2021年08月16日
ウイルス感染拡大の早期収束が見込めないことから、企業はWithコロナ時代における新しい働き方を模索しています。
HR総研※1 (ProFuture株式会社)が2020年8月に実施した“今後の働き方に関するアンケート調査”によると、「テレワークの継続実施の予定」について、「全社員を対象に継続的に実施していく」が35%、次いで「限られた社員を対象に継続的に実施していく」が32%、「対象者を拡大し、継続的に実施していく」が29%となっており、これらを合計すると96%もの企業が「継続的に実施していく」という方針を示しています。
そんな中で、新たな課題として私どもに多くご相談をいただくのが、テレワークにおけるマナーの問題です。今回のインタビューでは、Withコロナ時代におけるマナー研修において、どういった変化が生まれたのか?マナー講師としても活躍している菅谷講師にお話を聞いてみました。
講師プロフィール
菅谷 正美講師
日本航空株式会社において、客室乗務員、インストラクター、管理職として約32年勤務。安全と顧客サービス品質の向上に取り組み後進の指導にあたる。皇室、首相特別便を乗務。客室マネジャー、室長を経て、これまでのホスピタリティ領域での実務経験を学術的に体系化すべく、法政大学大学院イノベーションマネジメント研究科入学。 MBA取得後、人材マネジメントを支援する会社、株式会社SINFONIA CONSULTANTSを設立、代表取締役就任。民間企業のみならずJICA等の行政との協業や海外に展開する日系企業及び海外企業・行政の人材育成に関わる包括的な支援を実施。
研修では、新入社員から管理職に至るまで、長年の人材育成・マネジメントの実体験に基づいた実践的な研修を行っている。新入社員教育では、長期的な人材育成の観点から、主体的に取り組む姿勢を引き出すことを重視。「わかる」から「できる」、「気づく」から「行動する」 を目標とした研修を行い好評を得ている。海外においては、日本の知見を現地で活かせるかたちで伝えている。
まず前段として、Withコロナ時代であってもマナーの根本的な考え方は変わりません。ただ、テレワークがしばらく続いているからこそ、マナーの重要性を再認識されたとおっしゃる企業様が多いように感じます。この春、新入社員向け研修において、オンライン会議の基本ルールや、リモートにおけるコミュニケーションのポイントなどを扱ってほしいという要望を多くいただきました。
昨年は、初の緊急事態制限のため、やむを得ず集合研修を中止、あるいは延期したということが多かったですが、今年は何とか対面で研修実施したいとお考えの企業様が多かったですね。特に、お客様と対面でコミュニケーションを行う職種の場合、昨年は非常に厳しい一年となったのではないでしょうか。
ただ、研修実施の要望が増えたとは言え、感染リスク回避についても考えなければならないので、eラーニングと対面を組み合わせたハイブリット研修も実施しました。コロナ前だと、マナーの研修をオンラインで行うということ自体が珍しいケースだったと思います。コロナ禍においては、インプットで済ませることが出来る研修と、アウトプットで実施した方がより効果が得られるものの棲み分けを行うことで、感染リスクの回避以外にも、最適化を図るという動きが顕著だったように感じます。
マナー研修は、実践とフィードバックが重要です。オンラインの場合は受講生の本心が見えづらいので、キャッチボールを行うこと・微妙な表情の変化・動きの変化を見極め対応することがとても重要です。
テレワークの際、誰しもオンライン会議ツールを利用されたことがあるのではないでしょうか?オンライン会議ツールには、投票やグループワーク、チャットなど便利な機能が備わっていますが、この機能に走りすぎると受講生の思考を中断させてしまうことがあるため、グループワークを実施する際、研修の序盤は人数を少なく、後半になるにつれ徐々に増やしていくなど、講義の流れに緩急をつけています。機能の活用頻度が高いと、マナーというよりPCの操作に意識が向いてしまうため、研修に参加しているという緊張感や当事者意識が薄れてしまうことが、要因の一つに挙げられるのではないかと考えます。
一方で、昨今の新入社員は、身体で覚える、というよりもまずは理論として頭で理解し、その後行動に移す、という方が増えているように感じます。ですので、インプットとアウトプットのバランスを上手く調整しながら、個々が理論を理解したうえで動けるよう指導するよう努めています。
マナーは相手と自分が気持ちよく過ごすためのものです。この考え方はコロナ前後で何ら変わりません。ビジネスにおいて、気配り心配りを目に見える形で表すのがマナーです。
マナーが身についていなくても戦略を立て数字さえ稼げれば良い、という考えの方もいらっしゃるかもしれませんが、相手をリスペクトして相手のために行動する、人と人との付き合い方の基礎にマナーが必要であって、数字として現れないながらも大きな影響力を持っています。リモートであってもこの本質は変わらないと考えます。
オンラインで研修を受講された方から、「リモートワークにおいて、相手の状況や気持ちを汲みとるが難しい」とご相談をいただくことがあります。日本では、察する文化、阿吽の呼吸、行間を読む力が美徳とされることもありますが、リモート、特にビジネスの場においては、そのハードルも高くなるでしょう。自分の勝手な思い込みで良かれと思ってとった言動が、予期せぬ混乱を招いてしまうかもしれません。そうならないために、相手の立場や状況を正確に把握し、意図や気持ちをきちんと理解することが重要です。
また相手の状況によって、コミュニケーションツールを使い分ける必要があります。例えば緊急を要する事柄は電話とメールの両方で、相手の手が離せない時はメール、相談事は相手の希望に合わせるなど、TPOに応じてツールを使い分けましょう。最近では便利なチャットツールが増えていますので、活用すると良いでしょう。その上で、把握が曖昧な時は齟齬や誤解の無いよう、「私はこう捉えましたが、合っていますか?」と必ず確認しましょう。相手の状況を正確に理解するための確認作業もまた、マナーと言えるのではないでしょうか。
リモートでのビジネスコミュニケーションが日常化する中、相手への配慮を忘れずに、ビジネスの基本であるマナーを実践していただきたいです。