2021年08月23日
コロナ禍において、対面で行ってきた社内コミュニケーションを急遽オンライン化せざるを得なくなったことで、「精神的ストレス」を抱えていらっしゃる方が増えているのではないでしょうか。HR総研(ProFuture株式会社)が2021年3月に実施した「社内コミュニケーションに関するアンケート2021」※1によると、約4割の企業が、「コロナ禍において社内コミュニケーション状況が悪化している」と回答しています。
そこで今回は、仕事におけるストレスの性質の変化やその対策について、研修講師だけでなく産業カウンセラーとしても活躍する北原講師にお話を聞いてみました。
講師プロフィール
北原 悦子講師
人と関わる仕事を経験後、サントリーマーケティングスタッフとして担当店へ訪問(酒類担当)業務に就く。店頭での販促営業活動と共に新人活動指導及び事務所内経理を勤める。平成6年にサントリーと業務委託契約を結び、講師として個人事業主となる傍ら、司会業(婚礼、イベント、お天気キャスター)にも携わる。
人材育成に関わる中で、研修は受講者が様々な気付きを深める場と心得、参加型の研修を実践している。常にわかりやすい言葉を選び、易しいことは深く、難しいことを簡単に伝える事を実践し、「わかった」から「出来る」への道筋を意識した研修や講演を行っている。
ストレスの性質変化という点においては、リモートによる在宅時間が長くなったことが主な要因として考えられます。 ストレッサー(要因)は大きく2つに分かれ“会社(仕事)の問題”と“プライベートの問題”があります。
具体的な要因
◆ 会社(仕事)の問題
・業務に必要となる機器やネットワーク環境が不足している状態で業務対応しなければならないことがある
・直接会話をする、あるいは内線などで気軽に出来ていた確認や質問がしづらくなり、部門間・事業所間での報連相に支障をきたす
◆ プライベートの問題~ここでは主に家庭内~
・食事の準備や片付けにかける時間(例:調理や後片付けが昼食時間に含まれることにより休憩時間が減る)
・家事のバランス変化 (片方に負担が偏っている又は著しい負担の増加)
・仕事のスペースを確保する必要がある
・自宅が職場となるため、プライベートと業務の切り替えが曖昧になる可能性がある
このように、コロナ前には顕在化していなかったストレッサー(要因)が、浮き彫りになったのではないかと感じます。また、職場での雑談やコミュニケーションなど、これまで気軽に出来ていた無意識のストレス解消ができなくなったという点では、ストレス対処の方法に変化を持たせなければならないと感じていらっしゃる方が多いです。
元々の気づきにくさに加え、リモートワーク下では、皆が同じような状況であると自分に言い聞かせ、我慢をしてしまう方が多くいらっしゃるようです。体調不良で朝起きられなかったとしても、裁量労働の割合が高いリモートワークでは、労働時間をシフトすることで調整が出来ます。裁量労働というと聞こえは良いですが、我慢をしている自分に気づく機会を逃すこともあります。そして、孤独感があるということからも周りの気づきの機会を逸しています。
また、3密回避による外出自粛で、ストレスにつながるということは少なくないと思いますが、逆に外に出ないのが当たり前になったことで、「出たくない状態」になっている自分に気付くことができていない といったことが考えられるのではないでしょうか。
コロナ前の生活習慣をなるべく崩さないようにすることが大事です。普段何気なく行っていた生活習慣が崩れてしまうことにより、不調に陥ることも少なくありません。特に以下のような点に気をつけましょう。
メンタル不調にならないためのセルフケア
・規則正しい生活を心がけること(食事や運動など)
・ネットなどの情報に頼りすぎ、振り回されないこと
・自分の出来ること、やりたいことを見つけること(自分が出来る範囲のこととし、決して無理はしないこと)
・これまでに培ってきたコミュニケーションをないがしろにしないこと
・人に頼ること
・自分のことを認めてあげること、自己肯定感を上げること
メンタル不調にならないためのラインケア
人と話す機会が減るということは、人の話を聴く機会が減るということです。メンタル不調に陥っている方に対しては、声かけが重要です。同僚との雑談や声かけの時間を無駄と一蹴せず、日常的な会話の大切さを理解し、意識して時間を作ることで、周囲の方のメンタル不調に気づくことができるでしょう。
あくまで一例ですが、私が担当した研修でご好評いただいた事例を挙げます。
・1on1をリモートでも継続いただく
・相談窓口を強化いただく
また、研修以降、定期的に実施しているストレスチェックの時期を前倒しにして実施されたというお話もお聞きしました。自分自身のストレスに気づきにくくなっているので、そうした対応を行うことで、会社として従業員の実態を把握することも大切です。メンタル不調はその症状が目に見えづらいことから、他者からはなかなか気付きにくいものです。ストレスチェックなどで、変化が著しい方などは、産業医と連携を取りながら、対応することも良いと思います。 ストレス反応は人によって千差万別です。ストレスにさらされることで、様々な症状が表れます。
具体的なストレス反応
精神面 |
やる気が起きない、感情の起伏がなくなる、表情がなくなる、抑うつ感、不安感など |
身体面 |
頭痛、発熱、胃痛、下痢、食欲不振、疲労感、不眠など |
行動面 |
遅刻、欠勤、仕事の効率低下、過食、過度の喫煙など |
ケアの手段は個々により大きく異なります。無理をしてやらないこと。出来そうなことをやってみて自分に合うものを見つけ出してください。
症状が現れた場合のセルフケア
・質実共に休みを取る(休暇、休養)
・ぼーっとする
・リラックス(マッサージや入浴など)
・熱中できる事や好きな事をやる
・人と話す
・睡眠をとる
・専門機関への相談や受診
症状が現れた場合のラインケア
・必要な存在であることを伝える
・話しを聴く(何にストレスがあるのか 働き方や休暇の希望など)
・仕事の質や量の把握
・職場の支援やコミュニケーションの維持継続
・相談に乗る、あるいは相談先を紹介する
・必要に応じアドバイスはするが指示はしない
・質問に対し回答やフィードバックを迅速に
・仕事とプライベートの時間の区分けに注意する(労働時間の管理・ワークライフバランス)
・休暇の要求があった時に対応できるような準備調整
・コミュニケーションツールを限定しない
ラインケアには、症状が現れる前から取り組むことができるよう、日頃から意識して実行できることも含まれています。なお、セルフケアと同様(相手に)無理のない範囲でというのが基本です。また、症状が出た後は敏感になっていることが考えられますので、コミュニケーションにあたっては言葉の選択にも十分な注意が必要です。
新型コロナウイルス感染症拡大が長期化し、ストレスを抱える方が増えています。先に挙げたセルフケア、周囲の気づく目と適切な対処で、メンタル不調を事前に防ぐことが重要です。ストレスとうまく付き合いながら、広い視点を持って過ごしていきましょう。
※1:出展:HR総研:社内コミュニケーションに関するアンケート2021 結果報告 https://www.hrpro.co.jp/research_detail.php?r_no=29