人事制度とは何か?
企業において人事制度とは人材の募集・採用、労務管理、人事異動と考課、人材育成、雇用契約などの幅広い領域を意味します。しかし組織に属する社員にとって重要な「従業員の処遇を決定する制度」という意味で使われることが多く、その場合、等級制度・評価制度・賃金制度(報酬制度)の3つの柱に分けることができます。その中でも組織に属する社員にとって重要になるのが、等級制度・評価制度・賃金制度(報酬制度)です。
等級制度は社員を能力や階層などによって等級で分け、それに応じて権限や給与を決定する仕組みです。評価制度は従業員の働きぶりや成果を評価し、評価に応じて等級や賃金に反映される仕組みです。賃金制度(報酬制度)は社員の等級や働きぶりに応じて給与や賞与、インセンティブなどを支給する仕組みです。
等級制度
等級制度とは社員を能力、職種、階層、役割などで振り分け、それに応じて序列を設ける仕組みです。会社における主任や課長、部長、マネージャーなどの呼称は等級制度で決まります。また社員の等級に応じて給与や権限、序列、責任の範囲なども決められます。
等級制度は業種や業界によって主に次の3つに分けられます。
・職能資格制度
・職務等級制度
・役割等級制度
1つ目の職能資格制度は、業務を遂行するための資格や個人の能力に応じて、社員の等級を決定する仕組みです。昇給・昇格などの基準をあらかじめ設定しておき、基準を満たした社員には昇給・昇格といった対応が行われます。
2つ目の職務等級制度は、社員の働きや成果をデータとして分析し、評価項目に合わせて点数化する仕組みです。職種や部署に応じて明確な基準を設けやすく、社員の働きを評価に結びつけやすいというメリットがあります。
3つ目の役割等級制度は、社員それぞれが役割と目標を決定し、目標に対してどれだけの成果を上げられたかで評価する仕組みです。個人の目標が達成できた場合は高い評価が得られ、評価に応じて昇給や昇格も決定されます。
職能資格制度は医療業界のような専門資格を必要とする業界で、職務等級制度と役割等級制度は一般的な企業で多くみられる等級制度です。
評価制度
評価制度は3ヵ月・6ヵ月・1年といった一定期間のうちに、社員がどのような仕事に取り組み、成果を出せたかで評価する仕組みです。評価基準は企業によってさまざまですが、評価項目と基準を明示することにより、社員の勤務態度や行動を一定程度コントロールできるメリットがあります。また社員側は評価項目と基準に従って行動することで高い評価を得られるため、仕事に対するモチベーションを高められます。
日本企業で採用されている主な評価制度は次の4つです。
・能力評価
・職務評価
・役割評価
・成果評価
1つ目の能力評価は、主に社員の職務遂行能力を評価する仕組みです。能力の評価には職能要件や職能資格基準などが用いられます。
2つ目の職務評価は、職務に応じて作業内容や責任などが設定されており、その内容に応じて評価される仕組みです。
3つ目の役割評価は、社員の役割を基準に評価する仕組みです。評価は主に役職に応じた成果、企業への貢献度に応じて決まります。
4つ目の成果評価は名前のとおり、成果に応じて評価する仕組みです。成果主義を基本にしており、社員一人ひとりの成果に重点を置いて評価を行います。
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賃金制度(報酬制度)
賃金制度は社員の給与や賞与、インセンティブの支給といった報酬の仕組みです。賃金制度は主に次の項目で構成されています。
・基本給
・手当
・賞与
・退職金
・インセンティブ
また、これらの他にも福利厚生なども報酬制度の一部とされています。日本の場合、基本給は年齢や勤続年数、学歴で決まる年功序列制が採用されてきました。しかし、近年は成果に応じて昇給・昇格が決まる成果主義を導入する企業も増えています。手当に関しては等級や役職、資格、住宅、家族などさまざまなものがあります。ただし 会社の規則によって手当の内容も異なるため、会社によって支給条件も金額も違う点には注意すべきです。また賞与については労働基準法に明確な基準はないため、基本的には企業側で自由に支給額を決定できます。
人事制度が支える人的資本に関する最新動向
企業経営において、近年は人材を資産として考える人的資本経営が重要視されています。人的資本経営は組織の人材を企業資産と捉え、その能力やモチベーションを高めて最大限に活用し、生産性の向上や成長につなげる経営手法のことです。
従来の経営の考え方では、人材はコストに結びついており、コスト削減の策として人材を減らすことが重視されてきました。しかし人的資本経営では人材は企業を支える柱であり、知識と経験を積み重ねて成長を促すための投資対象と捉えられます。社員がもつ経験やノウハウは大事な資産であり、企業にとっては市場で優位に立つための大切な資産です。また、日本においては経済産業省から人的資本の情報開示義務が課されました。その他の省庁でも人的資本可視化指針や男女賃金の差異の公表義務化、育児休業等の取得割合の公表義務化など、人的資本の情報開示を促す施策が打ち出されています。これらは大企業だけでなく、日本の99%を占める中小企業にも大きな影響を与えています。
今後はますます人材を大切にする企業、人材育成に力を入れている企業は生き残りやすく、ブラック企業は淘汰される時代になるでしょう。企業を支える経営資源である「ヒト」を大切にするとともに、これまで以上に各企業の努力が求められる社会になってきたといえます。
ジョブ型の人材マネジメントとは何か?
近年の企業の採用や人事で多く見られるのが「ジョブ型」と呼ばれるものです。ジョブ型とは職務や職能を中心として人材の採用や、人事配置を決定することを指します。そしてジョブ型人材マネジメントは、社員の職務を中心に配置を行い、業務管理を行うことを意味します。ジョブ型人材マネジメントと従来のシステムとの違いや、主な目的は何かをみていきましょう。
従来の雇用システムとの違い
ジョブ型人材マネジメントの特徴は、個人の適性や能力に応じて、最適な職種・部署に配置する点です。従来の雇用システム(メンバーシップ型)では社員の適性や能力は評価しても、それに応じた人材の配置などはあまり考慮されてきませんでした。そのため、人とのコミュニケーションスキルが低い社員に営業職を任せたり、PC操作や経理の知識が少ない人に事務職をやらせたりするミスマッチが起こっていました。一方、 ジョブ型人材マネジメントでは適材適所の配置が重要になるため、社員一人ひとりがパフォーマンスを発揮できる場所に配置されます。もともと適性があり、知識も豊富な分野を担当することから、即戦力として高いパフォーマンスを発揮しやすくなります。また職能とのミスマッチを防止できるため、モチベーションの向上と離職率の低減にもつながるでしょう。それだけでなく、高いスキルを持つ人材が配置されることで、チーム全体のパフォーマンス向上につながる点も注目すべきです。社員の業務負担が軽減され、仕事にも余裕ができることで、チーム内のコミュニケーションも活性化できます。
ジョブ型の人材マネジメントの目的
ジョブ型人材マネジメントは企業・社員双方にメリットがありますが、主な目的は役割別のマネジメントです。従来の雇用システムでは能力や適性は意識せず、配置した部署での業務に必要なスキルを覚えるのが一般的でした。しかし従来の方法では成長までに時間がかかることに加え、職務と役割別のマネジメントという区別はされていません。一方のジョブ型人材マネジメントの場合、職務と役割を明確にしたマネジメントにより、人材育成と組織活性化に効果的です。
従来の雇用システムでは社員全員が幅広い役割をこなすことに重点を置き、結果として役割や職務が曖昧になりがちでした。ジョブ型人材マネジメントでは個々の役割・職務を明確化することで、特定の分野に強い人材を育てることに特化しています。広く浅い知識と経験を持つ人材よりも、狭く深い知識と経験を持つ人材のほうが企業の生産性やイノベーションに貢献する可能性は高まります。
人事制度の設計手順
企業の人事制度を設計したり、見直しを行ったりすることを想定し、具体的な設計手順を紹介します。
企業理念・ビジョンの確認
人事制度を設計するには、企業理念・ビジョンへの理解が不可欠です。そのため自社の企業理念・ビジョンは何かを確認し、社員をどのように考えているかという意思を汲み取る必要があります。人事についてどのように規定しているか、社員向けのメッセージや社訓は特に重要です。 社員の人事についての考え方は人事制度設計にも反映し、企業理念・ビジョンに合致する内容にすることを基本にしましょう。
現状分析と課題の発見
企業理念の確認ができたら、次は企業の現状分析と課題の発見に入ります。社員にヒアリングを行い、企業理念と社員の意識とのズレ、現状の制度への不満や改善点などを確認します。ヒアリングの内容は業務内容や組織の構造、従業員満足度、賃金制度、評価制度など幅広くすることがポイントです。そしてヒアリングで得た情報を参考に、企業理念とも擦り合わせながら人事制度の設計を進めます。
等級制度の設計
発見した課題に基づいて、等級制度の見直し・再設計も行います。等級制度は企業内の社員の階層や役割を定める重要な制度ですから、職能資格・職務等級・役割等級を含めて自社独自のものを決定します。
例えば特定の資格を持つ人材しか就けない役割を設けたり、役職や資格に応じて等級を上げたりといった基準を設定しましょう。
評価制度の設計
等級制度で資格や役職といった要件を設定したら、次に評価基準を決定します。評価基準を設計する際は、どのような評価項目を設け、評価基準と点数をどのようにするかが重要です。より会社の企業理念に相応しい評価項目と基準を設定することで、社員のエンゲージメント向上やキャリア開発が促進できます。また企業が社員にどのような成長を求めるか、望ましい組織へ変化するために必要な評価制度とは何かを踏まえて設計することが大切です。
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賃金制度(報酬制度)の設計
賃金制度の設計では、等級制度と評価制度に基づいて、適正な給与・報酬の仕組みを提供することが重要です。等級が上がることでメリットが大きくなり、給与や権限も相応しいものであるのがよいでしょう。ただし等級が低くても社員が一定の生活水準を保てるように、給与額や賞与、手当などを細かく設定することも欠かせません。人件費が経営を圧迫しないように、経営層と相談しながら検討することが望ましいです。
移行後のシミュレーション・試験導入
新しい人事制度を設計しても、いきなり導入するとトラブルの元になり、社員の動揺も大きくなります。新人事制度を実際に運用する前にシミュレーションを行うとともに、可能なら試験的に一部の部署から導入して効果を検証しましょう。 シミュレーションでは問題なくても、実際に運用することで発覚する課題、業務上の障害になる点が発見できることがあります。 また新しい制度を導入するにあたっては、社員への周知と理解、協力を求める必要もあります。新しい制度で役割や待遇が大きく変わる社員の中には、導入に反対する人も現れるでしょう。一定の期間を設けて導入することや、理解を得るための説明を尽くすことが重要です。
制度の運用・評価
人事制度のシミュレーションで問題がなければ、実際に導入して運用、効果の評価も行います。社員に制度を理解してもらい、実際に運用してみてどう感じているか、現場の不満点や改善案などを提案してもらうことも大切です。社員の声を評価として反映し、制度の改善を継続的に行いましょう。実際に運用して初めてわかることも多いですから、定期的に見直しと評価を行い、ブラッシュアップすることが重要です。
人事制度を設計・改善するポイント
人事制度を設計・改善する際に重要な3つのポイントについて解説します。
現代の環境に合った設計にする
日本ではビジネスの世界でも高齢化が進み、多くの企業で若手社員が少なくなっています。定年退職後も再雇用で高齢者を雇用する企業も多く、70歳を過ぎても働く人は珍しくありません。しかし、多くの企業では高齢者雇用でそれまでの経験や実績を無視して、安い賃金で雇用する傾向があります。定年後の雇用はそれまでの人事制度とは別枠となり、等級制度もリセットされてしまうことが多いです。そのため、高齢者にとっては安い賃金で正社員と同じ働きを要求されることになり、仕事へのモチベーションを下げる結果につながっています。2025年4月1日以降は改正された高年齢者雇用安定法が施行され、定年制の廃止や定年後の継続雇用制度などのいずれかを選ぶことが義務化されます。人事制度を設計・改善する際は、継続雇用者の処遇まで踏まえたうえで、定年後の雇用まで含めた制度設計が求められるでしょう。
非正規雇用への待遇も改善する
非正規雇用とは、正社員以外の有期雇用契約を結ぶ社員のことです。アルバイトやパート、契約社員、派遣社員、嘱託職員などもすべて非正規雇用に分類されます。内閣府の調査によると、2020年の時点で就業者のうち男性の22.2%、女性の54.4%が非正規雇用であることがわかっています。非正規雇用はどの企業でも多く働いており、正社員とほぼ同じ業務内容をこなしているのが現状です。しかし非正規雇用の多くは正社員に比べると賃金が低く、福利厚生の面でも差別化されています。そのため厚生労働省には正社員転換・待遇改善実現本部や正社員転換・待遇改善実現チームなども設置され、非正規労働者も正社員と同一労働・同一賃金を実現するように、ガイドラインも設けられました。非正規雇用の社員は組織内で弱い立場にあることが多く、人件費の削減では優先的に契約解除されることが多いです。人事制度を設計・改善する際は、非正規労働者への待遇もあわせて改善することで、社員のエンゲージメントは高まり、生産性の向上につながるでしょう。
参考:内閣府 「男女共同参画白書 令和3年版」 「第1節 就業をめぐる状況
社員が納得できる賃金制度にする
人事制度を設計・改善する際は、社員が納得できる賃金制度を導入すべきです。日本は長年、年功序列・終身雇用制が当たり前とされてきたため、勤続年数の長い人ほど高い給与が得られる仕組みになってきました。しかし優秀な人材からすれば、経験年数よりも仕事での成果や能力で評価してほしいと考えるのは自然なことです。反対にベテラン社員からすれば、人事制度の変更で給与や賞与が下がるのでは不満を感じ、モチベーションを低下させることになりかねません。そのため人事制度を設計する際は成果給や能力給も含め、社員が働きに見合う報酬を得られる仕組みを作るべきです。注意すべき点としては、成果給や能力給を導入すると社員が個人プレーに走り出し、チームワークを乱すおそれがあることです。自社の企業理念や運営スタイルも考慮し、多くの社員が納得できる制度設計にする必要があります。
人事制度設計の成功事例
人事制度設計の成功事例として、グラフィックデザインソフトウェアで世界的に有名なA社についてみていきましょう。A社では2012年ごろまで、管理者が部下を上・中・下でランク付けする評価制度を設けていました。1年間の働きを評価するものでしたが、この方法は上司の主観が入りやすく、社員からの納得感が得られませんでした。その結果、A社では従業員満足度低下に悩まされていました。そこで次の人事制度と対策を実施しました。
・人事評価制度「チェックイン」の導入
・ランク付けの廃止(ノーレイティング)
A社の人事制度で目玉となったのが、チェックインの導入です。チェックインとは上司と部下が継続的に面談を行い、良好な関係性を構築することで成長を支援する制度です。上司が社員一人ひとりをフォローする体制ができたことで、生産性の向上につながりました。また従来のランク付け制度も廃止し、フラットな関係性で評価できるようにした点も大きいでしょう。チェックインも利用したことで、管理者が社員の特性に合わせた職務や役割を任せやすくなり、社員のモチベーションアップに成功した事例です。
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組織力の強化と安定的な経営を目指すために、組織マネジメントの理解を深めるならユーキャンにご相談ください。人事制度の設計には、経営者だけの考えではなく、社員の働きや組織課題を網羅する必要があります。現状の組織課題を的確に分析し、従業員とともに時間をかけて改善策を進めていくことが経営の安定化につながります。そのためには、組織課題を解決できるマネジメントスキルを持つリーダーを育てるとともに、その土台となる人事制度が不可欠です。ユーキャンの法人向け人材育成サービスなら、人事制度と制度設計への理解を促進し、企業を支えてくれる人材の育成に貢献します。
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まとめ
今回は人事制度とは何か、人事制度の種類、制度設計の手順、意識すべきポイントなどを解説しました。 人事制度は企業の根幹となる仕組みであり、組織の生産性を向上するための重要な要素でもあります。等級制度・評価制度・賃金制度などを自社に適した形に見直すことで、社員のモチベーションアップにつながります。ただし企業側が一方的に人事制度を変更するのではなく、社員にもヒアリングを実施したうえで、誰もが納得できる形にするのが理想的です。人事制度で組織力強化と生産性向上を図り、変化が求められる時代に勝てる会社を目指しましょう。