業務の効率が上がる
人間が集中して作業できる時間は、数秒程度であるため、集中を継続するのは困難です。さらに複数の作業を並行して行うと集中力はより途切れやすくなる傾向にあるため、基本的にマルチタスクは向いていません。
しかし、 集中力が下がったとしてもマインドフルネスを取り入れれば、今の思考を整理して落ち着いた心持ちになりやすいため、再び集中状態に入りやすくなります。そのため、業務効率が上がり、スピード感のある業務遂行につながります。
人間関係を良好にしやすい
不安などの感情に支配されていては、自分以外への意識が希薄になってしまいますが、マインドフルネスによって今の状況に集中できるようになれば、周囲への気配りもできるようになります。
さらに、雑念を振り張って穏やかな状態を維持できるようになるほか、コミュニケーション能力も向上します。そのため、周囲との関係が良好になりやすく、ビジネスシーンにおいてもスムーズな人間関係を構築しやすくなるでしょう。
アイデアが浮かびやすくなる
マインドフルネスによって、思考が整理された状態になると、感情の高ぶりが抑えられ、視野や思考の範囲が広くなるため、アイデアが浮かびやすくなります。
後悔や不安、ストレスなど、脳に負担がかかった状態では、良いアイデアは浮かびません。今現在に集中できるように、マインドフルネスによって脳内を整理すれば、創造性の向上に役立ちます。
記憶力が上がる
マインドフルネスでは、海馬の増大や短期記憶を処理する能力の活性化が期待できるため、記憶力がアップします。
ビジネスシーンではさまざまな場面で記憶力は重要です。業界に関する最新の情報や業務に関する情報などが頭に入った状態であれば、通常業務や商談などをスムーズに進めやすくなるでしょう。
ストレス耐性が高まる
マインドフルネスは、思考を整理して余計なことを考えないようにするため、落ち着いた精神状態を保ちやすくなります。怒りや焦りといったマイナスの感情に振り回されにくくなるため、心身ともに良い状態を維持できるでしょう。
また、トラブルにあった場合でも、余裕をもった行動や冷静な対処ができるようになります。
マインドフルネスのデメリット
マインドフルネスは、効果的に実施すればビジネスシーンでも役立つメリットが多くありますが、デメリットが生じるケースもあるので注意が必要です。
ここからは、マインドフルネスで考えられるデメリットについて解説します。
ストレスや不安が増加する場合がある
マインドフルネスは、ストレス耐性に効果が期待できる反面、大きなストレスや不安を抱えている場合は、それらの要素と向き合い、改めて意識してしまう可能性があります。なかにはフラッシュバックを起こしたり、気分が悪くなったりするケースもあります。
特に、PTSDやうつなど精神的な疾患を抱えている場合は、症状が悪化してしまう可能性があるため注意が必要です。精神疾患のある人や、ストレスや不安により何らかの症状がある人は、マインドフルネスを短時間やプロの指導の上で慎重に行うか、避けたほうが良いでしょう。
疲労が溜まる可能性がある
マインドフルネスは、すぐに効果が出るものではなく時間をかけて継続的に行う必要があるため、疲労が溜まる可能性があります。 また、自己流でマインドフルネスを実施し、かえってリラックスできずに逆効果になるケースもあります。
マインドフルネスの実施自体が目的ではないため、義務のように取り組むのではなく、気軽に取り組む意識が大切です。
マインドフルネスのやり方
マインドフルネス瞑想とは?
マインドフルネス瞑想とは、マインドフルネスと瞑想が組み合わさった造語です。マインドフルネスは、前述した通り、今の瞬間に意識を向ける心理的技法を指し、瞑想は心を落ち着かせ、集中できるように無心になるための仏教的な行いです。
マインドフルネスに不可欠な、自分の心と向き合い整理する機会として、瞑想は最適です。両者の目的も重なっているため、マインドフルネスのやり方として広まっています。
2つの瞑想方法
マインドフルネス瞑想には、以下2つの代表的な方法があります。
- ・①呼吸に集中する瞑想
- ・②ボディスキャンによる瞑想
それぞれの方法について詳しくは、以下で解説します。
①呼吸に集中する瞑想
マインドフルネスの瞑想方法の1つ目は、呼吸に集中する方法です。手順は以下の表を参考にしてください。
手順1 | 静かな場所で姿勢正しく座る | ・姿勢正しく座る ・イスに座る場合は、座骨を座面につけて、背もたれは使わず頭が天井に引っ張られる感覚で座ると良い ・仮眠室などできるだけ静かな場所での実施がおすすめ |
手順2 | 深呼吸する | ・背筋を伸ばして座ったら、両手を太ももに置き、目をつむって大きく5回深呼吸する ・無理に呼吸するのではなく、自然に深く呼吸するイメージ |
手順3 | 自然な呼吸を続ける | ・深呼吸が終わったあとも自然な呼吸を続ける ・呼吸による空気の流れを意識する |
手順4 | 意識を呼吸に集中させる | ・自然な呼吸に意識を向ける ・呼吸以外のことを考えないようにする ・正しく呼吸できているか気になる、外部の音や動きが気になるなど、集中できない場合は、呼吸に集中するよう意識する |
手順5 | 意識を自分に向ける | ・呼吸に集中した状態を、5~10分などあらかじめ決めた時間まで継続したら、目を開けて意識を自然に戻していく ・時間を決めずにやると、いつ終わらせるかに意識が向いてしまうため、タイマーなどであらかじめ決めた時間をセットしておく |
②ボディスキャンによる瞑想
マインドフルネス瞑想の方法として、ボディスキャンも代表的です。ボディスキャンでは、自分の身体と向き合い、心との調和を図ります。 ボディスキャンによる瞑想方法は、以下の手順を参考にしてください。
手順1 | 体勢を整える | ・足を肩幅に開き、力を抜いて立つ ・イスに座る場合は、背筋を伸ばしてゆったりと座る |
手順2 | 軽く目を閉じ身体に集中する | ・目を軽く閉じる 心地いいと感じる自然な呼吸をする ・普段は気付かない身体の感覚を探るために、身体の部位を光で照らしていくイメージ ・晴れた日であれば太陽光が当たる窓辺で行うなど、明るい場所でやる ・夜であれば、懐中電灯で照らしていくイメージ |
手順3 | 頭部から意識を集中させていく | ・まずは頭部から感覚を確認していく ・光を表面や内部に行き届かせ、違和感がないか確認していく ・頭の先から髪の毛の揺れ、頭皮の感覚、脳の状態など頭部を隅々まで感覚を察知する |
手順4 | 不快感は呼吸で吐き出す | ・頭皮のかゆみ、頭の重み、顔の筋肉のこわばり、歯の痛みなど不快感や違和感を見つける ・不快感や違和感を見つけたら、呼気で身体の外に吐き出すイメージを繰り返す |
手順5 | 全身の感覚を確認する | ・頭部から順番に全身の感覚を確認する ・両目から鼻、頬、口、顎、首、両肩、胸部、背中、腹部、臀部、太もも、ふくらはぎ、足首、足の裏の順で、不快感を呼吸で外に放出するイメージを繰り返し ・全身の不快感や違和感が緩和したか確認する ・まとまった時間が取れない場合は、上半身のみ、下半身のみなど部位を限定して行っても良い |
マインドフルネスをする際の注意点
マインドフルネスを実施する場合は、以下の3点の注意が必要です。
- ・目的を持って行う
- ・意識を集中させる
- ・瞑想の場合は眠らないようにする
ここからは、それぞれの注意点について解説します。
目的を持って行う
マインドフルネスは、目的を明確にしておくと効果的に実施できます。例えば、思考を整理したい、ストレスや不安を解消したいなど、マインドフルネスを何のために実施するのか把握しておきましょう。
目的意識がはっきりしていないと、マインドフルネス自体が目的になってしまい、マインドフルネスの効果を発揮できない可能性があります。
意識を集中させる
マインドフルネスを行う際は、無駄な雑念を振り払い、意識を集中させて実施するのが基本です。意識が分散してしまったり、別の物事を考えたりすると、マインドフルネスの効果が得られません。時間を無駄にしないためにも、できるだけ意識を集中させられるように落ち着いて臨みましょう。
瞑想の場合は眠らないようにする
マインドフルネス瞑想を実施する場合、目を閉じて意識を集中させるため、リラックスした状態になりやすく、眠気を感じてしまう可能性があります。
眠ってしまうと意識が集中できないため、マインドフルネスになりません。また、その後の睡眠に影響が出てしまう可能性があるため、眠らないように努める必要があります。
マインドフルネスの実践方法
マインドフルネスは、さまざまな手法を活用して実践できます。よく例として挙げられるのは瞑想ですが、ジャーナリングやマインドフルイーティングなども効果的です。
ここからは、マインドフルネスの代表的な3つの方法について解説します。
瞑想
瞑想では、呼吸や身体の感覚に意識を集め、雑念を振り払います。前述した通り、呼吸に意識を集中させる方法と、身体の感覚を確認するボディスキャンによって雑念を取り払う方法の2つが代表的です。
静かで落ち着ける空間と、自分の身体さえあればいつでも実施できるため、取り入れやすい方法です。
ジャーナリング
ジャーナリングとは、5~10分程度の時間を設定し、頭に浮かんだことを思いついた通りに書き出していくマインドフルネスの方法です。
ジャーナリングは、別名「脳の排水」とも呼ばれており、書き出した内容をもとに自分を客観視できたり、自分自身への理解が深まることで不安やストレスを軽減できたりします。
ジャーナリングは、以下のポイントに注意して実施すると良いでしょう。
- ・テーマと時間を設定し、時間内は思いついたことを書き続ける
- ・思考よりも書くことに集中する
- ・集中しやすいようにプライベート空間で実施する
- ・余計なことを書かず、事実やそのままの気持ちを書く
- ・誤字や脱字は気にしない
マインドフルイーティング
マインドフルイーティングとは、食事する際に、ゆっくり時間をかけて意識を集中させる方法です。レーズンを1粒食べ、5分かけてゆっくり味わうレーズン・エクササイズという方法もあります。
マインドフルイーティングは、以下のポイントに注意して実施すると良いでしょう。
- ・テレビはつけず、会話もしない
- ・食材の形や食感を意識しながら食べる
- ・1回の食事に30分から1時間ほどかけ、集中しながら食べる
マインドフルネスを導入した企業
マインドフルネスは、多くの企業に導入され、効果を出しています。企業によってさまざまな方法で取り入れられているので、自社に合った方法を検討するのに役立つでしょう。
ここからは、マインドフルネスを導入している4つの企業を例に挙げて解説します。
アメリカの大手IT企業G
アメリカの大手IT企業Gは、前述したサーチ・インサイド・ユアセルフ(SIY)を開発し、会社設立9年目から社内で採用しています。
従業員が自主的に参加するプログラムとして、瞑想などを含む1日30分のサーチ・インサイド・ユアセルフ(SIY)が継続的に実施されています。その結果、参加した従業員の多くが生産性向上を実感し、評判は社外にも広まりました。
アメリカの多国籍テクノロジー企業A
アメリカの多国籍テクノロジー企業Aでは、マインドフルネスの効果に着目し、従業員に瞑想を推奨しています。
就業時間の内30分間を瞑想に使えるようにルールが規定されるなど、誰でも気軽に実施できる環境を整えています。また、社内に瞑想ルームを設置し、瞑想に使用したり、ヨガの講習を開催したりとマインドフルネスに活用しています。
大手インターネット企業Y
大手インターネット企業Yは、アメリカの大手IT企業Gの「サーチ・インサイド・ユアセルフ(SIY)」を参考にしたプログラムを実施しています。
自身のことを客観視できるメタ認知の習得や、メンタルヘルスや生産性の向上、その人が持つ力を最大限発揮させるための指標であるプレゼンティズムを高めるなどが目的です。マインドフルネスを実施した結果、多くの従業員が能力を発揮しやすい状態になっています。
大手IT企業M
大手IT企業Mは、従業員が部活動として始めたことがきっかけで、マインドフルネスが実施されるようになりました。
実際に効果を実感したという声が多く、現在ではプロの講師を招いた社内研修として取り入れられています。プログラムでは、マインドフルネスについての講義や、エクササイズが実施されています。
まとめ
マインドフルネスは、日常生活はもちろん、ビジネスシーンでも効果的です。 マインドフルネスによって今に集中できるように心身を整えられれば、コンディションがアップし、業務効率化が図れます。
さまざまなストレスを抱える現代では、マインドフルネスなどを活用したメンタルヘルスのケアが、企業にとって欠かせないものとなっています。
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従業員のストレスマネジメント向上を図りたい企業の方は、ぜひご活用ください。