福利厚生の基本情報
福利厚生の基本情報として、以下の3点を解説します。
- ・そもそも福利厚生とは?
- ・福利厚生の目的は?
- ・福利厚生の対象者は誰?
そもそも福利厚生とは?
福利厚生とは、企業が労働の対価として、従業員本人や家族に提供する「賃金以外の報酬もしくはサービス」のことです。ひと言で福利厚生といっても、多岐にわたります。具体的には雇用保険や健康保険、住宅手当などが当てはまり、独自の福利厚生を提供している企業もあります。
福利厚生の目的は?
「福利」とは幸福と利益のことで、「厚生」とは生活を健康かつ豊かにすることです。2つの言葉が意味するように、福利厚生のおもな目的は、従業員本人と家族の健康で幸せな生活の実現です。企業は目的達成のために、福利厚生制度を設定して多種多様な種類を従業員に提供しています。
近年では労働人口の減少や人材の流動化で企業の人材不足が深刻になっており、企業が抱える課題の1つとなっています。それとともに働き方改革が進み、ワークライフバランスや、さまざまなワークスタイルを希望する人材が増えています。企業は、優秀な人材の確保や自社への定着のために、時代の変化に合わせた福利厚生の整備・強化が求められています。
福利厚生の対象者は誰?
福利厚生は、正規雇用労働者だけでなく、契約社員やパートタイマーなどの非正規雇用労働者も含めたすべての従業員が対象です。現在、すべての企業において、同じ企業内で働く正規雇用労働者と非正規雇用労働者間の給与や賞与などの不合理な待遇差は禁止されています。
その根拠として、「同一労働同一賃金」を達成するために、2020年4月1日に改正・施行された「パートタイム・有期雇用労働法」と「労働者派遣法」があります。2021年4月1日からは、中小企業にも適用されています。
職務内容が同じであるにも関わらず、正規雇用労働者と非正規雇用労働者で違いがある場合には、是正しなければなりません。福利厚生もこの対象に含まれています。
福利厚生の2つの種類
福利厚生には、「法定福利厚生」と「法定外福利厚生」の2種類があります。法定福利厚生とは、法律によって実施が義務化されている福利厚生です。すべての企業で設けられており、ない場合は法律違反となります。具体的には、以下の6種類が当てはまります。
- ・健康保険
- ・介護保険
- ・厚生年金保険
- ・雇用保険
- ・労災保険
- ・子ども・子育て拠出金
法定外福利厚生のおもな例
法定外福利厚生のおもな例として、以下の7点を解説します。
- ・通勤・住宅の支援
- ・健康・医療の補助
- ・育児・介護の補助
- ・慶弔見舞金制度
- ・自己啓発の援助
- ・文化・体育・レクリエーションの補助
- ・財産形成の支援
通勤・住宅の支援
従業員の自宅からの通勤、住宅の家賃や住宅ローンにかかる費用を補助するものです。「通勤手当」や「住宅手当」の名称で補助されるものが一般的です。
通勤手当は、従業員の通勤、または出張にかかる交通費を支給します。住宅手当は、従業員の住宅にかかる費用を補助するものです。企業によって、職場からの距離や勤続年数など、多種多様な条件が設定されているケースがみられます。
その他の支援として挙げられるのは、企業が賃貸物件を借りて従業員に貸し出す「借上げ住宅」や、企業が保有する物件を従業員に貸し出す「社有住宅」です。また、従業員が抱える住宅ローンを補助する「持家援助」といった支援もあり、企業ごとに、多様な通勤・住宅支援を法定外福利厚生として設定しています。
健康・医療の補助
従業員の健康促進やヘルスケアのためのものです。「人間ドックの費用補助」や「運動インセンティブ」などの名称が一般的です。人間ドックの費用補助は、従業員が人間ドックを受診する際の費用を補助します。
運動インセンティブとは、従業員が健康維持のために運動すると、歩数やイベントへの参加に応じてインセンティブとしてポイントが付与され、貯まったポイントは商品と交換できるといったものです。その他には、インフルエンザをはじめとする予防接種の費用補助、企業内の医務室設置、フィットネスクラブやトレーニングジムの費用補助などがあります。
育児・介護の補助
従業員の育児や介護の費用を補助したり、負担を軽減したりするものです。子どもが3歳になるまでの短時間勤務制度を独自に延長したり、社内やオフィスの近くに従業員用の託児所を設置したりするものが一般的です。
短時間勤務制度は、育児・介護休業法によって導入が義務付けられているものですが、より適用範囲を広げた、独自の制度を設けている企業がみられます。独自の育児休暇や、ベビーシッターの費用補助を実施する企業もあります。また、近年では男性従業員の育児休暇を促すケースが増えています。
慶弔見舞金制度
従業員本人や家族にお祝い事やお悔やみ事があった際に、現金を支給する制度です。企業としての心遣いを示すためのものです。一般的には、結婚や出産時のお祝い金や傷病によって仕事を休んだ際の見舞金、従業員本人や家族が亡くなったときに支給する弔慰金などがあります。
一般的に結婚時は2~3万円、出産時は1~2万円が相場です。その他にも独自の制度として、災害によって被害を受けた際の災害見舞金や、昇進した際の昇進祝い金、従業員の子どもの入学祝い金・成人になったことのお祝い金などを設けている企業もあります。
自己啓発の援助
従業員の自発的なスキルアップや成長を支援するものです。業務に関する資格取得の費用を負担したり、eラーニングや通信教育の費用を補助したり、知識を得るための書籍の購入を補助したりします。身に付けた知識を業務に活用してもらうことで、企業にとってもメリットがあるでしょう。
基本的には、業務に関係する国家資格や民間資格の受験料負担、知識を学ぶための費用補助ですが、業務に関係しない内容でも一部費用を負担する企業もあります。外部から講師を招いてセミナーを開催したり、勉強会を実施したり、留学や海外研修を支援したりといった援助も、法定外福利厚生に含まれます。
文化・体育・レクリエーションの補助
従業員間のコミュニケーションを活性化させたり、心身のリフレッシュを目的としています。一般的にみられるのは、社内での忘年会・新年会・歓迎会などの親睦を深める社内懇親会の費用や、従業員本人や家族が飲食店や宿泊施設を利用する際の費用の補助です。
社内に部活が設けられている企業であれば、グラウンドの利用費やユニフォーム、道具などの活動にかかる金額を補助します。企業によっては、社内で旅行を開催したり、企業全体での運動会を実施したりといった、社内イベントの開催費を負担するケースもみられます。
財産形成の支援
従業員の財産形成を支援するものです。従業員の持ち株制度や、財形貯蓄制度が一般的でしょう。従業員持ち株制度は、給料から天引きする形で従業員が自社の株式を購入・保有し、額に応じた配当金を得るものです。
財形貯蓄制度は、勤労者財産形成促進法を根拠として退職後の生活安定や住宅取得などのために、従業員の給料から天引きし、金融機関で貯蓄するものです。その他にも従業員の老後を考え、個人年金の一部負担や、確定拠出年金制度、社内預金制度、金融関係のセミナーの実施などを導入している企業もみられます。
福利厚生導入のメリット
福利厚生を導入するおもなメリットである、以下の5点を解説します。
- ・求人への応募者増加
- ・従業員満足度の向上
- ・労働生産性の上昇
- ・従業員の定着率向上
- ・イメージの向上
求人への応募者増加
職を求める多くの人は、新卒でも既卒でも企業の待遇面を比較して選ぶ傾向があります。賃金だけでなく、福利厚生も含めた待遇を比較材料にする人が多いため、企業は福利厚生を充実させることで他社との差別化を図れるでしょう。
福利厚生の充実度は、企業が従業員をどれほど思いやっているかの指標になります。充実している企業は、働きやすいというイメージを持たれやすくなります。採用の募集をかけた際に人気になりやすく、多くの人材が集まりやすくなるため、優秀な人材を獲得するチャンスも増えるでしょう。
従業員満足度の向上
従業員が求める福利厚生を積極的に導入し充実させることで、職場環境が改善され、ワークライフバランスの向上が目指せます。福利厚生の拡充によってプライベートが充実することで、リフレッシュを図れ、仕事に集中しやすくなるためです。
福利厚生が充実している企業は、充実していない企業と比べて従業員の愛着が強い傾向がみられます。ひいては、自社への従業員満足度の向上や帰属意識につながります。自社に対して満足している従業員は、仕事へのモチベーションが向上することにより、従業員それぞれが持つ能力を最大限発揮しやすくなるでしょう。
労働生産性の上昇
心身が健康で充実していれば、従業員は毎日の業務を高いレベルで進められます。健康を維持・促進したり心身をリフレッシュしたり、ワークライフバランスを常に維持できたりするような福利厚生を導入することで、仕事へのモチベーションが向上します。
心身ともに健康で自社に対して満足している従業員は、自社に貢献したいという意欲も高まるため、労働生産性の上昇が期待できるでしょう。一方で、適切な福利厚生を導入せず、心身のリフレッシュが難しい労働環境では、従業員の労働生産性は高くならないでしょう。
従業員の定着率向上
従業員満足度が向上すると自社への愛着が増し、従業員の定着率向上、離職率の低下が期待できます。従業員が辞める理由はさまざまですが、労働環境に対する不満が理由のケースも多くみられるためです。従業員の満足度が低い職場では、待遇のよい競合他社に優秀な人材が引き抜かれることもあります。
新たな人材の確保には多くの時間とコストが必要になり、企業にとって早期の離職はダメージが大きいでしょう。多くの従業員が希望する福利厚生を把握し、導入・維持することで自社に対する愛着を強めることが期待できます。
イメージの向上
以前は顧客満足度を重視する企業が多い傾向にありましたが、働き方改革が進んだ近年は福利厚生の重要性が増しています。従業員満足度の向上を重視して、福利厚生を充実させ、従業員を大切にする企業が増加しています。
福利厚生が充実している企業は「従業員を大切にする企業」、「労働環境の改善を進めている企業」というイメージになり、ブランディングにも活用できるでしょう。施策によって違いはあるものの、福利厚生の充実には一定の費用がかかるため、経営が安定している企業というポジティブなイメージにもつながります。
福利厚生導入のデメリット
福利厚生の導入にはデメリットもあります。おもな3点を解説します。
- ・コストの発生
- ・利用率の個人差の発生
- ・管理の手間の発生
コストの発生
かかる費用は福利厚生の内容によって異なりますが、新たな福利厚生を導入・充実させるほどに、コストが発生します。内容によっては、導入するコストだけでなく運営するコストが継続的にかかることもあります。
法定福利厚生に含まれる社会保険料は増加の一途をたどっており、基盤の小さな中小企業や資金力の乏しい企業は、法定外福利厚生を充実させることは難しいでしょう。新たな福利厚生を導入する際には、かかるコストと効果のバランスを検討したうえで行いましょう。
利用率の個人差の発生
福利厚生の内容が特定の分野に偏ると、利用率に大きな個人差が発生しやすくなります。たとえば、宿泊施設やレジャー施設などの費用支援制度は、旅行好きの従業員でなければ利用する機会は少ないでしょう。同じように、スポーツの費用補助制度や観戦支援制度は、スポーツ好きの従業員でなければ、魅力的に感じられません。
従業員満足度の向上には不公平感がなく、多くの従業員にとって嬉しい福利厚生を充実させることが重要です。ただし、好みはそれぞれであり、企業の規模が大きいほどすべての従業員のニーズに応えるのは厳しいと、理解しておきましょう。
管理の手間の発生
一般的に、福利厚生は人事部門や総務部門が管理・運営します。福利厚生の充実には企画や運営が必要であり、充実するほど担当者の負担は大きくなります。近年では担当者の負担を考慮して、福利厚生の管理・運営を代行するサービスを利用する企業も増えつつあります。
プロに委託することで効率的に福利厚生を充実させられるため、担当部署の人数が限られる企業は活用を検討してみてはいかがでしょうか。
また、従業員の好みが変化したり、時代の変化でニーズが変化したりした場合は既存の福利厚生を廃止して、ニーズの大きな施策に経営資源を振り分けることも必要です。ただし、その際は従業員に説明し、理解を得てから実施しましょう。
福利厚生費用の目安
企業の法定福利厚生と法定外福利厚生の運用費用について、項目別に目安を解説します。
法定福利厚生の目安
法定福利厚生の運用にあたり、従業員1人あたりの企業の負担額の目安は以下のとおりです。
- ・健康保険・介護保険:月額27,000~32,000円程度
- ・厚生年金保険:月額42,000~48,000円程度
- ・雇用保険・労災保険:月額4,500~5,300円程度
- ・子ども・子育て拠出金:月額1,500~1,700円程度
法定外福利厚生の目安
法定外福利厚生の運用にあたり、従業員1人あたりの企業の負担額の目安は以下のとおりです。
- ・住宅:月額6,000~12,000円程度
- ・通勤:月額9,000円程度(給与総額に含まれる通勤手当も含む)
- ・健康・医療:月額1,600~3,700円程度
- ・育児・介護:月額500円程度
- ・慶弔・災害:月額500~700円程度
- ・文化・体育・レクリエーション:月額1,100~2,300円程度
- ・財産形成:月額300~1,200円程度
福利厚生の2つの導入方法
福利厚生の2つの導入方法は、以下のとおりです。
- ・自社で導入・提供
- ・福利厚生代行サービスの活用
自社で導入・提供
通勤手当や住宅手当など、金銭的な福利厚生は自社でも導入しやすいでしょう。規模の大きな企業では「共済会」を設立し、財源を確保するとともに金銭的な補助を提供しています。共済会とは、企業と従業員が資金を出し合い財源とするシステムです。自社内での取り組みが必要で費用がかかるため、中小企業にはあまり向きません。
福利厚生代行サービスの活用
近年、福利厚生の導入を代行する「福利厚生代行サービス」が増加しています。自社での導入が難しい内容は、代行サービスへの依頼がおすすめです。具体的には、宿泊や旅行の補助、健康増進、スポーツ活動支援などが適しています。
まとめ
福利厚生には、義務化されている法定福利厚生と、企業が任意で導入する法定外福利厚生の2種類があります。近年は法定外福利厚生を充実させて、従業員の満足度を高めようとする企業が増加しています。
ユーキャンの企業向け人材育成・社員研修は、150種類以上のラインナップを誇っています。テキスト&スマホを使った効率的な学習ができ、ご担当者様に負荷をかけない学習管理システムが構築されています。福利厚生の充実を検討している企業は、従業員のスキルアップや自己啓発の支援として導入を検討してはいかがでしょうか。