PM理論とは何か
PM理論とは1960年代に社会心理学者の三隅二不二が提唱したリーダーシップ行動論です。PM理論は「Performance(目標達成機能)」「Maintenance(集団維持機能)」の2つから成り立ち、それぞれの頭文字をとってPM理論と名付けられました。PM理論はPとMは2軸で表され、それぞれの分類に応じて4つのリーダーシップタイプに分けられます。
※関連リンク:リーダーシップとは? マネジメントとの違いやPM理論なども解説
別名「パパママ理論」
PM理論は「Performance」と「Maintenance」から成りますが、別名では「パパママ理論」とも呼ばれます。目標達成に必要な働きをパパ、チームに対する優しさをママとも捉えられるからです。
PM理論とSL理論との違い
PM理論と同じリーダーシップ理論には、SL理論というものもあります。
SL理論は1970年代に行動科学者のポール・ハーシーとケネス・ブランチャードが提唱しました。SL理論の特徴は、部下の状況に応じてリーダーシップのスタイルを変えることで、より効果的なマネジメントができるとするものです。一方、PM理論は目的達成や集団の維持に重点を置いているため、それぞれ活用シーンが違います。目標に向けてマネジメントするならPM理論、人にフォーカスしてマネジメントするならSL理論を活用するのが効果的です。
PM理論のP機能とM機能とは
PM理論におけるP機能とM機能にはそれぞれ意味があります。具体的な例をあげみていきましょう。
P機能(Performance function):目標達成のために新規顧客獲得を進める、目標達成のためにメンバーを指導・育成する
M機能:メンバーと積極的にコミュニケーションをとる、メンバーの働きや心情に配慮する
P機能の意味
P機能とは「Performance(目標達成機能)」を意味し、組織やチームで成果を挙げるために必要なリーダーシップのことです。P機能の具体例には次のものがあります。
・チームの目標達成・課題解決の方法
・指示によって生産性や業績を高めること
・メンバーを管理・統率するための指導
・納期を守るための進捗管理
・メンバーに対する叱咤激励
P機能が高い場合、チームの目標設定、計画立案、指示により業績や生産性が高まります。 具体的な行動として、計画が順調に進むようメンバーの行動を適切に管理し、確実な業務の遂行に注力することが挙げられます。他にも、必要に応じて部下の育成を行い、知識やスキルを高めることもP機能の1つです。
M機能の意味
M機能とは「Maintenance(集団維持機能)」を意味し、チームとしての働きやつながり、役割の調整などで必要なリーダーシップです。M機能の具体例には次のものがあります。
・メンバーへ配慮し、働きやすい雰囲気を作る
・メンバーの不満や悩みの相談を受ける
・メンバー間での衝突に関与して解決策を探る
・チーム内の出コミュニケーションを緊密に行う
M機能が高いほどチームの結束は強くなり、1つの目標に向けて高いモチベーションで進んでいくことができます。
PM理論の分類
PM理論では、 P機能とM機能の強さによってリーダーシップ像を4つに分類しています。
・PM型
・Pm型
・pM型
・pm型
それぞれのタイプについて紹介します。
PM型とは
PM型とはP機能とM機能の両方に優れ、最も理想的なリーダーシップのタイプです。目標達成能力が高く、メンバーの管理能力にも優れているため、成果を挙げられるリーダーといえます。 組織においては非常に優秀なリーダーであり、プロジェクトから人材育成、組織改革まで幅広い仕事を任せられる存在となるでしょう。また、PM型のリーダーの下で働くと、メンバーの仕事へのモチベーションも高まりやすいです。
Pm型とは
Pm型はP機能が高く、M機能が低いリーダーシップのタイプです。目標達成能力は高い反面、集団維持機能が低いことからメンバーの人間関係にトラブルを生じやすく、独裁的なリーダーになりやすいとされています。目標達成機能は高いことから、短期的なプロジェクトでは成果を残しやすく、結果だけを求める場合には優秀なリーダーです。しかし長期的な視点ではメンバーからの信頼度が低いため、チーム全体のモチベーション低下を招く可能性があります。チームのモチベーション低下は生産性の低下や人材育成の遅れにもつながり、さらにリーダーの独裁色が強くなるという悪循環に陥りやすいです。そのため、長期的なマネジメントを任せるのであれば、M機能を高めることが優先課題となります。
pM型とは
pM型はM機能が高い反面、P機能が弱く、集団をまとめる能力の高いリーダーシップのタイプです。集団をまとめる能力は高いものの、目標達成に向けた行動計画が甘くなりがちで、成果につながりにくいリーダーといえます。pM型は仲良しグループやお友達集団のリーダーになりやすく、マネジメント能力に課題があります。メンバーが積極的にリーダーに働きかけなければ、重要な決断や目標に向けた行動が遅くなり、チーム全体の生産性が低下しやすいです。またチーム内で馴れ合いになりやすく、目標達成に向けて行動する意欲が高まりにくいため、業務効率の低下を招くこともあります。
pm型とは
pm型はP機能・M機能の両方が低く、リーダーに不向きなタイプです。目標達成機能も集団維持機能も低いため、計画的な行動もできず、メンバーからも信頼されないリーダーになるでしょう。他のタイプに比べて学ぶべきことが多く、リーダーに任命する場合は、組織がしっかりとしたサポートをすることが前提になります。
PM理論の各機能を伸ばす方法
PM理論ではP機能とM機能の両方が高い人ほど、理想的なリーダーシップを持っているとされます。どちらかの機能だけが高くても、理想のリーダーにはなれません。こちらでは、PM理論の各機能を伸ばす方法を紹介します。
方向性を定めることでP機能向上につながる
P機能は目標達成機能ですから、ゴールを設定し、ゴールへ向かうための方向性を定めることが機能を伸ばす方法になります。チームマネジメントにおけるリーダーの役割は目標を設定し、行動の計画を立て、メンバーを率いていくことです。リーダーがチームの目指すべきゴールと方向性を定めることで、メンバーも目標が明確化できます。逆にリーダーが方向性を定めないでいると、チームメンバーが何をすればよいか各自で判断することになり、バラバラなチームになるでしょう。 リーダーがP機能を高めるには、チーム全体がゴールを共有できるように、わかりやすい方向性を示すことを意識すべきです。
目標達成に向けた行動を促す
リーダーがP機能を高めるには、目標達成に向けて具体的な行動を促すこともポイントです。P機能を高めるために目標達成の方向性を示した後、方向性に沿う形で具体的な行動計画を立てましょう。メンバーのスキルや個性を分析し、それぞれに合った仕事を割り振るのが効果的です。仕事を割り振る際は、メンバーに仕事への責任感を持ってもらい、完遂してもらうよう働きかけることも重要です。自分の仕事次第でチームの成果に影響することを認識させ、報連相を徹底させます。メンバーが自分の役割を正しく認識し、必要な行動を取れるように促すのがリーダーのマネジメントです。メンバーが迷わずに業務を遂行できるように、具体的な行動を示すことでP機能は高まります。
チームマネジメントスキルがM機能向上につながる
PM理論におけるM機能を高めるには、チームの雰囲気を向上させ、モチベーションを維持できるようなチームマネジメントスキルがポイントです。 業務を円滑に遂行し、目標を達成するP機能とは違い、M機能は目に見えにくい部分です。しかしM機能の低いリーダーの下では、メンバーは本来の能力を発揮できず、パフォーマンス低下を招きます。そこで重要になるのが、チームマネジメントスキルです。チームメンバーとの良好な関係を構築し、信頼されるリーダーになるには欠かせないスキルです。チームマネジメントの具体例を挙げると、メンバーへの声かけや評価とフィードバック、定期的な面談などがあります。チームマネジメントスキルの高いリーダーの下で働くメンバーは、「このチームに貢献したい」という意欲が高い傾向があります。目標達成だけを見据えるのではなく、チームとしての連携や人間関係も意識したマネジメントを行いましょう。
人間関係を大事にする
M機能を高めるには、チーム内での人間関係を大事にすることも重要です。 集団維持機能を高めるには、メンバー間の信頼関係と相互理解は欠かせません。
具体的にはチーム内でのミーティングや意見交換会、宴会、スポーツ大会などを開いてメンバー間のコミュニケーションを活発にすることです。メンバーの仕事以外の面を知ることで、心理的な距離は近くなります。またメンバー同士でも気兼ねなく話せるようになり、チームワークの活性化にもつながるでしょう。チームの生産性が低いと感じたときこそ、人間関係を見直すことでM機能を向上できます。
PM理論の成功事例
PM理論を活用して成功した2つの企業の例を紹介します。
国内大手電機機器メーカーA
国内大手電機機器メーカーAは、課題解決力が低く、集団維持能力の高いpM型リーダーが多いことが課題でした。企業としての成長が鈍化するリスクを抱えていたことから、課題設定力と課題解決力を高めるために独自の社内研修を実施しました。社内研修ではP機能を高めることに重点を置き、目標設定と目的意識、リーダーシップを高めることが主な内容でした。特筆すべき点として、社内研修の実施後、日立はイギリスで鉄道や原発建設などの大きなプロジェクトを成功させています。プロジェクト成功の背景には、PM型リーダーを育てる研修が良い影響を与えたとされています。
国内大手自動車メーカーB
国内大手自動車メーカーBでは、Pm型とpM型などのどちらかの機能が高いリーダーが多いことが課題でした。そこでPM型リーダーを多く養成するために、創業者であるA氏はP機能に焦点を当て、集中的な育成を進めました。また、側近であるC氏はマネジメントなどのM機能を高めることに力を入れ、P機能・M機能の双方を高めることに成功しました。このように2人以上が協力し、リーダーシップを発揮することを「共同の」という意味を持たせ、「コ・リーダーシップ(Co-Leader Ship」と呼んでいます。2人のリーダーによって、A者は世界的にも躍進することになりました。
PM理論の具体的な活用方法
リーダーシップを高めるためには、PM理論に基づいた具体的な行動を取る必要があります。本項では、PM理論を具体的に活用する方法を紹介します。
不足している能力・機能を分析する
PM理論は目標達成機能と集団維持機能というリーダーに不可欠な能力を判定し、どのタイプのリーダーに当てはまるか分類するものです。活用方法を変えれば、PM理論はリーダーに必要な能力を分析するツールにもなります。
例えば部下とのコミュニケーションがうまくいかず、M機能に課題を感じているなら、Pどのような行動を取るべきか明確化しやすくなります。また目標達成がうまくいかないのなら、P機能を高めるように行動したり、学習したりするのがよいでしょう。リーダー自身が新しいチャレンジを始め、学ぶ意欲を持てば、チームメンバーにも良い影響を与えられます。
コミュニケーションを取りやすい環境を整える
PM理論を活用すれば、組織の環境整備にも役立ちます。PM理論では組織に所属するリーダーの傾向を分析し、どのようなリーダーが多いのか具体的に把握できます。Pm型が多い一方で、pM型が少ないのであれば、分析結果を元にチーム内でコミュニケーションを取りやすい環境整備を進めやすくなるでしょう。またコミュニケーション自体は盛んでも、それを業務に活かせていない可能性もあります。組織のリーダーが抱える課題を分析し、良好なチームワークを構築する活用方法にもPM理論はおすすめです。
模範となるリーダーについて学ぶ
PM理論における理想的なリーダーとは、P機能・M機能の両方が高いタイプです。しかし、多くのリーダーはPm型やpM型などのどちらかに偏っており、理想的なリーダーは多くありません。そこでPM理論を活用し、組織内にいるリーダーシップのタイプを把握しましょう。そして、模範的なリーダーを参考に自分に足りないスキルを理解してもらい、具体的な行動に移してもらうことが重要です。具体例を知ることで自分と比較でき、理想のリーダーへと近づくことが期待できます。
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まとめ
今回はPM理論の内容や分類、伸ばし方、活用事例などを解説しました。 M理論は自社のリーダーのリーダーシップタイプを把握し、可視化できる理論です。 P目標達成のP機能と、集団維持のM機能という2つの軸に絞っている点も、理解しやすいポイントといえるでしょう。PM理論ではわかりやすいゴールと具体的な行動、メンバーとのコミュニケーションと連携がリーダーシップにおける大切な要素となっています。組織内で理想のリーダーを育てるためにも、PM理論を活用して人材育成に取り組みましょう。