IT教育のメリットや日本の現状とは? 海外の事例やICTとの違いも解説

  • 公開日:2023.04.24

    更新日:2023.04.24


    IT人材を確保するために、教育現場では、IT技術を取り入れる必要性が求められています。この記事では、IT教育を取り入れたいと考える人事担当者に向けて、IT教育のメリットやデメリット、導入の目的について解説します。海外と日本のIT教育の違いについても述べるので、取り入れる際の参考にしてください。

IT教育とは

IT教育とは、IT技術を教育に取り入れ、教育のIT化をすることです。ITを学ぶ教育と、ITを活用して効率的に学ぶ教育の2つの意味があります。ITには、インターネット通信とコンピューターを駆使する情報技術の意味があります。

※参考:IT資格に関してはこちら

IT教育が注目を浴びる背景

IT教育は、セキュリティやAI、ビッグデータを扱える人材の確保が必要なことから、注目が集まっています。海外ではIT技術の発展により、作業の効率化や生産性の向上を目的として、あらゆる分野でITの導入が進んでいます。しかし、日本ではIT教育が進まず、IT知識の高い人材が確保できていません。

ICT教育とは

ICT教育とは、インターネットなどの情報通信技術を活用した教育手法です。
ICT(Information and Communication Technology)は、情報通信技術という意味で、情報通信技術そのものだけではなく、インターネットを利用した産業やサービス、コミュニケーションなどを総称して使われる場合が多い言葉です。
ICT教育では、IT機器を「使用する」ことより、「何をするか」に重きが置かれます。

IT教育とICT教育の違い

IT教育とICT教育の違いは、コミュニケーションの重要性に重点を置くか否かです。ITは、情報技術そのものを指し、パソコンのハードウェアやインターネットのインフラなどが含まれます。IとTの間に「Communication(通信、伝達)」が入るICT教育では、ITよりもコミュニケーションが重要です。

しかし、2つの言葉の境界線は曖昧で、海外ではITの意味も含めてICTが多用されており、日本でもICTを使う機会が増えています。

IT教育の目的

IT教育の目的は以下2つです。

  • ・ITを扱える人材を育成するため
  • ・教育の効率化
それぞれ詳しく解説します。

ITを扱える人材を育成するため

IT教育は、国民全体のITリテラシーの向上と将来的なIT人材の育成、ミドル人材のスキル転換が目的で実施されます。経済産業省の発表では、2020年に37万人、2030年には約79万人のIT人材が不足するというデータがあり、IT人材の拡充は欠かせません。プログラミング教育の必修化により、教育現場の底上げや工学系大学の進学希望者の増加が期待されます。

※参考:AI人材育成の取組|経済産業省

教育の効率化

日本におけるIT教育の現状を、社会分野と教育分野の2つに分けて解説します。

  • ・社会でのIT教育
  • ・学校でのIT教育

社会でのIT教育

新型コロナウィルスの感染拡大により、DX(デジタルトランスフォーメーション)が加速し、さまざま場面でIT(情報技術)の利用が進んでいます。ITツールを検討し、導入、扱うためにはITの知識は欠かせません。情報技術者を雇う動きがあり、ITエンジニア以外にも、情報システムに関する知識が求められています。社会人向けのプログラミングスクールや、IT留学ができる専門学校もあります。

学校でのIT教育

令和2年度より、義務教育でのプログラミング教育が必須科目になりました。文部科学省の指導要綱では、プログラミング教育について以下のように示しています。

  • ・情報活用能力を、言語能力と同様に、学習の基盤となる資質・能力と位置付け
  • ・学校のICT環境整備とICTを活用した学習活動の充実に配慮
中学校では、技術・家庭科(技術分野)の内容の充実により、プログラミング教育の充実が期待されています。

※参考:新学習指導要領のポイント|文部科学省

日本におけるIT教育の取り組み

IT教育は、授業や教員の業務においてどのように活用を求められているのでしょうか。それぞれの取り組みについて解説します。

授業における取り組み

教育系アプリの開発やタブレット端末の配布、電子黒板の導入が行われています。2020年から、小学校でのプログラミングが必修化されました。「知識及び技能」「思考力、判断力、表現力等」「学びに向かう力、人間性等」を、発達段階に沿って演習形式で育成します。指導案「みらプロ」を実施し、企業と連携して、プログラミングが社会でいかに活用されているかに焦点を当てた、総合的な学習にも取り組んでいます。

※参考:プログラミング教育とは?

教員の業務における取り組み

教員が使用するパソコンに「統合型公務支援システム」を取り入れて、管理業務の効率化を目指しています。教員の過重労働が問題になっている日本では、教員の負担軽減への取り組みが欠かせません。

業務を効率化するシステムの導入やICT機器の活用により、名簿管理や出席簿、生徒や児童の成績処理や通知表の管理や記録、指導要綱など、元来は手書きで作業していた業務の簡略化が進められています。

海外におけるIT教育の取り組み

海外におけるIT教育の取り組みを、イギリス、アメリカ、エストニア、オーストラリアの各国の事例をあげて解説します。

イギリスでのIT教育の取り組み

イギリスは、早くからIT教育に着目していた国の1つです。1995年にはすでに「IT」の科目を学校教育に取り入れました。1999年には「ICT(Information and Communications Technology)」を導入しています。2014年には、小学校の教科として「コンピューターサイエンス」「情報技術」「デジタルリテラシー」を学べる「Computing」の教科が追加されました。

イギリスでは、IT教育のレベルを上げることによるアルゴリズムへの理解や論理的思考力の向上、想像力の強化が期待されています。

アメリカでのIT教育の取り組み

IT大国アメリカでは、民間と行政が協力して積極的なIT教育に取り組んでいます。プログラミング教育を全米に普及させるために作られたサイト「Code.org」では、教育用のプログラミング環境「Code Studio」を提供しています。しかし、州の方針で教育が左右されるため、予算削減でプログラミング教育コースを提供できない学校もあります。

エストニアでのIT教育の取り組み

エストニアは、政府主導でデジタル化が進む、世界でも有数のIT先進国です。2012年に発足した政府関連組織「Tiger Leap基金」が主導となり、プログラミング教育を推し進めてきました。エストニアにおけるプログラミング教育の導入は、学校や指導者の独自判断で進められています。世界でも唯一、国政選挙を電子投票できる国としても知られています。

7才~15才のベーシックスクールでは、教科「Informatics」のなかでITに関する学習を実施しています。16歳から18歳までのアッパーセカンダリースクールでは、ITを活用して課題を解決し、作業をより効果的に進めることが目標です。

オーストラリアでのIT教育の取り組み

オーストラリアでは、5歳からIT教育が必須項目となっており、パソコンを利用した授業が実施されています。2016年からは、プログラミングやコンピュータサイエンスの授業が小学校で必修化されました。授業では学年により以下の項目を学びます。

  • ・1・2年生はプログラミングの概念
  • ・3~6年生がビジュアル言語のプログラミング
  • ・7~8年生がテキストベースの言語プログラミング
  • ・9・10年生がオブジェクト指向プログラミング

IT教育を取り入れるメリット

IT教育を取り入れるメリットは以下です。

  • ・視覚からも学べる
  • ・学習意欲が向上する
  • ・ペーパーレスによる荷物の軽量化
  • ・教員の負担軽減
  • ・デジタル時代に対応できる
  • ・情報リテラシーの向上に役立つ
それぞれ詳しく解説します。

視覚からも学べる

タブレット端末は、黒板や教科書よりも文字や図、表などの色彩が豊富なうえ、精密な図や写真を見て視覚的に学べるメリットがあります。アニメーションや音声などを併せて利用できるので、理解が深くなることにもつながります。文字の読み上げや拡大機能があるので、学習障害や視覚障害のある生徒の学びにも活かせるでしょう。

学習意欲が向上する

児童や生徒が受け身ではなく、主体的に学習できるアクティブラーニングに転換でき、学習意欲が向上します。アクティブラーニングは能動的学習を指し、活発的に学習に向かうように設定された学習方法です。

タブレット端末を使えば、児童や生徒と教員、双方からの発信が可能になるため、自発的なコミュニケーションにつながります。直接書き込んだものを送信できるタブレット端末の機能を使えば、教員が児童や生徒1人ひとりの習熟度も把握できます。

ペーパーレスによる荷物の軽量化

IT教育により、ペーパーレス化が進むと教科書や通学時の荷物の軽量化につながります。教科書やノートなどの紙類は重くてかさばるため、特に低学年の児童にとっては体の負担になりかねません。また、ペーパーレス化は通学時の負担だけでなく、教科書やノート、プリントを無くしたり忘れたりすることも軽減します。

教員の負担軽減

ITを使えば、教員が授業を準備したり、授業中に板書をしたりする手間が軽減できます。教員にとって、授業前の教科資料の作成やプリントの用意などは、日々の業務のなかで大きなウエイトを占めます。IT教育が進み、デジタル教材での授業が可能になれば資料を追加編集したり、児童や生徒へ共有したりすることも容易に進められます。

デジタル時代に対応できる

IT教育によりデジタル機器が身近にあれば、デジタル時代への対応も可能です。タブレット端末を操作する機会を増やしたり、インターネットを活用したりして、必要な情報を自発的に取得するスキルを身につける訓練を教育現場で実践できます。デジタル機械を使いこなせれば、情報処理能力も上がり、ITへのストレスを感じずに生活できるでしょう。

情報リテラシーの向上に役立つ

IT教育を進めてコンピューターなど専門技術を身につければ、複雑化する現代社会において、情報リテラシーの向上に役立ちます。情報リテラシーが高まれば、フェイクニュースやデマに騙されにくくなるため、住所や電話番号などの個人情報、クレジットカード番号やパスワードなどの流出が防げるでしょう。

不確かな情報がはびこる現代では、適切な情報を見極めて活用する能力が求められています。

IT教育のデメリット

IT教育のデメリットは以下の3つです。

  • ・教員の知識によっては負担が増える
  • ・教育格差につながる
  • ・教材の導入費用がかかる
それぞれ詳しく解説します。

教員の知識によっては負担が増える

パソコンに不慣れな教員にとっては、IT教育は慣れるまで大きな負担となります。また、機器の管理などは新たな業務となり、教員の負担となることも考えられます。デジタル化にあたり、教員にも学ぶ機会が確保されれば、教員間の理解度のばらつき解消にもつながります。

教育格差につながる

教員がしっかりとIT教育について把握できていない場合、教育格差につながる恐れが生じます。ネットワーク環境は、家庭や自治体により差があります。環境が整っていなければ、映像が途中で止まったり、必要な動画やデータを送信するのに時間がかかったりして、授業が大幅に遅れる可能性があるでしょう。また、子どもが見るには不適切な情報もあります。使い方について、ルールを定め、トラブルに巻き込まれないよう対策を取ることが大切です。

教材の導入費用がかかる

IT教育には、教材の導入やメンテナンスなどの運用コストがかかります。教員によるサポートやセキュリティ強化のための教育コストも必要です。「教育のICT化に向けた環境整備5カ年計画(2018~2022年度)」では、教育用コンピュータや無線LANの整備などに1,805億円が投じられました。なお、学校のICT環境整備を持続的・継続的に進めていくことは重要であり、当該計画期間を令和6年度まで2年間延長することとしています。

※参考:教育のICT化に向けた環境整備計画(延長)|文部科学省

日本でのIT教育の現状

日本はICT環境の整備が途上のため、課題や学級での活動に活用ができていない現状があります。2018年に「OECD国際教員指導環境調査(TALIS)」が実施されました。インターネット設備が不十分だと感じた生徒の割合は、海外では22.9%であったのに対して、日本の中学生では27%がインターネット設備が十分ではないと回答しました。

※参考:OECD国際教員指導環境調査(TALIS)2018報告書|文部科学省

まとめ

IT教育には、ペーパーレス化により教員や児童、生徒の負担が減るだけでなく、情報リテラシーが向上したり、デジタル時代に適応できたりするメリットがあります。IT教育の充実により、工業系大学への進学者やビッグデータを扱える人材の増加が期待されています。

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